#64 勝てない彼女の倒し方 fine(フィーネ)
火頂燈監(カチョウヒカン)ムワピゥュィや鬩頂冂現(ゲキチョウキョウゲン)リヴィヴェエリスは、レルリラ姫を領主特務塔の中に行かせまいと追おうとしたが、対戦中のガンマ、アルシャーナにそれぞれ阻まれて追うことが出来ずにいた。
一方、牙戦陸尉(がせんりくい)アトマック達は、逆に総大司教ヌヌセちゃんに、こう提案されていた。
「ひとりで行った姫が…気になるのれす。戦いの続きは特務塔の中でやりませんれすか?」
足元で光り輝く聖泉陣(セイセンジン)と彼女の周りをくるくる回る聖泉(セイセン)の虹蛇(ウァナンビ)・ユールルに守られながら、総大司教ヌヌセちゃんがそうアトマックに呼びかけた。
牙戦陸尉(がせんりくい)アトマックはアトマシーンのコクピットの中で、はて? と首を傾げた。
「わたしも…レルリラ姫を塔の中にむざむざ行かしたくはないわ…。総大司教の提案、あなたたちはどう思う?」
アトマックが部下のアトメイト1~4号に相談した。
そこで、アトメイツは口々に提案をした。
「・・・アトマック陸尉、提案に乗ってはいけません」
「そもそもこの神機(ジーク)アトマシーンは、二六ナメトルもあるので特務塔に入れません」
「それは困ります、入れないのに無理に入ったら、なんと塔が壊れてしまいます」
「も、もしやそれが総大司教の狙いなのでは」
「つまりもしや、うっかり二六ナメトルの神機を塔の中に招いて、でも入れないので塔を壊してしまうことによって邪雷王様復活を阻むという非常にテクニカルな作戦なのでは!」
「違うでしょ」
「まどろっこしい!」
「おそるべし総大司教!」
「まどろっこおそるべしい!」
「造語だ!」
「まどろっこおそるべしい総大司教!」
「じゃあ入るのはやめましょう」
「そうしましょう!」
「そうしましょう!」
「つまり話を総合すると、この神機(ジーク)は二六ナメトルもあるので、このまま入ったら塔が壊れてしまいます。ではどうしたらいいかというと、なんと、我々は塔に入らない。そうすると、なんと塔も壊れない…。ということがわかりました」
「こいつの説明もまどろっこしいですね」
「それに塔が壊れたら邪雷王様にきっと怒られてしまうでしょう」
「こらー! だめじゃないかー! 塔を壊したらー! 罰として服を脱げー!ってきっと邪雷王様は言うでしょう」
「邪雷王様そんなキャラじゃないですよ」
「まあ、そう言ったら個人的に盛り上がるなーって思ったので」
「絶対言わないと思います」
「私は邪雷王様に怒られるのはいいのですがきっとアトマック様も怒られてしまいます」
「こらー!アトマック、だめじゃないかー! 罰として服を脱げー! って言うでしょうね」
「脱げー、その下も脱げー! そうそう、そうだ、その調子だー! って言うでしょうね。実際には絶対言わないですけど」
「もっと恥ずかしそうな表情で脱げー! って言うかもしれません。微粒子レベルの可能性で」
「そんなキャラじゃないですよね」
「絶対違うと思います」
「どちらにせよ、そんなことはあってはなりませんアトマック陸尉」
「どちらもそちらもないのですが」
「いけないのでそんなことにならないよう、わたしはその様子をえっちなイラストに描こうと思います」
「こらー!」
「だめじゃないかアトメイト4号ー!」
「はい」
「という意見ですがいかがでしょうかアトマック陸尉! 入るのはやめましょう!」
「そうしましょう!」
「そうしましょう!」
「…わかったわ…」
そこでアトマックはアナウンスのスイッチをONにした。
「…特務塔に入るわけにはいかないわ、総大司教…。わたしたちの使命は邪雷王様を守ること。…塔に、わざわざあなたたちを入れるわけにはいかないわ…!」
と、アトマシーンのコクピットから外に向けてアナウンスが響き渡った。
でかいので入れないとかは、わざわざ言わない。
「わらひのことはヌヌセちゃんって呼んでほしいのれすけど…。
それは置いておいて、じゃーあ、ここで、さっさと倒しちゃうしかないれすねぇー」
と言ってヌヌセちゃんは指をポキポキ鳴らして見せた。
別に拳で戦うキャラではないのだが。
「そうはいかないわ…、じゃあこれをプレゼントしましょう…そうしましょう…」
アトマシーンは、ぎゅーん、と砲台をヌヌセちゃんに向け、蓄積させた魔法エネルギーを撃ってきた。
「アトマシーン・キャノン!」
ドウッ! と轟音とともに向かい来るエネルギー弾である。
「虹蛇防壁(ウァナンビ・アミナ)!」
「シャーッ!」
すかさず、迎い受けるヌヌセちゃんとユールルが防御の一手を指す。
猛烈な勢いで向かったアトマシーン・キャノンの放火だったが、防壁に触れるやいなや、まるでガスコンロの火を消すかのように、ひゅんっとその砲火は消えた。
聖泉陣(セイセンジン)とユールルの精霊力の相乗効果による鉄壁の防御の前では、アトマシーン・キャノンもものの数ではなかったのだ。
「ではこちらからも、ゆくのれす…! いでよ聖泉の錫杖(しゃくじょう)、モハディス・ナフラ・カッカラー!」
ヌヌセちゃんが手のひらを高く掲げると、しゃーん! という荘厳な音色と共に、聖なる錫杖が現れた。
錫杖というものは柄の長いものと短いものがあるが、このモハディス・ナフラ・カッカラーは槍のように長いタイプである。
その錫杖には遊環(ゆかん)と呼ばれる輪が複数ついており、しゃーん、と、それは良い音を立てて偉大なる総大司教の功徳を周囲に知らしめるよう、響き渡った。
「シャ―ッ!」
ヌヌセちゃんの周りをまわっていたユールルがヌヌセちゃんの右側に移動した。
ヌヌセちゃんは威力増強の三枚のお札を宙に浮かせると、魔力(フォース)が湧き上がって足元の聖泉陣(セイセンジン)がこぽこぽこぽこぽ…と白い光の水疱を上げ、水疱たちが浮き上がり螺旋のように旋回しはじめた。
しゃーん!
聖泉の錫杖モハディス・ナフラ・カッカラーの先端の遊環(ゆかん)が光り、魔力(フォース)が解き放たれた。
「はあああああっ…!!!!
…呪文(スペル)・潮水陣(ウォルセイバー)!!!!」
ヌヌセちゃんが勢いよく水系攻撃魔法を唱えると、切断力と破壊力の伴う水圧の波涛(はとう)が一気に堰をきった。
ヴォシュゥウォァアアアアァァ―――ッ!!!!!!
「…効かないわ、そんな魔法…だってわたし…魔王だもの…」
「…効かない…っ?」
アトマシーンの周囲に薄く透明な防壁のようなものが浮き上がり、ヌヌセちゃんの潮水陣(ウォルセイバー)を寄せ付けないでいるのだ。
「…そうれすか…。…了文ッ!」
と、ヌヌセちゃんは潮水陣(ウォルセイバー)を切り上げた。
するとすかさずユールルが再び戻り、ヌヌセちゃんのまわりをまわり始めた。
「でも、わらひにもそのくらいの知識はありますのれす…。効かないのは…あなたが魔王だからではなく…それが神機(ジーク)だから、れすね?」
「あら…。…なんでそのようなことを言えるのかしら? …アトマシーンパンチ…!」
「シャ―ッ!」
と、虹蛇防壁(ウァナンビ・アミナ)がパンチをはじき返した。
「基本的に、神機(ジーク)を倒せるのは神機(ジーク)しかないと言われているそうれすね。
まあそれなら神機(ジーク)の主人を倒せばいいという話もありますれし、ケンヤ様たちはそうやって先日あなたたたちを一度倒したそうれすが、それは別として」
「…なんだ、知っていたの…。よくご存じね…。…アトマシーンキック…!」
ヌヌセちゃんの聖泉陣(セイセンジン)が光り、アトマシーンのキックは空振り宙を切った。
「だけど…ものには限度というものがあると思うのれす。
ほんとに神機(ジーク)は神機(ジーク)にしか倒せないのか…、この世界に名だたる総大司教の全力というものを試させてくらはい!」
錫杖が、シャ――ン! と鳴り、ぶわっと気が舞った。
そして十数枚ほどのお札が宙を舞い、ヌヌセちゃんの攻撃力を増強させた。
だっ、とヌヌセちゃんが駆けだすと、聖泉陣(セイセンジン)とユールルはそのままヌヌセちゃんについてゆく。
シャァアアアアアン!と音色が響き渡りながらエネルギーと衝撃がアトマシーンの頭上から叩きつけられた。
「錫N払(スズンフツ)!!!!!!」
ドグォオオオオッ!
聖泉の錫杖モハディス・ナフラ・カッカラーが必殺の杖法(じょうほう)でアトマシーンを打ち据える衝撃音が響いた。
だが、なにも破壊できていなかった。
アトマシーンの周囲は薄く透明な防壁に阻まれていて、アトマシーンの装甲にはまったくダメージが通っていないのであった。
「なるほど…これが…神機(ジーク)なのれすね…!」
「互いに空振りばかりではどうにもならないわ…そろそろくらってくれないかしら…?
…アトマシーンハンマー…!」
「…アトマシーンエルボー…!」
「…アトマシーンニードロップ…!」
「…アトマシーンヘッドバット…!」
次々からアトマシーンの攻撃が繰り出されてゆく。
「おっことわりなのれす!」
ヌヌセちゃんは避けたり、ユールルや聖泉陣(セイセンジン)で弾いたりしながらアトマシーンの攻撃を無効化してゆく。
「ではあなたはカンパンにしましょう…。そうしましょう…。
カンパカパンパカパンカパパンカパ…。
超呪文(ネオスペル)!
乾麺麭砲(アトマックカンパミラージュ)!!」
カンパンに変えてしまう恐ろしい魔法がアトマシーンの砲塔から放たれた。
すると、ジャアアアアアァァン! と大轟音を立てながらヌヌセちゃんが錫杖を超高速で回した。
「遊環爆轟響(ゆかんばくごうきょう)!!!!!!」
大轟音とともに高速回転する特殊なシールドが展開された。
すると放たれた四文字魔法「乾麺麭砲(アトマックカンパミラージュ)」はシールドに跳ね返り、踵(きびす)を返してアトマシーンのほうに向かっていった。
「あなたがたの四文字魔法(ネオスペル)なら…どうれすか!」
「ちゃんちゃらおかしいわ…! ドリル変形…」
アトマシーンは、即座にドリル戦車に変形した。
「アトマシーン・ディフェンドリル・・・!」
操縦席のアトメイツが叫ぶと、透明に光輝く魔導のドリルが超高速で回転し、魔法をはじき飛ばした。
「…なんと…」
「…その技、うるさかったわ…。あとで近所から苦情が来たらバッキングミ神宮殿にって言うわよ…」
ガシャーン、と再びアトマシーンをロボ形態に戻し、アトマックはそう言った。
「ここまで効かないなんて…、困りものれすね…」
見ると、虹蛇(ウァナンビ)ユールルが目を回してぐったりしている。さすがにお疲れのようだ。
「ユールル、よくがんばってくれたのれす。一度わらひの胸で休むのれす」
ヌヌセちゃんが虹蛇(ウァナンビ)ユールルの頭をなでると、精霊は小さくシャッ…と鳴いたあと、さあぁぁあ、と細かい光になってヌヌセちゃんの右胸のパネルの中に消えて行った。
「技は通用しない。頼みの虹蛇(ウァナンビ)ももういない…。
これで…わかったかしら。総大司教。あなたには私たちは倒せない…。
神機(ジーク)が神機(ジーク)にしか倒せないのは、攻撃力の問題ではないの…。システムなの。…このゼプティム界のことわりのひとつなの。仕組みとしてそうなっているのよ…。
以前このアトマシーンは、蒼いそよ風の五人がかりで中の操縦者を攻撃されたりして倒されたの。
でもあなたはもう、ひとりだし、そんなことはさせないわ」
「……そうれすねえ……」
「…認める? そうれすねって言ったわね…?
…総大司教、認めるなら、そうしたらいい…。
…あなたは蒼いそよ風じゃない。
…あなたがこの地の全神職の頂点に立つ総大司教なら、魔王の王たる邪雷王様の片腕となり世界をともに支えるよう…、考えを改めるべきじゃないかしら…?
…手始めに。ともにワルジャークを倒しましょう。ワルジャークは邪雷王様を復活させようとしているところまではいいけど…、彼はどうせ再び邪雷王様の敵になる男よ…。
…そして、あなたの肩入れする蒼いそよ風は…どうせ、レウや、アイハーケンや、そこの魔頂たち、それに邪雷王様たちが倒してしまうわ…。
だからともに手を握りましょう…。
そうよ、そう。そうしましょう…?」
「……」
「…返事をしたら? …どうなの? 総大司教…」
「……」
「ヌヌセちゃんと呼んでほしいんだったわね…じゃあ言うわ…。
…ヌヌセちゃーん…」
「…べらべらと…よくしゃべる緑色れすねえ…」
「…へっ?」
「おっっっっことわりなのれす!!!!!!」
「え、えええええ!」
「エーもビーもシーもないのれす!」
「…さ、さっき、だって、さっきヌヌセちゃんあなた、『そうれすねえ』って言ったじゃない…、だからわたしは…」
「神機(ジーク)が神機(ジーク)にしか倒せない。そこは、認めるのれす!」
「…じゃあ勝てないじゃない、ヌヌセちゃん…!」
なぜか律儀にヌヌセちゃん呼びは継続してくれるアトマックである。
「わらひはねぇ…総大司教の全力を見せると…さっき言ったんれすよ? それがどういうことか…よぉーく、知らしめる必要がありそうれすねぇ…」
「…倒せないと認めたわたしに…何を知らしめるというの?」
「倒せないなら…戦えないようにすればいいのれす! ええぇぃい!」
ジャーン! と錫杖を振ると、広辞苑ほどもある厚さのお札(ふだ)の束がヌヌセちゃんの上空に浮き上がった。
「いくのれす…まずは、晶封結(カ・チーン)の札たちっ…!」
ばあああああっ、と広辞苑のような厚さになっていたお札(ふだ)たちのうちの一束がバラバラに飛んでいくと、アトマシーンの周りを取り囲み、一枚一枚が巨大な水晶のかたまりに変化して猛スピードで積み上がり、ドーム状に組みあがっていった。また、アトマシーンの足にも向かい、アトマシーン自体も動けなくなってしまった。
その水晶のドームの外周でヌヌセちゃんが
「どうれすか。出れないれしょう! 神機(ジーク)には技が無効になるとか、この圧倒的物理の前ではそんなこと、関係ないのれす!」
と言った。
「う…うごけない…!」
完全に周囲を水晶に囲まれ、アトマシーン自体も動きを封じられた。
「さらにまだその中には、とっておきの未発動のお札がまだまだ仕込んであるのれす。
まずは…熱灼獄(アティトゥガ)の札ッ!」
ゴッ! と放熱の札が発動し、ドーム内の空気を灼熱にした。
「神機(ジーク)には攻撃が効かないといっても、大気自体が灼熱になってしまったら息もできないれしょう?」
急激に水晶のドーム内は超高温になっていく。
「ギャアアアアアア…」
「り、陸尉、あ、あつい、あついです!」
「たた、たたたた退却しましょう」
「そうしましょう、そそそそそうしましょう」
「ににににげられ、にげられません」
「こここ、降参しましょう、いや降参します、わたし降参でいいです個人的に!」
「…だ…だめよ…せめて邪雷王様が復活するまでは…そうすれば大逆転だし…あと少しの…はず…」
「とととと、とにかくコクピットからでましょう!」
「いいから一緒に出ましょう陸尉! このままじゃ死ぬから!」
アトメイツたちに引っ張られるように、わらわらとコクピットからアトマックは部下たちと一緒に出てきてしまった。
「カッカラーパリフィケーション悪霊滅散泉(あくりょうめつさんせん)の札ッ!」
すかさずヌヌセちゃんは悪霊退散の礼術を発動させた。
巨大なエネルギー体の泉が現れて、邪悪な精神を滅さんとする。
「う…う…うああああああっ…?」
「負けない…負けない…わたし…魔王だから…ッ!」
灼熱の中でばたばたとアトメイツが気絶する中、アトマックだけは必死に精神を保った。
「…どう…? わかった…? ヌヌセちゃん、あなたにわたしは…このアトマックは、倒せないの!
はやく…あきらめて…、今ならまだ…許してあげるわ…、わたしには…ワルジャークを倒す秘策があるの…だからわたしを助けなきゃいけないわ…はやく…ヌヌセちゃん…たすけて…」
倒せないから助けてくれという理屈もおかしいが、アトマックはそんな命乞いをした。
ヌヌセちゃんは、熱灼獄(アティトゥガ)の札だけ取り下げた。
「そのワルジャークを倒す秘策というのだけ…教えてもらえますれすか?」
「なら…この水晶ドームも…取り払って…ヌヌセちゃん…!」
「言わなかったらもっかい熱灼獄(アティトゥガ)の札を出しますれす」
「…それでも…あなたにはわたしは倒せないわ…ヌヌセちゃん!」
「じゃあ、熱灼獄(アティトゥガ)の札を出しますれす」
「言うわ…言う! ワルジャークはプライベートでは…実は…ヒュペリオンが本命なの…! 秘密にしているらしいの! これは…特大スクープよ…! …このネタでワルジャークをゆすれば…」
「そんな情報どーでもいいのれす!!!!!!」
「ええーっ…」
「恋愛くらい誰とでも勝手に好きにすればいいのれす!」
「…それはそうだけど…」
「敵でも…そういう本当の気持ちなんてことは、そんな軽く扱っていいものではないのれす」
「……」
「さて。同じことをもう一度言いますれすが、倒せないなら…戦えないようにすればいいのれす…ってば!
はい。では…最後に言いたいことは、ありますれすか?
最後に、この総大司教ヌヌセちゃんが、お聞きしましょうれす」
「…ヌヌセちゃんのいじわる…」
「はい。晶封結(カ・チーン)の札たち…Fine(フィーネ)!!」
ドス――――――ンッ!!!!!!
「大量追加れすっ!」
大量発注の結果、水晶ドームの中にぎっしりと水晶が詰まった。
一片の隙間もなく、詰まった。
「あとは、封印するだけなのれす」
ヌヌセちゃんは大きな封印札を取り出した。
こうして総大司教ヌヌセちゃんは、魔王を相手に大勝利を収めたのだった。
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