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#63 襲い来る掃除機とレジ袋の恐怖



 さて、ディンキャッスルの領主特務塔の前の広場では、両軍入り乱れての戦いで石畳がはがれ、あちこちにクレーターが出来て荒れ放題になっていた。

 そこでは、ガンマとリヴィヴェエリスが、アルシャーナとムワピゥュィが、虹蛇(ウァナンビ)つきヌヌセちゃんとアトマックおよびアトマシーンが、それぞれ戦っている。
 そしてその奥では、レルリラ姫は残る二体のディルガインゴーレム「ディルレム」との戦いを継続させていた。

「ぴいぴいぴい!」
 ぴちくりぴーが、いまよ! と言わんばかりに鳴き声を上げた。

「R輪芭(アーリンバ)ッ!!」

 レルリラ姫は、芭蕉の花のような形状の波球から波動を放ったが、ぎゅいん、ぎゅいん、と二体のディルレムは背中のスラスターから勢いよく魔導エンジンをふかして回避してゆく。

「ぴい~…」
 ぴちくりぴーは先程、いまよ! と言わんばかりに鳴いてはみたが、実際はいまではなかったようなのでちょっとがっかりしたような鳴き声を出した。

「なかなか当たりませんわね!」

「残念でしたねえ。高機動型と買い出し用の二機だけは、増速用ブースターパックがついてるんですよねー」

 シシーシシシシザエモンはそう言いながらひゅんひゅんと買い出し専用Sディルレムを飛ばした。

「えー、そのなんとかパック陸戦型と水陸両用にもつけてよー!」
「そうだぞずるいぞシシー! どへんたいのくせにー!」
 大破したディルレムLとディルレムAのコクピットから抜け出して、リオナとアサードがその上に腰かけながらシシーシシシシザエモンを野次った。

「そうだよねえ、これで勝ったらご褒美に邪雷王様にその整備のお金出してもらおうよ、シシ!」
 と、高機動型Rディルレムをぎゅんぎゅんと動かしながらレーヴェが言った。

「どへんたいはいま関係なくないですか?」
 と言いながらシシーシシシシザエモンは、ぎゅん、と、Sディルレムをジャンプさせて 「お買い上げパンチ! ありがとうございまああああす!」
 と、ロケットパンチをレルリラ姫に放った。

 どひゅーん、と拳が飛んでくる。

 レルリラ姫が華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)に付いている小型のシールドを構えて
「カフィングリフレクト!」
 と叫ぶと、杖に備わった機能で巨大で透明な円陣のエネルギー体シールドが展開された。

 ぼゎん。

 と、やわらかい音で鉄拳は跳ね返され、ぎゅん、と戻ってきたので、
「うぉおおおっと!」
 と、シシーシシシシザエモンはそれを捕まえるように素早く受け止め、がしゃん、とSディルレムの腕として戻した。

「さきほどの技のどこらへんがお買い上げパンチなのですか!」
「これ買い出し用だから。そんだけです」
「はぁ?」
「はぁ?って言わないでください! なんか…傷つくんで!」
「はぁ…」
「はぁ…ならまだいいです」
「はぁ… 調子がなんか狂いますわね!」

 そしてレルリラ姫は
「…甘いのです。これは…戦いですのよ!」
 と言って、次の手に出た。

 ふわっ、と周囲の空気が膨らみ、ふわりとすこしだけレルリラ姫のスカートが浮き上がった。

 魔力(フォース)が、螺旋を描き、レルリラ姫は、目を閉じて華法を始めた。

「リラレルリラレル・フラランファ☆
 カフィングカフィング・チュリリンファ!
 わたしの心は十二輪。ひらけ門花(もんか)よ門花よひらけ・
 ひらいてひらいて、カフンメッチャヤバイソウ!」

 詠唱しながら天にウイングラード王家の秘宝・「華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)」を掲げると、今回「門花」に指名された庭の敷石の隙間に咲くカフンメッチャヤバイソウなる野花が輝き、色とりどりの光のような花粉から呼び出した様々な植物の花粉・色とりどり十二輪(じゅうにりん)の華法(かほう)陣を形成していった。

 そして華法のステッキ・華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)が華動力(かどうりょく)ドライブを全開にして唸りをあげると、RディルレムとSディルレムの周囲を、空中に浮かぶ色とりどり十二の華法陣(かほうじん)が取り囲み、くるくる回り始め、それから華法(かほう)少女はにっこりと微笑み、華法のステッキを振り下ろしながら華法名を宣言した。

「十二輪挿し華法・I型急性全身重症アナフィラキシー華粉輪・始咲!」

 十二輪の華法陣(かほうじん)のそれぞれ中央から、RディルレムとSディルレムに、一気に花粉がビームのように降り注いだ。

 しかしである。

「超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくん起動!!!!!!」

 そこにすかさず、登場時より手に持っていた謎の装置を起動させたのは、レーヴェの高軌道型Rディルレムであった。

 ヴィイイイイイイイン!!!!!!

 謎の装置は、掃除機だったのだ。

「ちょ…超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんですって?!」
「そうだよん!」

「超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんというのは超絶量の花粉などのハウスダストを激吸いして異次元に転送できるクリーナーなのですか?!」
「そう! 超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんというのは超絶量の花粉などのハウスダストを激吸いして異次元に転送できるクリーナーだよ!」

「そ、そのまんまです!」
「わかりやすいでしょ!」

「ディル様がやられましたからねえ、対策しないわけないでしょ?」
 と、シシーシシシシザエモンが言った。

 ヴィイイイイイイイン!!!!!!

 かつでディルガインをアナフィラキシーショックに導いた花粉技の花粉を、超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんがぎゅんぎゅん吸ってゆく。

「ここは、屋外なのですから花粉はハウスダストじゃあ~、ありませんのよっ!
 はああああっ!」

 と、レルリラ姫は華法の勢いを増したが、ものともせずに超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんは花粉を吸いこんでゆく。

 このままレルリラ姫が華法を続けたら敗北してしまうだろう。なんという恐ろしい掃除機だろう。

「…花粉たちを異次元に転送されるんじゃ…いくらやっても意味ないですわね…! それならっ!」

 ひゅん、と華法陣が消えたかと思うと、レルリラ姫はすかさず、だっ! と地面を蹴り上げてダッシュで斜めからRディルレムの懐に向かった。

「杖R撃(ジョウルーゲキ)!!!!!!」

 ドグワァアアアッ!

 直接、華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)でクリーナー本体を打撃したのである。

 超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんはダイレクトに破壊され、粉々に破片が派手に舞い散った。そして、
 ボン!!
 と、超絶量ハウスダスト異次元転送クリーナー激吸いくんは軽い爆発を起こしてバラバラと散らばった。
「ああああっ、せっかく開発した秘密兵器が!」
「そんなものは当然ぶっこわしますわ! そしてその土くれもっ!」

「ルルーリレルリリリリランル☆
 わたしの心は十五輪。ひらけ門花よ門花よひらけ・
 ひらいてひらいて、カフンメッチャヤバイソウ!」

 再び同じ花を「門花」にして、今度は十五の華法陣が出現して大量の花粉を召喚した。

「十五輪挿し華法…花豪R粉剣(カゴウルーフンケン)! …始咲(しさい)!」

 光り輝く十五色の花粉はレルリラ姫のすぐそばにどんどん集まり、濃縮して、花粉で出来た剣を形成してゆく。
 ジャキイイイイィィィン!
 金属で出来た剣と比べても特に違和感のない輝く剣が現れた。

「呪文(スペル)…力襲覚(エクスクリティカル)!」
 ドン! 攻撃力が上がった。

「呪文(スペル)…力襲覚(エクスクリティカル)!」
 ドドン! さらに攻撃力が上がった。

「呪文(スペル)…力襲覚(エクスクリティカル)!」
 ドドドン! またさらに攻撃力が上がった。

 無類の剛腕と化したプリンセスが、ここに爆誕した。

「花豪R粉剣(カゴウルーフンケン)・王宮剣・轟華絢爛論刀(ごうかけんらんロンド)!!!!!!」

 ザンッッ!
 そして、王宮に伝わる剣の奥義が花粉の剣によってもたらされると、レーヴェのRディルレムは即座に大破した。
 ガシャーン! 
「ぴいぴいぴい!」
 ぴちくりぴーが喜んだ。
「残りは…一体ですわね!」
 攻撃力アップの魔法を三倍受けて光り輝くレルリラ姫は、Sディルレムを睨んだ。
「ひええええ!」
 シシーシシシシザエモンは思わずびびった。
「あ…あなたがここまで戦えるとは…思いませんでしたっ!」

「ずいぶん修行いたしましたので。
 といってもわたくしも魔王相手ならひとりではとても無理ですが…その程度の土くれゴーレムになら、負けませんわ。あなたがたも戦闘要員ではなく、文官に過ぎませんし。
 まあわたくしも苦戦もいたしましたが…」

 レルリラ姫はそう言って、再び剣を構えた。
「こここ…こうなったら、か、買い出し専用装備で逆転を狙いますねっ!」
 と、シシーシシシシザエモンが言った。

「買い物は必要ないのですけど!」
 とレルリラ姫が言うが、
「いらっしゃいませぇええええっ!!」
 と、シシーシシシシザエモンはビームバッグを出現させた。
 ビームバッグというのは、ビームで作られたレジ袋のようなものである。

「お客様マイバッグはお持ちでしょうか! えっ? お持ちではございませんか! エコではございませんか! エコでない! マイバッグをお持ちでないならこちらのビームバッグをご利用ください! 最近有料になりました! 五アホになりますがよろしいでしょうかあああああ!」

「いりませんわ!」
「押し売りいたしまああああす!」
 ぎゅん! ぎゅん! と、巨大なビームで出来たレジ袋が宙を舞い、レルリラ姫を袋の中に入れようとしてくる。ああ、なんという恐ろしいレジ袋だろう。こわいこわい。

「花豪R粉剣(カゴウルーフンケン)・王宮剣・轟華絢爛論刀(ごうかけんらんロンド)!!!!!!」

 ひゅんッッ!
 レルリラ姫が花豪R粉剣(カゴウルーフンケン)を振るっても、ビームバッグは空気のようにすり抜けて避けてゆく。
「こちらの袋にお入りくださあああい! お持ち帰りいたしまあああす!」

「じょ、冗談じゃありませんわ! どへんたいとか仲間にまで言われてるあなたにお持ち帰りされたくありません!」
「だめでえええす!」
「だめはこっちのセリフです!」

「黒獅炎(こくしえん)・S!」
 さらにSディルレムは、胸にかたどられた獅子からディルガインの技にSのついた名称の技を繰り出してきた。
 胸から炎が噴き出される。
「てぇえええええいっ!」
 レルリラ姫が、ばっ!と剛腕となった片腕で剣を振るい、炎弾を弾くと、どかん! と炎弾は地表に当たりえぐられた。

 だが、すかさずSディルレムは爪を繰り出してきた。
「黒獅子牙襲撃(ブラツクレオファング)・S!」

 今度もディルガインの技にSがついたものだ。
 大きなツメがレルリラ姫を引っ掻こうとしてくる。
「伊達にゴーレムをディルガインの姿に似せていませんわね! だけどその動き…、戦闘は…素人!」

 レルリラ姫は、ばしっ、と剣で爪をはじいたあと、ひゅん、剣を消し、次の攻撃に移った。
 強化された剛腕にエネルギーに込める。

 ぎゅううううううぅぅぅぅぅん……
 溜めて、溜めて、

「拳R撃(ケンルーゲキ)ッッッ!」
 と、パンチを、ディルレムの斜め下の角度にお見舞いした。
 どうっ! 吹っ飛ばされたSディルレムは、砕かれたパーツを撒き散らしながら、地をがしゃん、がしゃん、と跳ねて叩きつけられた。

 すると、力を失ったビームのレジ袋も消えてなくなった。

「とどめにいたしますわ!」
 きらきらと飛び散った破片が陽光を受けて輝く。
 剛腕になっているレルリラ姫は、いくつかのパーツを失ったSディルレムの足を持つと、ぶんぶんと振り回し始めた。

「プリンセスR(ルー)ストーム!!!!!!」

 ぶんぶんぶんぶんぶんぶん、とSディルレムを何回転も振り回し、そして、傍らに崩れる三体のディルレムに向けて力いっぱいにぶつけた。

 ドォ――――ン!
「はあ…はあ…はあ…」
 レルリラ姫は、息を切らしながら、鎧についた埃を払った。

「倒されましたね…」
 瓦礫とともに倒れた四人はもう、なにも言わなかった。
 ディルガイン付人四人衆の戦いは、こうして終わった。

 もわもわと薄れる意識の中で、四人それぞれの心に語り掛けてくる声があった。

「貴様ら…よく頑張ったな…。わたしはこの通り封印されて何にもできないが…ずっと見ていたぞ。

 貴様らも敗れたが、もう今はいい…。そこで倒れていろ。そして生き延びろ…。邪雷王シーザーハルト様が復活し、わたしがまた再起した時、その時わたしのそばにいてくれればそれでいい…。わたしには貴様らが必要なのだから…」

「「「「…ディル様…!」」」」
 四人は薄れる意識の中で、心に語り掛けるディルガインとの再会を果たし、そのまま意識を失った。

 レルリラ姫は、ディルレムたちがピクリともしないのを確認したので、
「先に行きますね―――っ!」
 と、大きな声でガンマとアルシャーナとヌヌセちゃんに告げた。

「ひ、ひとりでは危険なのれす!」「せやで!」「すこしそこで待ってて!」

「ぴいぴいぴい!」
 ひとりじゃないと言いたげに、ぴちくりぴーが抗議した。

「大丈夫ですわ!」
 そう言って、レルリラ姫は三人にウインクした。

 まだまだ、力襲覚(エクスクリティカル)の効果が残っているのだ。なので、レルリラ姫はくるりと前を向いて、領主特務塔の扉を開けた。

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