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#62 砕帝王将ワルジャーク、起つ!



 ケンヤとライトが、ぎぃぃ、と、玉座門の扉を開けると、ちょうど昼ドラのような修羅場がクライマックスを迎えたところだった。

 報告兵ツァインバヌトリが、ワルジャークとの戦いに気を取られているアイハーケンの背中から、不意打ちでオリハルコンのナイフを突き刺したところだったのだ。

「ぐはぁっ…」
 アイハーケンが吐血した。

「…ねえ…誰ちゃん…? ま…また…新しい女なの? ねえねえ…おかしくない? ねえねえねえねえ…」
アイハーケンはぐりぐりとツァインバヌトリにナイフを押し込まれながらそう言った。

「わたしを振って下さい…わたしを振って下さい…。この、宇宙一鉄槌の下されるべき者に…、破壊の鉄槌をお下し下さい…ワルジャーク様…!」

 と、さらにミトラカはワルジャークに追い打ちを告げた。

「ミトラカ霊臨(れいりん)スフィリカタストロフィ砕槌永滅(さいついえいめつ)ディストラクション!!!!!!」
 ワルジャークが鉄槌を振り下ろした。

「びゃああああああ…!」

 ざしゃあ…
 アイハーケンが、崩れ落ちた。

「ツァインバヌトリ、助かった。…もう下がっていろ。ここは危険だ」

「かしこまりましたワルジャーク様。またラブレターを書いてきました。これです。では」
「何度も言うがラブレターは断っているはずだが」
「では…」

 すっ…、と、ツァインバヌトリは退場した。
 短い間にまたラブレターを書いてきたのである。

 ふう…と、ため息をついてから、
「…来たか。貴様らも。ライトは…魔獣化したのだな」
 と、言ってワルジャークが振り返ると、ケンヤとシュテルンヴォルフ・ライトが立っていた。

「…ラブレター?」
「そこは気にするなケンヤ」
 と、ケンヤとライトはひそひそ話をしている。

 そんなふたりにワルジャークは
「おい、そこにいるアイハーケンを封印しておけ。凶悪な魔王だ。貴様らにとっても封印の必要がある相手だろう」
 と、声をかけた。

「どうして…アイハーケンを…」
「余計な説明など面倒だな、ライト…。わたしは破壊しかできないからだ。それでよかろう?」

「…願ってもない…」
 と、ライトは魔法陣を出し、アイハーケンを封印した。
 ぐったりしているアイハーケンのまわりを、封印の光が包んでゆく。

 アイハーケンは、自らの首元の薄いピンク色の宝玉に封印され、ころん、と落ちた。

 こういう敵たちは冷蔵庫に封印したり宝玉に封印したりビンに封印したりお札に封印したり、いろいろなものに封印されるわけだが、これは取り急ぎ手近なものに封印されがちだからである。
 これらの封印強度は封印魔法の文字数や術者のレベル等によっても差が出る。

 さて、ライトがアイハーケンの封印を終えると、アイハーケンの封印の宝玉の横に、もうひとつ宝玉が転がっていったのが見えた。

「ん…? 封印がふたつになった…?」
「いや、その石をアイハーケンが持っていたのだろう。…見覚えがあるな…」
「そうか…ディルガインがつけていた石だ…」
 ライトの疑問にワルジャークがヒントを与えたので、ライトはすぐその宝玉がディルガインであることに気づいた。
 それは、ディルガインが封印された魔力制御石であった。

「大方、シーザーハルトへのみやげにでもするつもりだったのだろう…」

「また復活されたら冗談じゃないね…。じゃあこいつは回収させてもらうぜ」
 ケンヤがふたつの封印を拾って懐に入れた。

「好きにしろ。どうせ貴様らはいまから倒される。そしてそれもまた回収させてもらう…」

「させるかよ…!」

「それにしても貴様ら、レウには…わたしのかなりの力を注ぎこんでおいたはずだ。よく勝てたものだ」

「レウは、ワルジャーク様の力を得ていたのか…」

「…レウはどうなった?」

「殺したよ」

 ライトはあえて、殺したよ、と言った。
 殺してはいない。封印しただけである。だが、あえてライトはワルジャークの動揺を誘う手を選んだ。余計な情を流して戦いを進めるにはそれが良いと考えたのだ。

「ケンヤ、僕が先に行く。君は僕とワルジャーク様の戦いを見て、ワルジャーク様の戦い方をよく掴んでおいてくれたまえ」
「お前…それじゃ、やられちまうぞ?」
「さっきのアイハーケンみたいに伏兵から背中を刺されないことも必要だからね、そこは見ておいてくれよ」
「…わかった…」

「……レウ……」

「ワルジャーク…お前…泣いているのか…」

「うしろで見ていろと言われたのなら…黙って見ていろ…ケンヤ=リュウオウザン…」
 と言って、ワルジャークは涙をぬぐった。

「ライト、レウを殺したというのは…本当か…」

「…僕も…そうしたくはなかったけど…」

「…そうか…」

 鉄槌霊ミトラカがワルジャークに語り掛けた。
「わたしを振って下さい…わたしを振って下さい…。その悲しみを振り払い…そこの者が鉄槌の下されるべき者とお認めになり…、是非に、破壊の鉄槌をお下し下さい…ワルジャーク様…!」

「認めるしか…ないな…!」
 ぶん!
 ワルジャークが鉄槌スフィリカタストロフィを握り、構えた。

「ミトラカ霊臨……W槌冽(ウーツイレツ)!!!!」

 ワルジャークがぶんぶん、とX字に鉄槌を振ると、重なった猛烈なパワーの斬波がぎゅいん、とシュテルンヴォルフ・ライトに迫った。

「波撃…星誕惢呵雄嵐(リルバースココロスマイルボーイストーム)!!!!!!」

 シュテルンヴォルフ・ライトの波法が衝突すると、ワルジャークの斬道が渋滞し、中央でくすぶった。
「でえええええいっ!」
 さらにライトは波撃を上方に向けると、W槌冽(ウーツイレツ)は上空へと進路を変え、ごうん! と、天井を突き破っていった。

 星誕惢呵雄嵐(リルバースココロスマイルボーイストーム)の嵐に巻き上げられ、上空へあらゆる破片が飛び散ってゆく。
 ライトはそのまま攻撃の手を緩めず、キックの態勢に入った。
 手を緩めないと書いたのにキックというのも審議ものだが。

「真・グレイテストスターダストライトニングキーック!」

 叫びながら大きくジャンプしたライトは、輝きをまといながら、四つ足の前脚を構えながら突き進み、ワルジャークの身体を貫くかのように自らの身体を武器に、ワルジャークに向かってゆく。

 迎え撃つワルジャークは両手を広げて腰を落とし、
「はあああああああっ…!」
 と、呼吸をすると、キックが自分に当たる寸前のところでライトの前脚の足首をかっさらった。

 そしてワルジャークは、ぶうううううん! とライトの足首を持って振り回し、そのまま勢いよく、地面に叩きつけた。

 ダァ――――ン! 
 パリィン、と、ライトの仮面が割れて素顔が露になった。

「あぐっ…!」
「裂蝶獄観(れっちようごっかん)パピリオインフェルヌスツアー…!」

 ダァ――――ン! ダァ――――ン!
 ダァ――――ン! ダァ――――ン!

 力一杯、何度も何度も、足首を握ったライトの身体を地面に叩きつけた。

 そして、ぶん! とシュテルンヴォルフ・ライトの身体を思い切りぶん投げると、バシン! と壁にぶつかって落ちた。

「ライト!!!!」
 ケンヤが叫んで走り、ライトとワルジャークの間に立った。

「待て、ワルジャーク、これ以上はライトは無理だ!」

「どけ、ケンヤ=リュウオウザン!」

 ばしっ、と、ケンヤの身体を払うと、ケンヤの身体も高速で壁に叩きつけられた。

「…W槌冽(ウーツイレツ)を破ったことは評価する。…とどめだ、ライト」

「や…やめろ…!」
 ケンヤがそう言ったが、ワルジャークは止めなかった。

 鉄槌霊ミトラカが言う。

「わたしを振り下ろしてください…わたしを振り下ろしてください…。
 鉄槌の下されるべき者に、
 わたしを両手で振りかぶり、高く高く飛び、
 そして、わたしを振り下ろしてください…!」

 ぶあっ!

 高く、ワルジャークがジャンプした。
 両手に鉄槌を振り上げて、である。

「今です!」
 という、鉄槌霊ミトラカの叫びと共に。

「ミトラカ霊臨ムトリカターラ飛槌絶砕(ひついぜつさい)タドミール!!!!!!」

 ドゴォオオオオン!!!!!!
 轟音が響いた。
 その時点で、勝敗は明らかだった。

「了槌(りょうつい)…!」

 瓦礫のなかで、しゅたっ、とワルジャークが着地した。
「勝ったな…」
 と言うと、
「おめでとうございますワルジャーク様」
 と、ミトラカが声をかけた。
「フッ…」
 ワルジャークの足元で、魔獣化が解けたライトが傷ついた身体で笑った。
「なにを笑っているのだライト」
「レウが僕に殺されたと聞いて…そこまで…悲しみ…怒ってくれるんだね…ワルジャーク様…」
「…当然だ…」

「僕は…うれし…」

「……」
 ライトは、気を失った。

「…なぜ嬉しがる…?
 …本当にレウは…死んだのか…?」
 ワルジャークが倒れたライトにそう問いかけても、返事はなかった。

 ひゅざっ…
 そこにケンヤが立ち上がり、ワルジャークの前に再び立った。

「まあいい…ケンヤ=リュウオウザン、まず貴様を倒してからだ」

「これ以上…ライトの身体に手を出さないでくれ」

「その方法は、いますぐ貴様がわたしを倒す以外にない」
「やってやる!」

「Φ凰斬(ファイオウザン)を覚えたそうじゃないか」
「よく知ってるな、ワルジャーク」
「情報網があるのでな」

「Φ凰斬(ファイオウザン)を知ってるのか」
「Φ凰斬(ファイオウザン)の使い手のひとり…、かつての準風帝リシュアはわたしの二個上だ。ほぼ同世代だ」
「オレの…ひいばあちゃんに当たる人だ…」
「ずいぶん手を焼いたからな…その中でコツは掴んだ」
「ほんとかよ」

「四十年ほど前…わたしがエウロピアおよびウイングラード全土を支配していた時期、蒼い風リシュア隊とは何度も戦った。それからずいぶん経ち、わたしはその次のゼファー隊に倒された」
「そっか」

「だからわかる。Φ凰斬(ファイオウザン)では、もうわたしは倒せない」
「…なんだって…?」
「来てみろ」
「そう言われると…もっと…削ってからにしたいな…」

「もったいぶるな。今の貴様の、最強の技なのだろう? ベストを尽くさずに勝てるようなこのワルジャークだと思うか?」

「煽ってきやがって…
 剣化風陣!」

 ジャキィィン! と風陣王の刀身が現れた。
「こいつは…そう簡単に破れるような仕上がりにはなってないんだぜ…っ!」

 ジークニウムを穂に出す神託の神器が、むきだしのその真の力を発揮し、敵を斬る。
 それがΦ凰斬の本質である。
 だだだだだ…っ、とケンヤが駆けだした。

「くらえ…Φ凰斬…っ!」

 戦士剣風陣王の刀身が研ぎ澄まされ、ワルジャークに迫る。
 ばっ、と、ワルジャークは膝をつき、構えた両手を地面すれすれの位置にやった。

「砕W破(サイウーハ)!!!!!!」
 ヴォヴォヴォヴォヴォヴォァァァァーーッ!

 ワルジャークの両手から放たれた波法は地面を這うように高速で突き進み、ケンヤが逃れられないように左右から向かい、ケンヤのくるぶしを捕え、ぎゅおっ! と絡めとるように旋回し、さらに爆発した。

 ドォ―――ン…
 戦士剣風陣王は舞い上がり、からからからん、と落ちた。
 どしゃあ、と、さらにケンヤの身体も落ちた。

「Φ凰斬(ファイオウザン)…敗れたり!」
「あ…足を…狙ってくるとは…」

「…神託の神器のむきだしのジークニウムに斬られてはたまったものではない。なんせそれは、神の武器なのだ。すでにわが軍に損害を与えているように、確かに強力だ。
 だが、Φ凰斬(ファイオウザン)は剣波を放つ技ではなく、刀身そのものをぶつける技なので必ずその刀身を運ぶ推進力が必要となる。
 …それが、その足なのだよ。
 そこに、わたしの勝機があった」

「…ぐっ…」
「…さらに…くらえ! 純粋な『力』の差というものを!」

 そして、だんっ、と、ワルジャークは高く舞い上がった。

「空墜膝落(クウツイシツラク)へレスフェッツェニードロップ!!!!!!」

 ボグゥォォォッ!!!!!!
 ワルジャークは片膝を突き出すように折り曲げ、ケンヤの身体に落とした。

「うぐぁああああっ!」
 膝落としをまともに受けたケンヤが絶叫を上げた。

「…死んだか…?」
 ケンヤはもう、返事をしなかった。

 そこで、ワルジャークは脇の戸棚から「堅牢の鉄籠」と呼ばれる魔法アイテムを取り出した。
「これに入れておくか…」

 小さなスイッチのついた石ころのようなものをボンッ、と作動させると、そこに、鋼鉄の鳥かごのようなコンパクトな牢とリモコンが現れた。鳥かごではなく、人かごと言うべきだろうか。

 ワルジャークは気を失ったケンヤとライトをぽいぽいとその中に放り込むとリモコンで施錠し、雑にリモコンを机上に置いた。

「アイハーケンのアイデアをもらおう。貴様らもシーザーハルトへの手みやげにしてやる。  あいつは…『処刑祭』を開くのが好きだからな」

 戦いが終わって静かになってみると、領主特務塔のほうで、ドカンドカンと音がしている。

「あちらも派手にやっているものだ…。あまり壊されては困るな…」
 窓の外をのぞき込み、

「シーザーハルトも…守る必要があるな…」
 と、言うも、ワルジャークは疲れを感じた。

 さすがのワルジャークも、アイハーケン、ライト、ケンヤという手練れと三連戦したあとである。

 ワルジャークは戸棚のポーションのビンを探したが、くらくらとめまいがしてそのまま座り込み、こう呟くのだった。
「行かねば…」
 と。

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