#59 死矢梵玉王バブリシャボヌス
一方、ふたたびディンキャッスル主塔へと続く歩廊の途中である。
ここでは、ケンヤが、大笛吹魔王(だいうすいまおう)ホイッス先生撃破に引き続き、死矢梵玉王(しゃぼんだまキング)バブリシャボヌスとの戦いを継続していた。
「ほほほーい! ほいほいほーい!」
と、叫ぶ老人のまわり。
丸いのが、いっぱいぎゅんぎゅん回っている。
膨大な量の「死矢梵(しゃぼん)」と呼ばれる特殊なシャボン玉が、渦を巻いてバブリシャボヌスの周りをぎゅんぎゅん回っているのだ。
この「死矢梵(しゃぼん)」はバブリシャボヌスの合図とともに次々と姿を変え、毒液を撒き散らしたり炎をまとったり凍気をまとったり電気をまとったりする厄介なものだった。
「次はこいつじゃ、クリスタル死矢梵ヘイルフォール!」
水晶の雹(ひよう)の滝がケンヤを襲う。
「巡風(めぐりかぜ)ッ!」
ごおおおっ、とケンヤの周囲に風が回り、弾き飛ばしてゆく。
シャボン液の匂いでむせそうになりながら、ケンヤはケンヤで自分の回りにぎゅんぎゅんと「巡風(めぐりかぜ)」と呼ばれる風を回すことで、様々な状態に変化しながら自分に降りかかってくる「死矢梵(しゃぼん)」を払いのけ続けていた。
「おぬし、なかなかやるのう!」
クリスタル死矢梵ヘイルフォールが中断されて、再び通常の死矢梵がバブリシャボヌスの身体の周囲をぐるぐる回り始めた。
「そういうしゃぼんだまキングも…やるじゃないか!」
「ほっほ。死矢梵玉王(しゃぼんだまキング)バブリシャボヌスじゃ。そろそろ名前を覚えてほしいわい。わしは伊達に長生きしとらんからのう、歴代の蒼い風とも戦ってきたんじゃぞ?」
「そっか…一応あとで詳しい人に聞いてみるわ」
ヌヌセちゃんがそういうことに詳しいようだ、とケンヤは思い出していた。
「これでも昔はそこそこ有名な魔王じゃったんじゃぞ。
地底の死矢梵玉魔王城を拠点に、死矢梵玉女王や死矢梵玉四天王や死矢梵玉兵団とともに、色んなしゃぼん玉を使って楽しく悪事を働いて過ごしておったんじゃ。
じゃが、みーんな風帝フウラとの戦いで失ってしもうた。それからいろんなところに招かれたりもした。いまはひとりじゃ。じゃが旧知の、魔王の王・邪雷王シーザーハルト様復活が近いと聞いての。やってきたんじゃ。
この老骨、再びひと花咲かせるためにも負けるわけはいかんのじゃ!」
「ふーん…」
「どうでもよさそうじゃのう…」
「バレた?」
「うむ。しかし…それにしても…おぬし、雑談をしかけてもなかなか隙を作らんのう」
そんな会話を交わしながら、お互いに身体の周囲にシャボン玉を回したり、風を回したりしながら様子を伺っている。
「まあ…あんたがオレの隙を狙ってることくらいはわかるつもりだよ。
よおし…もっと巡れ…オレの巡風(めぐりかぜ)ッ!」
(このまま受けに回るばかりじゃ消耗するだけだ…。強い巡風(めぐりかぜ)でシャボンを払いのけながら突進して、中心にいるヤツに向けて思いっきりパワーで叩きつける。これしかないか…!)
そう考えを巡らせたケンヤは、風陣王に、滅多に出さない形態をさせることにした。
「斧化風陣(ぶかふうじん)!」
ぶおん! 戦士のバトルアックスが出現した。
「戦斧(せんぶ)・風陣王!」
戦士剣・風陣王は、意志によって形状を変えるジークニウムという金属による刀身を「穂」として出すことが出来るが、この「穂」は、剣だけでなく弓や斧や槍やフライパンや缶切りなど自由な形状で出現させることができるのだ。
(そして…いろいろ化ける厄介な性質のシャボンが飛び回ってくる中じゃ、刀身に風をまとわせたほうがいい。
つまり…神風斬(かみかぜぎり)の…斧バージョン「神風断(かみかぜだち)」が最適だ!)
そう考えると、
「巡風(めぐりかぜ)全開ッ!!」
と、ケンヤは叫んで突進した。
突進するケンヤの全身をぐるぐる回る「巡風(めぐりかぜ)」は一層の回転を速める。そしてケンヤが突進すると、死矢梵玉王(しやぼんだまキング)バブリシャボヌスの周囲の「死矢梵(シャボン)」はどんどんと跳ね飛ばされていった。
ようやく「死矢梵」の壁が払われてバブリシャボヌスの身体が見えたところで、
「神風断(かみかぜだち)!」
と言ってケンヤが斧を振り下ろした。
「じゃ…わし、防いじゃうもんねー!
…アダマンタイト死矢梵(シャボン)シールド!」
とバブリシャボヌスが叫ぶと、大きな死矢梵が膨らみ、死矢梵は金剛鉄に姿を変えて戦斧の一撃を受け止めた。
ガシィィン! と金属音が鳴リ響く。
「ぬおおおあああああっ!」
ケンヤは受け止められた戦斧をそのまま押し込む。
「ほっほぉう…、こい…つは…こわえる…わいっ!」
「ちょっとこたえる程度じゃダメなんだよね…負けるくらいまではいってくれないと! うらあああ!」
ビシビシ…、とアダマンタイト死矢梵シールドにヒビが入り始めたかと思うと、
パリィィン!と破裂して、そのままケンヤの神風断(かみかぜだち)がバブリシャボヌスにヒットした。
ザン!!
「ほんぐのわぁぁあ!」
戦斧の一断を受け、どしゃあ、とバブリシャボヌスの鎧が砕け、崩れ落ちた。
「ふんぬおおおおおお! 諦めんぞいぃぃぃぃ!!!!」
と、その身が崩れ落ちながらもバブリシャボヌスはシャボン液をストローにつけ、思い切り大きなシャボンを吹いた。
「伸びるのじゃストローよ!」
大きなシャボンをストローの先につけたままジャキン、とストローが伸びたところで
「ダイヤモンド死矢梵メイス!」
と叫ぶと、ストローとシャボンが固定され、球形の死矢梵の先にダイヤモンドのトゲトゲのついた棍棒となった。
「くらうのじゃああああ!」
「させねえぜ!」
ケンヤが両手を構え、両の手のひらをかぎ爪のような形にして、不規則にぎゅんぎゅんと回すような形を高速で繰り出してゆくと、絡まった風がXの字に収斂し、収束してゆく。ケンヤはそのX字の収束した風のかたまりの端を持って、力いっぱい、さらに風車のように回転させた。
「神風突風扇(カミカゼトップウファン)!」
「ぐわぁぁぁああああ!」
絡まったすべての風が解放され、巻き起こった猛烈な突風がバブリシャボヌスの身体をメイスごと巻き上げていった。
そしてバブリシャボヌスは空中で風に絡み取られ、再び歩廊へと落下してくる。
そこに、ケンヤが待ち構えていた。
「とどめは…ちょっと覚えたての応用技を試させてもらうからな!
鉾化風陣(ぼうかふうじん)!」
ぎゅん!と風陣王の柄が伸びた。
「戦鉾(せんぼう)・風陣王…ッ!」
風陣王は、ブルーファルコンの形状を象った刃を持つ、ジークニウム金属で出来た三つ又のトライデント式の鉾(ほこ)となった。
「Φ凰突(ファイオウトツ)!」
Φ凰突(ファイオウトツ)は、Φ凰斬(ファイオウザン)の鉾(ほこ)バージョンである。
ケンヤは、過去の風帝が使ったというこの技の存在をヌヌセちゃんから聞いて、先の修行で習得したのだ。
ゾンッ!!
ジークニウムの穂先の三つ又の鉾が、死矢梵玉王(しゃぼんだまキング)バブリシャボヌスの中心をえぐった。
「ぐはぁあああっ・・・・」
ズシャア、と死矢梵玉王(しやぼんだまキング)バブリシャボヌスの身体は地に落ちた。
すると、ぼこぼこぼこぼこ、ぶくぶくぶくぶく、とバブリシャボヌスの身体が泡立ってゆく。
しゅわしゅわしゅわ……
そして、泡は急速に消えて行った。
シャボンの力で存命していたのだが、敗北と共にその肉体を失ったようである。
「勝った…」
魔王二体との戦いに勝ったケンヤは、歩廊の先にあるディンキャッスル主塔を見上げた。
「あれ…ライトは…どっから入ったんだろ…」
まあ、正面から入ればいいか。と思い、ケンヤはディンキャッスル一階正面玄関に向かって駆け出して行った。
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