#58 城門前(2)
さて、その頃。レルリラ姫たちはどうなっただろうか。
ディンキャッスル城門では、イズヴォロが上げた跳ね橋を下げ直す余裕もなく、レルリラ姫と七人の聖騎士たちとの戦いに奮闘してきた芋獅子副将ジャガポが、ちょうどとどめを刺されるところであった。
アッカ隊長のÅ燐剣(オーリンけん)が刀身の持つ力を解き放ち、真っ直ぐに振り下ろされた。
「Å燐嶄(オーリンザン)!!!!!!」
この「Å燐嶄(オーリンザン)」とは、以前リード宮にてアッカ隊長が言っていたように、バレンタイガーデーの日に、アッカ隊長がケンヤに授けた「Φ凰斬(ファイオウザン)」である。名称は異なるが。
ズォオゥン!!!!!!
「ポテエエエエェェェェェ…・・・!!!!」
芋獅子副将ジャガポの仮面が粉々に砕け散り、ごろごろ…と、膨大なジャガイモが散らばった。
「か…勝った…ぐはっ…」
アッカ隊長は血を吐いて倒れこんだ。
「アッカ隊長!」
「ぴいぴいぴい!」
レルリラ姫とぴちくりぴーが、アッカ隊長のもとに駆け寄った。あるいは飛び寄った。
レルリラ姫の周りには、七人の聖騎士と、七頭の騎獣が全員倒れていた。
ウイングラード聖騎団の聖騎士たちは、蒼いそよ風が修行している間、自ら申し出て長きにわたってこの戦線を支え続けてきたのだ。無理もない。
致命傷はいないのが救いだが、聖騎士七人と、それに馬のゴルゴや牛のマイルースといった騎獣たちはもう、戦えなかった。
「アッカ隊長…そんな無理されるくらいなら…わたくしはまだまだ戦えますのに…」
「…おおっ…ひ…姫様すげえ~…っ…」と、モルテン。
「姫様…ほ…ほんとうにお強くなった…」と、アッカ隊長。
「ジャガポに…か…勝てたのは…姫様のおかげだよ…」と、ダルフィン。
「ああ…ひめさま…もう立てないこの身体が憎いです…」と、レックス。
「今夜の…おかずは…なん…だろう…」と、キャロット。
口々に、跳ね橋の前で倒れたままの聖騎士達五人が、残念そうに声をかけた。
オーサとマッツは意識を失っている。
レルリラ姫は、荷物袋からポーションのビンが沢山入った紙箱を取り出して、ごとん、とアッカ隊長のかたわらに置いた。
「では、わたくしは引き続き、行ってまいります!」
「お…お待ちください、…ひ、姫様もずいぶん戦われましたので、いったん戻って休養を…!」
「じょ―――だんじゃ、ありませんことよ?? ではまた!」
と、レルリラ姫はアッカ隊長にっこり笑顔を投げかけ、そのまま、だっ、と跳ね橋の先の城内に駆け出して行った。
かけがえのない仲間たちが、魔王達とまさにいま戦っているのだ。休養という手はない。
「だ…だれか…姫様に…お…お付きできねえのかよ…」
満身創痍のレックスはそう言ったが、限界まで戦いつくした聖騎団はみな、力尽き、立ち上がれなかった。
ただ、ずるずると身体をひきずって、置かれたポーションの箱を目標にしてゆっくりと、ゆっくりと、這い、近づいていく、一匹の騎竜がいた。
「…グワアァ…オオォ――ッ…!」
と、竜が嘶(いなな)く。
牙鐔騎竜(ガヒョウナイツドラゴン)トムテはまだ、継戦を諦めていなかった。
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