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#55 大笛吹魔王(だいうすいまおう)ホイッス先生



 一方。
 ここは、左右に修練場、大食堂、図書館、礼拝堂、薬草園、菜園、そのほか色々が並ぶディンキャッスル主塔へと続く歩廊である。

 ライトを追っていたケンヤは、この歩廊の途中で、死矢梵玉王(しゃぼんだまキング)バブリシャボヌスと、大笛吹魔王(だいうすいまおう)ホイッス先生という、二人の魔王につかまっていた。

「こらー! そこのお前ぇえー! 廊下は走るなああああー! 先生は見たぞー!」 「ほっほー、追いついちゃったもんねー! ほほいほーい!」

「くっそ、そもそもあんたら誰なんだよ!」
「ほっほ、わしらはの。いよいよ復活を迎えるという魔王の王・邪雷王シーザーハルト様をお迎えし、配下になるために集まった雑多な魔王達の一部じゃよ」
「はあ、魔王って、いっくらでも湧いてくるなあ…」

 死矢梵玉王バブリシャボヌスは
「じゃあわしはまずは、ホイッス先生の戦いを見てることにするもんね。じゃあ先生、任せるぞい」
 と言って図書館前のベンチに座りこんだ。

「じゃあ任されますよ、教頭先生!」
「誰が教頭先生じゃ。まあ、おもしろいから付き合うかのう。ほっほ」

 魔王の体育教師・大笛吹魔王ホイッス先生はさっそく、ぴいいいい!とホイッスルを吹いて

「こらー! お前、何年何組だ! 言ってみろ!」
 とケンヤに向かって指さした。

「何年何組ってなんだよ。学校なんて行ってないね!」

「くおらあああ! 不登校児だな貴様あああ!! 勉学が仕事の子供のくせに不登校は許さん! 先生絶対許さんぞ! 教育だ! 殺す! 鉄拳制裁だあああ!」

 ぎゅん、とホイッスの鉄拳が飛ぶが、ケンヤは軽くかわしながら
「あのさ先生、オレが誰か知らないで追って来てる? まあ別にいいけど…! 手Φ刀(シュファイトウ)!」
 と、手刀を繰り出した。

 ずがぁあああん!

 鉄拳制裁と手刀、それぞれの直撃を受けた歩廊の石畳が巻き上がる。
 ホイッス先生もまた、ケンヤの手刀をかわしてみせたのだった。

 がらがらと、はがれた石畳が転がる。

「こらー! 駄目だろうがリュウオウザン!! 教師に向かって何だその手Φ刀は!」
「なんだよ先生、リュウオウザンって名前知ってるんじゃないか」

「聖なる学舎(まなびや)であるこの学校の廊下を、走るだけでなく壊すとは! これは退学ものですな! そうでしょう教頭先生!」

 学校ではないが。

「そうじゃのう」
 と、教頭もつきあってくれるのであった。

「えー? 先生も壊しただろ!」

「口ごたえをするなあああ! はい! 退学!」
「そもそも入学してないから!」

「ゆるさーん! 罰として今からうさぎとびでルンドラ島の外周を十周だ! はい、はじめえええ!」

 ぴいいいい!!

「………」
「……」

「……なんだよ、強制的に走らされちゃう技なのかと思った」
「何を言っているリュウオウザン! お前ええ! 反省の色がない! 自主的に走らんか!」
「もう退学したからやだね! 入学もしてないけど!」
「じゃあ特別に先生が編入試験をしてやる!!」
「うるさいなあもう! やだよ! 何なのこの先生。こんなんでも魔王なの?」
「そうじゃ」
「ほらみたかリュウオウザン! 教頭先生もそうおっしゃっている! 恩師に向かってこんなのとは何だ! 反省しろおおお!」
「誰が恩師だって? 大体、なに? そのしゃぼんだまキングとかいうのに『そうじゃ』とか言われても説得力ないし!」

「おお…。こうして非行の芽は育ってしまうのか…。見ていてください教頭先生、真の教育というものをこの児童に見せてやりますよ!」

「さっきからお前はなにを言うとるんじゃ。まあ付き合ってやっとるが」

「そもそもさ…しゃぼんだまキングと先生はどういう関係なの」
「何でもないわ。こやつとわしは、今朝はじめて会ったんじゃ」
「ふーん」

「どうだリュウオウザン、聞いたか。先生はな、一期一会を大切にする。これが教育だ!」

「先生さあ、オレ、さっさとワルジャークを倒したいんだよね。あんたらが邪雷王復活をお迎えするなんて冗談じゃないし、学校ごっこして遊んでる場合でもないんだ。先生もしゃぼんだまキングもさっさとぶっ倒すからね」

「リュウオウザン、先生は悲しいぞ! もう絶対に許さん! 究極の教育を行う! つまりは、ぶっ殺す!」

 ホイッス先生は首からジャラジャラといくつも下げたホイッスルの中から、ふたつほど手にした。

「いいかリュウオウザン、今日の授業はこの『改訂版ホイッスホイッスル百選』より、絶対死のホイッスルと製粉のホイッスルから行う! 期末テストに出るからな! ノートにとっておけ! なんだ! どうした! なにいいい? 教科書を忘れてきただとおおおお?! ばっかも――――ん!!!! ならば家に取って来い! ただし、このホイッスルの力で、死んで製粉されてからなああああ!!」

「さっきからお前はなにを言うとるんじゃ」

 死矢梵玉王バブリシャボヌスが再びつぶやく。

「剣化風陣!」
 ケンヤの風陣王戦士剣の刀身が姿を現した。

「…Φ凰斬(ファイオウザン)!」

 ケンヤはもう、ただ、斬るだけでよかった。

「…了斬…!」
 たくさんのホイッスルとともに、大笛吹魔王ホイッスは一撃のもと、敗れ去った。

「ギャアアアアアアア!」

 ずしゃあ…。

 修業によってさらに威力を増したケンヤの「Φ凰斬」を食らったホイッス先生は、もう、虫の息であった。

「お前…いっぱい…勉強した…のだ…な…、先生は…嬉しい…ぞ…リュウオウザン…。もう…お前に教えることは…何もない…」

「そもそもさあ…あんた…なんで学校ごっこしてるの?」

「…魔王に…なってしまったからだ…。魔王になった以上は勝ち続けなければならない…。私はなぜか…先生になりきるとノリノリになるので、実力以上の力を発揮するようなのだ…。だから…意地で、なりきりを…続けて…きた!」

「でもオレ…こんな先生、いらないんだよね…!」

「…すまん…そうだろうな……うっ!」

 ドカ―――――ン!

 こうして大笛吹魔王ホイッスは大爆発を起こし、敗れ去った。

「さて…つぎは教頭先生か…。さっさと片付けてやるぜ! しゃぼんだまキング!」
 ケンヤが叫んだ。

「ほっほっほ。さぁて…若いの。わしはな、そう簡単にはいかんぞい?」

 死矢梵玉王バブリシャボヌスは、ぷうう、と巨大なシャボン玉を作り始めた。

 確かに簡単に勝てる相手じゃなさそうだ。
 ケンヤは戦士剣・風陣王の柄を強く握り、警戒した。

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