#54 木頂儿萌(モクチョウニンモ)ョデ~ォ・ぬ
一方。ライトはレウを追って、見知ったディンキャッスル城内を駆け進んでいた。
庭の中央奥から歩廊を駆けると、その歩廊の左右にデザインの揃ったレンガ調の施設が並ぶ。修練場、大食堂、酒場、工房、図書館、礼拝堂、菜園、果樹園、薬草園、穀倉、牛舎、豚舎、鶏舎、パン工房…。
ライトはそんな施設たちを無視して通り過ぎ、まっすぐ歩廊を駆け抜けて主塔前に到着すると、一気にジャンプして、六階建ての主塔の五階にある広いテラスに着地した。
「ワルジャーク様たちはこの上だ!」
「だがぬ、ところがぬっこい・行かさないの・ぬ!」
そこにひゅん、と回り込んでライトの行く先を塞いだ者がいる。
第五魔頂点「木頂儿萌ョデ~ォ・ぬ」である。
「ところが…ぬっこい…だって?」
「ぬっこい・ぬ!」
ライトは、その意味を聞くのはやめようと思った。
「…さすが『魔頂』の一角。よく僕のスピードに追い付いて回り込んだね…!」
「ぬーっぬっぬっぬ! おまー、今ならまだ許す・ぬ。Uターンして帰れば何もしない・ぬ」
「何がUターンだ。ハッピーターンみたいな顔して」
「ぬ。今なら許すっていう期間は終了した・ぬ。
わーがおまーをぬっころす・ぬ!」
「やれやれ。えーと、たけやぶやけた!」
「何言ってる・ぬ?」
「なんだ…、『魔頂』には、確か回文を聞くと爆破できる大魔王がいると聞いたので試してみたのさ。違うか」
「それは、わーじゃない・ぬ。その『魔頂』は、第九魔頂点・冥頂魔天エクスジード・ぬ。舐めてるの・ぬ? あいつはともだち・ぬ。
おまー、冥頂魔天エクスジードのタフさを舐めてたら痛い目にあうの・ぬ?」
「そんなヤツ、ここにいないならどうでもいいんだぜ? じゃあ君は何をしたら爆破できるんだい?」
「そんな弱点はない・ぬ!」
「ふーん。じゃあ、君の耐久性を試してみようか。朝のウォーミングアップに付き合いたまえ!」
「ぬーっぬっぬっぬ! おまーは、わーのことも、甘くみてる・ぬ?」
ぐわっ!
その時、「ョデ~ォ・ぬ」の胴体が口になって、ライトに飛び掛かった。
「いただき・まー・ーす・ぬ!」
ジャキィィィン!
「ぐっ…ぐぐぐ!!」
胴体が開いて巨大な口がぱっくり開き、トゲトゲの歯が並んでライトを齧ろうとするも、ライトは星導聡流剣の刀身をまっすぐに立てて「ョデ~ォ・ぬ」の前歯を受け止めていた。
「たべる・ぬ!」
「食べないで…くれるかな?」
「じゃあ・こうする・ぬ!」
カッ! と、「ョデ~ォ・ぬ」の喉奥が光ったかと思うと、光線が発射された。
ドン!!
「ぬぬぬうぬ光線・ぬ!」
「ぬぬぬうぬ光線!?」
すたっ、と、避けたライトが着地する。
「…よく避けた・ぬ!」
ライトは思わず後ろ斜めに飛んで回避したが、魔王の放つ光線はどんどん飛んでくる。
ドン! ドン! ドン! ドン!
「焼いてたべる・ぬ! ぬ! ぬ!」
そして「ぬぬぬうぬ光線」を交えながら再び、腹部の口を開けて襲い掛かってくる。
「たまらんなこれは!」
ライトは一気に片を付けることにした。
こんな光線を受け、どこかかじられてしまっては洒落にもならない。
「君こそ…これでも食べて焼かれたまえ!」
ライトは左右の手より、波撃を繰り出した。
「真・L暴狼(エルボーロ) & 真・L鑼把(エルドラッパー)…、ツインストームLLウェイブッ!!」
ギュオオオオォォォッッ、グオオオン!
狼の姿の波動に、螺旋の波動が絡みながらL字を描いて放たれ、「ョデ~ォ・ぬ」の腹の口に吸い込まれて喉を焼く。
「ぬ―――――――!!」
さらに、膝を直角に曲げたライトの身体が黄金に輝いて突進する。
「真・L踏襲(エルトゥース)!!」
ドゴオッ!
突進するライトの膝は「ョデ~ォ・ぬ」の全身を貫いて、魔王の異形の身体を砕いた。
「ぬぬぬ――――――!!」
「…星導聡流剣…!! 真・ミラージュ・リュミエール・コメット!!」
「ぬぬぬぬぬ―――――――――!!」
グオオオオン…
ルンドラの空に、黄金の狼の幻が蜃気楼と共に真っ白に輝き、高らかに咆哮した。
そして、ぎゅいん、ライトの星導聡流剣の動きに彗星のような白い巨光が宿り、そして、激甚なる破壊がその場に、もたらされた。
ズゴワアアアァァ――ン…
「了斬(りょうざん)…!」
見た目、「木頂儿萌ョデ~ォ・ぬ」はもう、明らかにもう、死にゆくように見える形状になって、地に伏せている。
「…勝った…。
…もう…思い出したくないようなヤツだった…」
ライトは、昨日まで仲間たちと励んできた「バッキングミ本殿屋根裏修練院」での修業の成果を噛みしめていた。
今の僕なら…きっと、ワルジャーク様にも通用する。
…そんな確信が、持てた。
テラスに捨て置かれた第五魔頂点「木頂儿萌ョデ~ォ・ぬ」の潰れた身体を横目に、
「邪雷王復活を止めるためにも…。…急がなければ…!」
と、ライトは五階の窓を突き破って急いで駆け出した。
白狐大帝レウや砕帝王将ワルジャークのいる六階は、そのすぐ上である。
「待つ…・ぬ…、わーは…まだ変身を…残して…いる…・ぬ…」
ライトの攻撃を受けてぐしゃっとした塊になっている物から口が現れて、そんなことを言ったが、ライトはもう、去った後だった。
「あ…・眠い…眠い・ぬ…。
ねむ…ねむねむ…・ぬ…。
へ…変身は…、ぬ、ぬてからに…する・ぬ…。
すこし…ぬる…・ぬ…。
ぬぬぬ…ぬー…ぬー…ぬー…・・・・・・」
と、言い残し、そこに落ちている「それ」は、再び動かなくなった。
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