#53 決戦の孤城・ディンキャッスル!
ケンヤ達が例の高度なセキュリティを突破して跳ね橋を抜け、城門の中に入ると、そこは広い庭であった。
庭の左端に、兵舎兼櫓(やぐら)塔。
そして右端に、領主特務塔。
ふたつの四階建ての塔がそびえている。
そして、庭の中央奥にはディンキャッスル主塔に向かう歩廊があり、歩廊の左右のいくつかの建物の奥に、砕帝王将ワルジャークの座す六階建ての主塔がそびえている。
この主塔はワルジャロンド宣言以前はルンドラ歴代領主の居城だったが、現在は主塔がワルジャロンドの王・ワルジャークの居城となり、現在のルンドラ領主のフェオダールは領主特務塔に住まう。
この領主特務塔は、もともとはワルジャーク及び「ワルジャークの四本足」の拠点として前領主・ディルガインがワルジャークたちを迎えた場所である。その経緯からレウの住居もここだ。
そして現在は前述のとおり、巨魔導鬼ソーンピリオが邪雷王シーザーハルト復活のプロジェクトに挑んでいる所でもある。
さて、ケンヤ達がやってきた広い庭には、当然のように領主特務塔を守る敵達が待ち受けていた。
知った顔、知らない顔、ずらりと並んでいる。
「ようけ来とるもんやなあ…」
「これ全部封印するのれすね…。お札の数は足りていますれすけど…」
「僕の知らないヤツまでいる」
「ここに住んでたこともあるライトでさえ知らないヤツがいるのかよw」
「おおー、君たちひさびさびっさーだねー、げんげん元気してたあー? 邪雷王様復活トライと聞いて成功のお手伝いに来てるんだよー。ワルワル、ワルジャークなんかはどうでもいいけどー。ぱりぱりぱりー」
と、アイハーケンはばりばりと、コメッコ(スナック菓子)を頬張った。
「アイハーケン…!」
さらに、二六ナメトルの巨大な神機(ジーク)の頭上からグラスグリーンの装甲に身を包んだ少女が見下ろしながら、こう言った。
「わたしたちはいま来たところ…。邪雷王様復活するそうだから…その作業を守りに…あと、お祝いにきた…。アイハーケンが封印解いてくれた…。ワルジャークは会えたら殺すけど…、だけど邪雷王様復活が優先…」
「アトマック…!」
牙戦陸尉(がせんりくい)アトマックは挨拶を終えると、神機(ジーク)・アトマシーン・ロボ形態のコクピットに入っていった。その中には部下たちアトメイツも揃っているのだった。
驚きつつイズヴォロは大剣を拾った。
「アイハーケンにアトマック…。ワルジャーク様の配下としては複雑な思いです! 複雑に値します! しかし邪雷王様復活は我ら共通の悲願!
それに…おお…『魔頂十三点』の『点々(てんてん)』まで三点も来ておられるとは…」
「…魔頂…。やっぱり出てきたか…」
「何点かは来ると思とったけど、三点か。まあそんなとこかな」
と、ケンヤとガンマがそれぞれ警戒した。
「どもっ! おはようございます! はじめましてー。わたし当代の第十魔頂点・鬩頂冂現(ゲキチヨウキヨウゲン)リヴィヴェエリスですー。今日は『あの有名な風帝のなりかけ坊主ちゃんを倒してみた』という企画でですね、精一杯がんばりますので、よろしくおねがいしますね! では今日もいってみよう!」
「おい、番号順を守れよ、十番!
…オレはチーム四番の大役を任された第四魔頂点・火頂燈監(カチョウヒカン)ムワピゥュィだ。邪雷王の野郎には義理があるのでな。お前たちに邪雷王復活は邪魔させん。多くの『魔頂』達の中でも最も高熱の技を使うこのオレを相手にするとは運が悪かったな雑魚どもよ。雑魚どもは一匹残らず焼き魚だ!」
「ぬーっぬっぬっぬ! わーは、第五魔頂点・木頂儿萌(モクチョウニンモ)ョデ~ォ・ぬ。おまーら、わーのことは『ョデ~ォ・ぬ』とちゃんと呼ぶ・ぬ。略すな・ぬ。おまーら、お見知りおきを願う・ぬ。おまーら、Uターンして帰れば何もしない・ぬ。ぬーっぬっぬっぬ!」
リヴィヴェエリスとムワピゥュィという「魔頂」はおおむね人間ベースの身体の魔頂のようだが、ョデ~ォ・ぬと名乗った魔頂の方は明らかに人間ではなかった。なにしろ目が二つあるように見えるが実は異なり、額にひとつ、顎にふたつも目があるので、合計五つの目がある。
そして口は、顔にはついていない。声は腹から聞こえる。
世界には、古代より各界で勢力を振るう「魔頂」という襲名制の大魔王集団がいる。
その総数は時代により変遷するが、現在は「水金地火木土天海冥鬩穀鳥妊」の十三点の大魔王たちで、「魔頂十三点」と呼ばれる。有名どころでは冥頂魔天エクスジードという大魔王もこの中の一点である。
かつては「水金地火木土天海冥九人衆」という時期もあったが、メンバー数が変動して現在に至る。
この十三点の「魔頂」と、その上に「大魔頂」として位置する「陽頂」、頂央陛下と呼ばれる存在もまた、魔王の王たる邪雷王シーザーハルトに、強弱は分かれるがそれぞれ忠誠を誓っていた。今回やってきたのは魔頂たちのうち三点の魔王達であった。
ちなみに番号がついているが、強弱や偉いもの順とは関係ない。
「このように、各地より名のある魔王たちが参じ、この領主特務塔を守っているのだ。とても敵うまい。彼らにおののき降参するのです。降参を!」
「降参なんかするかっての!」
そうアルシャーナが返したが、それにしても、ほかにもたくさんの敵がいる。
見たことある神機(ジーク)が一機に、見たことないゴーレムも四体いる。
「初めまして神風のケンヤ、そして蒼いそよ風の諸君。お待ちしておりました!
高いところから失礼をする! この領主フェオダール公爵が、じきじきにご挨拶して差し上げましょう!
ようこそ、あなたがたの死地へ!
この決戦の孤城ディンキャッスルへと、よくぞいらした!」
たくさんいる敵たちの後方にそびえる領主特務塔の三階の窓から、メガネを輝かせてフェオダール公爵が顔を出して挨拶をした。
「彼はディルガインの後を継いでルンドラの領主になったんだ」
「へえ…」
と、ライトの解説にケンヤが納得した。
「では皆様が死地へ旅立つみやげとして、このディンキャッスルのご案内をいたしましょう」
降参を迫ったり死地へ旅立つって言ったり忙しいことである。
「説明とかめんどくさいから全部ぶっ倒していいかな」
「趣がないですね、いけませんよそういうことでは」
「…名前と軽い説明くらい聞いておこうか」
「そうそう、そうですよ。…まず、私のいるこちらは領主特務塔。たまたまたくさんの者が守っておりますが、たまたまです。何もありません。領主の私がいるほかは、何もありません!」
「いきなりウソつくなや!」
「その塔の中で邪雷王を復活させようとしてるからいろんな魔王とかが来て守ってるって聞いたぞ?」
ライトがいるのだから情報など筒抜けである。
「な、なぜそれを! いやいや何もありませんってば。
ですが…あなた方はこれから彼らに葬られます。これは本当!」
「これは本当っていうことは、もう『何もない』のはウソ確定れすね…」
「こほん。…そして、この塔の奥にそびえるディンキャッスル・主塔にはお馴染みのワルジャロンドの王・砕帝王将ワルジャーク様と、ワルジャーク様の側近にして『ワルジャークの一本足』・白狐帝レウ様が控えておられます」
「一本足になったのか…」
「まあ、そうだよな」
ちなみにフォエダールはまだ、レウが白狐帝から白狐大帝になったことを把握していない。
「では、皆様を葬る素敵なメンバーを紹介します!
まずは正門の外で既にお会いになったでしょう、芋獅子副将ジャガポ。
続いて、前方に並ぶ者を左から。
わが軍の誇るレウ様の配下にして緑翼の大剣(クレイモア)を携える緑鉄(ロクガネ)の鉄侯爵、イズヴォロ。
邪雷王様復活かもと聞いてやってきた魔王の体育教師、大笛吹魔王(だいうすいまおう)ホイッス先生。
同じ理由でやってきたシャボン玉の魔王、死矢梵玉王(しゃぼんだまキング)バブリシャボヌス様。
そして、かの有名な老舗の魔王集団『魔頂十三点』より三点。
第四魔頂点・火頂燈監(カチョウヒカン)ムワピゥュィ様。
第五魔頂点・木頂儿萌(モクチョウニンモ)ョデ~ォ・ぬ様。
第十魔頂点・鬩頂冂現(ゲキチョウキョウゲン)リヴィヴェエリスさん。
さらに、ワルジャーク様の元奥方、砕日拳使アイハーケン。
邪雷王様の弟子、牙戦陸尉アトマックと、アトマックの部下・アトメイツが操縦する巨大神機(ジーク)・アトマシーン。
続いて、後方に並んで塔入口を守るは、今は封印されしディルガイン様を模して開発された四体のゴーレム。
ディルガイン付人四人衆の駆るディルガインゴーレム、略してその名も『ディルレム』の、ディルレムチームです。
元黒獅将戦術なんでも相談室室長『慈愛の爪リオナ』の駆る『陸戦型ディルレムL』。
元黒獅将直属大魔王能力保全協会会長『悪戯(いたずら)な鬣(たてがみ)レーヴェ』の駆る『高機動型Rディルレム』。
元ルンドラ領主秘書室専属秘書『知識の尾アサード』の駆る『水陸両用ディルレムA』。
元黒獅将直属特殊魔導器研究員『自由の牙シシーシシシシザエモン』の駆る『買い出し専用Sディルレム』。
そして私。
以上のメンバーです!」
「買い出し専用のヤツは買い出しにでも行ってろよ!」
「かさ増しやな」
「高機動型とかいうヤツも買い出しに向いてそうだからそれも行けばいい」
「それにしても多いのれす…」
「多い」
「多いなあ」
「どうすんのこれ」
「これでも下界防衛隊のおかげでずいぶん減ったあとだって聞いてる」
「そのほかにも、中に巨魔導鬼ソーンピリオもいるだろう、フェオダール。この僕がいるんだから胡麻化してもわかるぞ」
「おおライト様、なんという恩知らずなのでしょう貴方という人は…。手厚く育てられた育ての親たちに牙をむくとは!」
「わかってるさフェオダール。その思いもすべて込めて、いま僕はここに来た。ワルジャロンドの誰もが僕にその怒りをぶつけてくれて構わない!」
「ライト、その言葉、聞かせてもらったっスよ!」
領主特務塔の一番上、屋根の上に、きつね娘がやって来た。
「…よぉし、みな揃ってるっスねえ!」
屋根の上から正邪混合の群衆を見下ろし、レウは腕組みをして、充実の表情である。
「レウ様!」
「みな、聞くっス。オレは砕帝王将ワルジャークさんより、新たな称号を授かったっス。
本日よりオレは、白狐帝(びゃっこてい)レウ改め、白狐大帝(びゃっこたいてい)レウを名乗る。
覚えておくように!」
そんなレウの挨拶に、ルンドラ領主・フェオダール公爵が補足を入れた。
「頭が高い! そこにおわすは、ここディンキャッスル城主にしてワルジャロンドの王・砕帝王将ワルジャーク様に仕える最高幹部・ワルジャークの一本足・白狐帝レウ様の御前である!」
「だから白狐帝じゃなくて白狐大帝だってば!」
「である!」
「…頭が高いって言うけど、すでに一番頭が高いとこにいるのれす…」
とヌヌセちゃんは突っ込まずにはおれない。
「白狐大帝レウ…。ワルジャークの力を感じる。前より…ずっと強くなっている…」
風がそう告げるのを感じたケンヤがつぶやいた。
そんな中、白狐大帝レウの演説が始まった。
「さて…、戦の前に、ここにいる『わが軍に属していない魔王たち』に釘をさしておくっス。
封印を解かれるさなかの邪雷王シーザーハルト様を守るための防衛、大いに結構! その行為は歓迎するっス!
しかし! ここにいる魔王たちの中には邪雷王シーザーハルト様だけに忠誠を誓い、ワルジャークさんは眼中にないものもいれば、中にはワルジャークさんを敵対視する者もいると認識しているっス。
だが! いまここで邪雷王シーザーハルト様を復活させようとしているのは、他でもない。
邪雷王様の一番弟子にして、わがワルジャークさん。
そして彼の率いるワルジャロンド軍っス!
いかなる大魔王であろうとも砕帝王将ワルジャークさんに敵対するならば、その後の立場の保証はできない! 心するように!」
「心得た!」「心得た・ぬ!」「ハハーッ!」
魔王やゴーレムの中身たちが声を上げる。
そんな中、砕日拳使アイハーケンは鼻をひくひくさせて、すこし顔を赤らめてニヤリと微笑んだ。
「おやおやおっやー。なんかレウちゃんから覚えがある薫りがするね…。わからないわけないよね。きみ、ワルジャークと…そっかー!」
「…何のことっスかねえ? アイハーケンさん」
「またまたまったー、とぼけちゃってえー。気に気になっるー。ちょっと気になることができたから、わったし、いっくねー」
砕日拳使アイハーケンはドゥークデモアーのエメラルドを使ってどこかへ消えてしまった。
「アイハーケンさん…どこへ…?」
レウは気になるが、アトマックがさらに話しかけてきた。
「レウ、あなたね…。立場は保証しないとか、そんなこと言うけどワルジャークが倒された場合は? わたし邪雷王様は復活すると思うけど、ワルジャークは倒される可能性が高いと思うわ。だって、彼はわたしが倒すもの」
「はあ…いやあ、わかってないっスわ。…アトマックさんはそう言うと思ってたっスよ。仮にそうなったらすべては邪雷王様次第。だけど、邪雷王様が復活するのは、もうすでに我が軍のおかげっスからね! ならばその後の魔王の立場がどう影響するかなんて、想像できないっスか? よく覚えておくんスね!」
「…ワルジャークは邪雷王様とたびたび対立してきた…。わかっていないのはあなただわ、レウ」
「おい蒼いそよ風! このアトマックは真っ先にやっちゃっていいからな!」
イラついたレウは、下のケンヤ達にそう言ってみせた。
「いちいちそっちの都合で動くかよ!」
ケンヤは思わずそう返す。
「…それから、イズヴォロ、よく無事でここルンドラへ戻ったっスね、大儀だったっス。
塔の前は人数が足りてるから、お前は塔内でソーンピリオさんを直接守れっス」
「はっ、かしこまりました、白狐大帝レウ様」
イズヴォロはレウ直属の部下なので、こういうときにレウの指示通りにすぐ動く。イズヴォロは緑翼の大剣を抱えてそそくさと塔の中に入っていった。
「オレはワルジャーク様のいる主塔・玉座の間の扉の外で守護についている。来れるものなら待っているっスよ。わが軍に仇なす者たち! では!」
白狐大帝レウはひゅっ、と去った。
「僕はレウと戦う。先に失礼するよみんな」
だっ、とライトは駆け、とん、とん、と塔の外壁を蹴って、レウの去るルートをなぞるように追った。
「あっ、ライト、気ぃつけや!」
「任せておきたまえ!」
ガンマの声を背中に聞いてライトは叫んだ。
「オレも行くぜライト!」
ケンヤもライトを追って、とん、とん、と同じルートを追った。
「ぬーっぬっぬっぬ! レウ殿を追わせない・ぬ! ワルジャロンド軍へのポイントをかせぐ・ぬ!」
とん、とん、と真似して第五魔頂点・木頂儿萌(モクチヨウニンモ)ョデ~ォ・ぬがさらに追撃した。
「神風のケンヤはわしがやっちゃうんだもんねー! ほほいほーい!」
死矢梵玉王(しゃぼんだまキング)バブリシャボヌスが横にくわえたストローで、ぷう、と巨大なシャボン玉を作ると、バブリシャボヌスはその中に乗り込んでビューッと追いかけていった。
それを見た魔王の体育教師・大笛吹魔王(だいうすいまおう)ホイッス先生が、
「じゃあ先生も追うぞ、いいなお前たち! 文句のある者はそこの広場をうさぎとびだ! よし、はじめ!」
と言った。誰もうさぎとびなどしないわけだが。
そしてホイッス先生は、ジャラジャラと首から下げたホイッスルの中からひとつを取り出して
「飛行のホイッスル! よし、はじめ!」
と言うなり、ピ―――ッ!と鳴らすと、そのままぴいいいいい、と鳴りながらその身を飛行させてケンヤを追っていってしまった。
「なんやねんあいつ…」
「まああれはケンヤ様たちに任せるのれす」
「ヌヌセちゃんはリーダーのそばにつきたいやろうけど、悪いな」
「場の流れなのでしょうがないのれす。わらひはたくさん魔王を封印しに来たのれすから。
それに、ガンマ様もアルシャーナ様も大好きなのれすよ、わらひ」
「おお、わいもやでヌヌセちゃん」
「ガンマ、ヌヌセちゃんの谷間を見ながら言わないの」
「見てへんて!」
「ヌヌセちゃん判定して」
「谷間が見れるような服なのれ、ガンマ様なら見てもいいれすよぉー」
「ならええな」
「だめだって!」
「アルシャーナ様もガンマ様になんでも見せてやればいいのれす」
「え、ええええ////」
「はいどうも―――!!!!」
そこで、大きな戟(げき)を振り回して第十魔頂点・鬩頂冂現(ゲキチヨウキヨウゲン)リヴィヴェエリスが襲い掛かってきた。
「どもっ! ガンマさんっていうんですね! わたし今日はがんばってガンマさんと戦いますので、今日はどうぞよろしくお願いしますね!」
「いきなりなんやねん!」
「はいっ! というわけでね! 今日もはりきってはじめましょー!」
「はあああ?」
第十魔頂点・鬩頂冂現(ゲキチョウキョウゲン)リヴィヴェエリスは、ぶんぶんと戟(げき)を突き立てて間合いをとって、ガンマをアルシャーナやヌヌセちゃんから離してゆく。
「よろしくお願いしまああああす!」
「十番め…。あの青い髪のやつの魔法が厄介なのがよくわかっているな。ではオレの相手は貴様だ!」
ガンマが離れてゆく間合いの間に挟まるように第四魔頂点・火頂燈監(カチョウヒカン)ムワピゥュィが移動し、アルシャーナに向かって思い切り火を噴いた。
ブワアアアアアッ、と炎が迫る。
「だだだだっ!」
アルシャーナは空の八方に蹴りを入れて空域を入れ替え、炎を跳ね返して火頂燈監(カチョウヒカン)ムワピゥュィにぶつけ返した。
炎はムワピゥュィの身体に、ひゅうう、と吸い込まれ
「このオレが貴様にありがとうと言っておいてやる。落とし物を返してくれて…な!」
という言葉が添えられた。
「じゃあ…わたしの最初の標的はあいつにする…。あいつ、魔王を封印しまくれる。だからあいつ、御雷(ミカヅチ)のガンマと並ぶくらいには…やっかい!」
牙戦陸尉(がせんりくい)アトマックおよびアトメイツの乗る神機(ジーク)・アトマシーンはダッシュし、総大司教ヌヌセちゃんに向かっていった。
「最初の作戦で立てた、ガンマ様とアルシャーナ様に守られながら作戦を進める…っていうのはとりあえずこの時間は難しそうれすね!」
ヌヌセちゃんが、左胸を覆うカップ下のフロントパネルに右の手のひらを近づけて「聖泉陣(セイセンジン)!」
と叫ぶと、左胸から光が真下にこぼれ、こぽこぽこぽこぽ!という水音とともに透明な泉の円陣がヌヌセちゃんの足元に出現した。
この聖泉陣は、胸の僧衣の左胸の生地自体に仕込んであるお札である。
さらに右胸に左の手のひらを近づけて
「おいれ! 聖泉(セイセン)の虹蛇(ウァナンビ)・ユールル!」
と叫ぶと、右胸から光が漏れて、光の蛇の精霊が出現した
シャ―ッ! と、召喚された蛇の鳴き声が響く。
右胸には、この召喚札が仕込んであったのだ。
ユールルと呼ばれた、その光る「虹蛇(ウァナンビ)」という種の精霊は、くりくりとした瞳をぱちくりさせながら、ヌヌセちゃんのまわりをぐるぐると回り始めて防壁を作った。
「虹蛇防壁(ウァナンビ・アミナ)!」
「シャーッ!」
襲い掛かるアトマシーンは、光り輝く聖泉陣と虹蛇防壁(ウァナンビ・アミナ)に弾かれ、吹っ飛ばされた。
「きゃあああっ!」
「ぬわあああっ!」
ズシャア、とアトマシーンが地に叩きつけられ、アトマックとアトメイツ達の悲鳴が聞こえた。
「よかった…来てくれて。この子ったら召喚札を書くの大変なわりにはめったに来てくれないのれす。
いい子れすユールル、今日はわらひと一緒にがんばるのれす!」
「シャーッ! シャーッ!」
虹蛇(ウァナンビ)・ユールルは、嬉しそうにヌヌセちゃんの周りを回り続けた。
さて。
そんな戦況をただじっと見つめるのは四体のディルガインゴーレム、ディルレムチームである。
ディルガイン付人四人衆は領主特務塔の入り口の前でただ突っ立って、見ていた。
「えっと…僕たちはメガネに言われた通り、ここでじっとしてたらいいんだよね」
「そうそう」
「この扉から誰も中に入れなければいいの」
「あとはまあ、仲間が減ったら減ったぶん順番に行ったらいいのよ」
「うわー怖いなあ」
「それって魔王の誰かが倒されたときだよね。そもそも魔王を倒すようなやつと、これって戦えるの? このディルレムとかいうゴーレム、魔王より強いの?」
「このディル様に似せたゴーレム、尊い。好き。壊したくない」
「シシのはヤバいよね。買い出し専用だもん」
「アサードのもヤバくない? 水陸両用って。ここ地上じゃビミョー…」
「いやいやいや俺のは両用だから大丈夫でしょ」
「両用のやつは、『どっちも行ける』っていう口癖をいつも言ってる僕のほうがふさわしかったのでは」
「シシは行けるだけじゃなくて行かされるのもあるよね」
「事実上」
「でもアサードもどっちも行けてると思うのよね」
「待って」
「それも行けるだけじゃなくて行かされるのもあるよね」
「事実上」
「待ってったら」
「もーやだ恥ずかしい」
「だからってわざわざ乗り換えないからね、俺」
「だいたいわたし文系なんだからバトルなんてできないのよ」
「四人とも文系か理系で、体育系ではないよね」
「まあ、戦うのはゴーレムだからがんばろう」
「いやー、勝てる気しないわー」
「でもまあ、がんばるしかないわ。ディル様のしもべとして愛を抱いて運命の裁定を待つわ。愛よ。愛」
「僕は死ぬ前にもっとエロいことしたかったです」
「うっさいわw」
「秘密任務のことはこんな大人数がいるとこで口にしないでw」
「だいたいね、あなたはもう一生分したわよ」
「こんだけ魔王がいるんだから誰かディル様の封印解いてくれないかなあ」
「ディル様が恋しい」
「ディル様が出ないと物足りない」
「またディル様におこづかいもらいたい」
「そしてお鍋に行きたい」
「あー…みんな生き残ったらまた鍋いこうよ、鍋」
「ワルジャーク様かメガネが鍋代のお金くれたらね」
「邪雷王様がくれるかもしれませんよお金」
「わぁお」
「邪雷王様もお鍋行きたいって言ったら楽しそう」
「言うかなあw」
「ディル様の写真も持っていきますね」
というわけで、まったく相変わらずの四人であった。
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