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#51 城門前(1)



 というわけで、決戦の一日は始まっていた。
 早速、今日もディンキャッスルでは両勢力が集い、戦いが繰り広げられていた。

 ディンキャッスル・城門では外敵を防ぐために跳ね橋が上げられている。
 城を囲む黒壁には残雪がまだまとわりついているが、その他の雪は歩行量の少ない場所に積み上げられていたもの以外はほとんど溶けている。

 城門の外では、「おはようポテ」の挨拶もなく、すべての芋獅子仮面の中で最強を誇る芋獅子仮面の頂点にしてワルジャロンド幹部・芋獅子副将ジャガポが七人の聖騎士を相手に立ち振る舞っていた。

「ポーテポテポテポテエエエ!!」

 ジャガイモばかりで構成されたほっくほくの仮面怪人・ジャガポの超巨体からいくつもの芋の芽がぎゅんぎゅんと伸びてムチ攻撃を繰り出してゆく。

 ツルを切っても切っても生えてくる。ジャガイモを砕けばまた新しいジャガイモが増えてゆく。
 きりがないので、聖騎士達はなかなかこの精鋭を突破できなかった。

 アッカ隊長が「聖騎士団は戦線をそろそろ支えられなくなる」、とケンヤに伝えたほどなので、そもそもこれまで戦い続けてきた聖騎団のコンディションは疲弊し、芳しくなかった。

「ポーテポテポテポテエエエ! この芋獅子副将ジャガポ様、戦いを重ねれば重ねるほど、吾輩は進化し、七人の聖騎士と同時に戦うために生まれてきたようなデザインになってゆくポテ…ッ。負ける気がせんポテ! 負ける気がせんポテ!」

「おおっ怪人こえ~ッ! ぐおおおお!」
「隊長! 僕もう駄目デェース! うわああ!!!!」
「泣き言を言うなマッツ! 戦えてるから! 負けてないから!」
「弟はいつもそう言ってるけどこれ平常運転っすよぉー、隊長! とおおう!」
「知ってる!」
「全部ポテトフライにしたらおいしいと思います! ぬうん!! ぬうん!!」
「ポテトフライ? おきもちはわかるけどねえ! とえええい!」
「レックスの旦那、左!」
「おうよ! うおおおおりゃあああ!!!!」
「聖騎士団に入ってみたけど…これ、きつくない? そりゃあああ!!!!」
「きついけど…たまんないですねえ!! おりゃああああ!!!!」

 最前線で、どっかんどっかん攻撃と防御の音がいつまでも鳴り響く。

 そのとき、パチパチパチ…と、拍手をする者が新たに登場した。

「誰だ!」

「私です!」
 パチパチパチ…。

「賞賛に値する! 賞賛! 賞賛です! そこの芋獅子仮面、聖騎士七人を相手に立ち回るとは賞賛です!」

「ポーテポテポテポテエエエ! 吾輩は芋獅子副将ジャガポ様ポテよ! 貴様がイズヴォロ候か!」

「はっはっは! 均衡です。均衡してますねジャガポ。このイズヴォロ鉄侯爵が参戦! 参戦し、その均衡を…打ち破る!」

 緑色に輝く金属の鎧やマスクに包まれ、強者のオーラを纏った仮面の者の再登場であった。

「出現せよ緑翼(りよくよく)の大剣! ウィリディス・アーラ・クレイモア! 出現! 出現です!」

 ズォウン! と呻りながら、緑の翼を象った鍔(つば)を持つ、二ナメトルもある巨大な両刃で幅広の大剣(クレイモア)「ウィリディス・アーラ・クレイモア」が出現した。

 出現したが、

「おおおおおうりゃあああああ!!!!」

 そこに登場したケンヤが、思いっきり、出現したばかりの厄介な緑翼の大剣を、自らの戦士剣風陣王で打撃した。

 カキィィィン!!

 打球は芯を捉えられて、城門を抜けて城の内郭に吸い込まれていった。

「うおおおお!!!! 私のウィリディス・アーラ・クレイモアがあああ! か、神風のケンヤ貴様! ぬううおおおお!! 入ります!」

 と、跳ね橋の前に走ってきたイズヴォロが「入ります」言うと、音声認証で、ガラガラガラ、と跳ね橋が下がり、ぎいいいい、と正門が開いた。

 セキュイティ万全で音声認証なのであった。

「うおおおおお、私の大剣―――!!!!」

 イズヴォロは、ホームランボール(大剣)を取り戻しにまっしぐらに城内に突入した。

 ケンヤ達も続く。
「よおおしみんな入るぞおおお!!!!」

「アッカさん、そこ頼むね!」
「ああ、任せたぞケンヤ君、みんな!」
 すれ違いざまにケンヤとアッカ隊長が挨拶を交わした。

 そして、ケンヤたち蒼いそよ風の五人は、そのまま開いた城門に入っていった。

 レルリラ姫とぴちくりぴーを除いて。

「さぁて…、均衡を打ち破るのはこちらのほうですわ!」
「ぴいぴいぴい!」

 引き続き七人の聖騎士が芋獅子副将ジャガポの攻撃で足止めを食らっている中、聖騎士の鎧に包まれたレルリラ姫がアッカ隊長の隣にすっくと立った。

「わたくしはここに残りますの」
「ひ、姫様!」

「蒼いそよ風より馳せ参じたこの最強の姫・レルリラ。
 これよりお見せする無双の戦いぶりをもって、わが愛しのウイングラード聖騎団の皆様に加勢いたしますわ!」
「ぴい!」

「呪文(スペル)…!」
 クィィィィンッ!
 魔法により生まれた気がレルリラ姫の左手より沸きだす。
 それは右腕に絡まりながら上空に球体を作り、そこから二筋の弾道が放たれた。

「…双気陣(オーラブレイン)!」

 ゾアッ!

 知名度の高い高度な、気系三文字魔法である。

「ヌウウオオオオッ!!」
 芋獅子副将ジャガポは叫びながら、回避を試みる。
 だがすでに、場には弾道を当てるための「気の固定」が生じていた。回避など不可能だった。

「なにっ…!?」

 ズォウン!
 爆発がジャガポを包んだ。

「この双気陣(オーラブレイン)…、一度は、鼠咬魔卿イズヴォロの命を奪った魔法ですわ…! そのあとアンデッドになってまた来ましたけど」

「ひ、姫様!」
「おおっ姫様すげぇ~」
「うわあ、むちゃくちゃ腕を上げましたね姫様!」
「三文字魔法でも超難しいやつって本に書いてありましたよそれ!」
「ひ、姫様ああああああ!! 愛してます!」
「レックス、そういうのはあと!」
「あとならいいのですね! ひめ…そこまでオレのことを…!」
「ちがいます!」
「レックス自重しろ自重!」
「そういう愛は姫様本人にじゃなくて家でひとりで言え、ってね!」
「家だけに!」
「家で言え!」
「オーサさんのダジャレだ!」
「本当だ!」
「いや家には息子いるからそんなこと言えないし…今言わないと…」
「言わないと? 騎士だけにナイト?」
「これもオーサさんのダジャレだ!」
「おおっオーサさんすげぇ~」
「いやだからそういうのダメデース、レックスさーん」
「息子の前でかっこつけたい、そのおきもちはわかるけどねえ」
「お昼のおかずは何だろう…」

 などと言っていると、もわもわとジャガポを取り巻く煙が晴れてゆく。

「やったか!」

「やってない!」

 倒れた芋獅子副将ジャガポから、ボコボコと新しい芋が湧き上がってゆく。

「やったか!って言うのは大体やってないときなので、やったか!って言わないでくださいオーサさん!」
「やってないのを確認したので、やったか!って言ったのよね」
「ならばよしです!」

「ふんぐぬおおおおお貴様ら、レルリラ姫もろとも芋の付け合わせにしてやるポテえええええ!!!!」

「さあて皆様、我々八人、気合い入れてかかりますわよ!」

「はい、行きましょう姫様!」

「姫様がいたら我ら聖騎士、百人力です!」

 こうして、レルリラ姫とウイングラード聖騎士団の戦いが始まった。

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