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#31 ウィッカーギルタワー


 北部スコトラ、中央部ロンドロンド、南部ウェーラ、西部ルンドラ。
 ウイングラード騎皇帝王国改め砕帝国ワルジャロンドは、大きく区切ると四つのエリアに分かれている。

 まず、ウイングラード本島には北部のスコトラ・中央部のロンドロンド・南部ウェーラの三つのエリアがある。そして、ウイングラード本島か海を隔てた西部のルンドラとあわせると、合計四つのエリアがあることになる。

 中央のロンドロンド以外の三エリアには、王――すなわち今は砕帝王将ワルジャーク――から統治を任された「領主」という存在がいる。たえばルンドラ地区はディルガインが領主であることは、この物語で何度か触れられている。ルンドラに関してはディルガインが多忙ななかで、フェオダールというメガネの副領主が政治的な実務部分を任されている。

 さて、ウイングラードの王宮を陥落させ、砕帝国ワルジャロンド建国を宣言したワルジャークには、各地域の制圧維持にも力を割く必要が当然発生しているわけである。もとより本拠地であったルンドラや、制圧を成し遂げたロンドロンドばかりに引きこもっているわけにもいかない。目下最大の敵「蒼いそよ風」もウイングラード本島を北上している。

 というわけでワルジャークは、自らの率いる「ワルジャークの四本足」に、北部の拠点への集結を命じた。ウイングラード本島の端・ウィウィクにある、ウィッカーギルタワーと呼ばれる城である。城塞王国と呼ばれたウイングラードにおいて、数々の歴史的な戦いを凌いできたウィッカーギルタワーは北部スコトラ地区を代表す名城、との呼び声も高い。

 スコトラの領都はウィウィクではない。エンジバラである。ケンヤたちが先日ライトと別れた街だ。スコトラを統括するエンジバラ領議会もる。白狐帝レウは先の戦いにおいてエンジバラ領議会の議員たちや聖騎士オーサとマッツを油揚げに封印し、エンジバラを制圧した。レウはケンヤに敗れて喋ることもできないきつねの姿になってしまったが、ワルジャークはその戦功を立てて、エンジバラを支配するポジションを引き続レウに据えることにした。

 だが、ただのきつねになってしまった者には戦局を指示する能力がない。ワルジャークはスコトラの第二拠点・ここウィウィクを現時点の北拠点と決め、レウの配下の中で最も実力の高いイズヴォロ鉄侯爵(てつこうしゃく)という者をスコトラの領主に定めた。

「こんこんこん」

 ウィッカーギルタワーの最上階の屋上高い城壁の上を、白いきつねが走り回っている。

 ウィウィクの街で一番高い場所である。街並みと岬とアホ海が一望できる。
 そこに、砕帝王将ワルジャークと、四本足が集結していた。

「だいぶ傷は癒えたな、レウ。だがまだ回復が必要だ。獣の姿でしかいられない間は、戦場や政治の場には出なくていいからな」
 そうワルジャークが言うと、白いきつねの白狐帝レウは、こんこんこん、と鳴きながらワルジャークにすりすりと挨拶をした。

「なんだと…戦場にも政治にももう出れるだと…? 無理は禁物だぞ…」
 ワルジャークはレウの意思を感じ取れるようである。

 そんなレウを見ながらガタガタ震えているのは黒獅将ディルガインである。
「よ…よかったなレウ、だいぶ良くなって…。そ、それにしてもワルジャーク様、さ寒寒いです、ここは…は…は…はっくしょーい!」
 彼らは今、ワルジャロンドで一番北の地の、一番高い建築物の屋上にいるのだ。

「なんだ?まだレルリラ姫にかけられた花粉症が治っていないのかディルガイン」
「寒いからです、寒い、寒い寒いです偉大なるワルジャーク様! へえっくしょん!」
 ディルガインはガタガタ震えていた。

「レウだけでなくお前もずいぶん回復したではないか。ディルガイン」

「レウはもこもこしてるじゃないですか!」
 思わずディルガインは上司ワルジャークにツッコミを入れていた。

「ディルはアホだなあ、ライト」

「そうだねヒュペリオン。なんでディルガインは防寒していないんだろう」

 そう会話をするのはヒュペリオンとライトだ。仲良く防寒装備に身を包む家庭教師とその生徒である。

「偉大なるワルジャーク様、なんでここに集まる必要が?」

 ディルガインが質問するとワルジャークが答えた。
「ワルジャロンドはロンドロンドやルンドラだけではない。北にも南にも拠点があり、いずれも重要なのだ。その北の拠点で、ウィウィクの街こうして一望しながら作戦を話そうと思ったのだがな」

 ワルジャークがそうは言っても、ディルガインはがたがたと震えている。ディルガインは寒がりな男なのだ。

 そこに、
「「「「失礼いたします!!!!」」」」
 と、少女二名、少年二名。類い稀なる有能かつ変態を誇る黒獅将の側近、「ディルガイン付人(つきびと)四人衆」が登場した。

 黒獅将戦術なんでも相談室室長・慈愛の爪リオナ、
 黒獅将直属大魔王能力保全協会会長・悪戯な鬣(たてがみ)レーヴェ、
 ルンドラ領主秘書室専属秘書・知識の尾アサード、
 黒獅将直属特殊魔導器研究員・自由の牙シシーシシシシザエモンという、例の濃い四名である。

 リオナはディルガインの頭にハートマークの描かれたニット帽をかぶせた。
 レ―ヴェはディルガインの首と顔の下半分に「ラブマシーン」と見えにくいように書かれたマフラーを巻きつけた。
 アサードはディルガインの背中に手を突っ込んで、肌着の上に貼るカイロを貼り付けた。
 シシーシシシシザエモンは、自ら開発した巨大な魔導器「超絶球火球覇空降暖大大大大暖房王」を天にかざしてスイッチを押し、天に巨大な「力制御された火球」を固定させた。

「ディル様がこのような健康状態のため、このような防寒や暖房措置の行いをお許しくださいませ、ワルジャーク様」
 そう言いながらリオナがワルジャークに跪(ひざまず)いた。

 ディルガインは財布から紙幣を四枚取り出し、
「ご苦労だった…あたたかい。これでマクドナル子ちゃんにでも行って来い。下がれ、付人四人衆…」
 と、様々な防寒効果でぬくもりながら配下に声をかけ、外食をすすめた。

「「「「では!!!!」」」」
 お小遣いを受け取ったディルガイン付人四人衆は、すっと退場した。

「ディルガイン、貴様の付人たちはルンドラに残ると聞いていたのだがな…」
「気の利く連中でして…お許しを、ワルジャーク様」

「まあ、よかろう」

 天より大きく放熱する火球の下で、ワルジャークは微笑を浮かべた。

 そんなとき、ヒュペリオンがワルジャークに質問をした。

「ところでワルジャーク様、このスコトラや、ここウィッカーギルタワーの主を新たに任されたレウの配下、領主のイズヴォロ鉄侯爵はどうしたのですか。留守のようですが」

 ワルジャークは、ウィッカーギルタワーの南を指差し、
「イズヴォロ鉄侯爵は、ディルガインの命でネシ湖のあたりにいる。竜の卵の調達ぶりの視察にあたっているのだ」
 と、ヒュペリオンに回答した。

 ヒュペリオンも南を眺め、
「ああ…そうでしたねワルジャーク様。そういえばディルガインの強化に、ネシ湖の竜の卵が必要とか話していましたっけ」
 と目を細めた。そんな話題に張り切るのが黒獅将ディルガインという男である。

「ふふふ…ヒュペリオンよ、順調だぞその辺は…。偉大なる砕帝王将ワルジャーク様、ご覧ください。竜の卵で生まれ変わったわたしを!! はあああっ!!」

 ディルガインの姿が黒いオーラに包まれたかと思うと、爆発した。

ゴウン!!!!
 スコトラの、ウィウィクの街、ウィッカーギルタワーの空に轟が響く。

 ディルガインは、その姿を魔獣に変えていた。

「ほう…」
 ワルジャークは感嘆の声を上げた。

「へえ…」
 ライトはピリピリとしたワルジャークの魔力を感じとっていた。

「こんこんこ…!?」
 きつねのレウも小さく、語尾を上げるように鳴いて、驚きを示した。

 そこにいる黒獅将ディルガインの魔獣態は、基本的にはワルジャークや四本足にとって見慣れた姿のはずだったが、そこから感じとれる魔力(フォース)は明らかにかつてのディルガインを大きく上回っていた。

 ヒュペリオンは
「ディル…見違えたな」
 と、ディルガインを褒め上げつつ、実力ではない力に頼って増強を急いた友の姿勢に、不安を感じてもいた。

 そのヒュペリオンの不安を証明するかのように、ディルガインの魔法制御石は、はち切れんばかりに膨張している。ネシ湖の竜の卵を触媒にて、強大な魔力を経た引き換えに、ディルガインはこのような状態になっているのだ。

「見違えただろうヒュペリオン。わたしは戦闘能力を大きく上げ、冴えわたっているぞ。もうわたしは何もかもをこの戦局の勝利に捧げるつもだ。こんなものではない…もっとだ。もっとわたしは強くなる。だからこのスコトラの領主、イズヴォロ鉄侯爵にもさらなる竜卵の徴収を依頼しているのだ!」

 ヒュペリオンはディルガインへの「不安」が「死の予感」に発展するのを感じた。だが、自分ちは魔王たる者たちなのだ。死の渕から幾度も服できる資格や資質を手にしている。だからヒュペリオンはディルガインに、不安の言葉は告げなかった。

  「どわっはっはっは!」
 などと余裕の表情をみせるディルガインに警告の発言を洩らしたのはライトのほうで、
「だけど…ディルガインひとりで勝てる相手じゃないよ、彼らは」 と、牽制した。

 ライトは自分の言葉を自分自身で噛みしめるようにディルガインへの言葉を放っていた。

 ケンヤたちは、彼らは敵だったのだ。だからこう言うべきなのだ。
 だけどライトにはまだ、自分に迷いがあるのは自覚している。

 ともあれ事実、先の戦いで白狐帝レウは敗れ、黒獅将ディルガインは退却したのだ。

「知ったようなことを言うのだなライト」
 というディルガインに、ワルジャークは
「たやすい相手ではない。風帝は邪雷王シーザーハルト様も恐れ力を持つ存在。だから結束するのだ我々は。今回は総攻撃をする」 と言った。
「では作戦の説明を私から」
 というヒュペリオンを、ワルジャークが制した。

「その前に稽古をつけよう。さっきライトにしたからな。ヒュペリオンとディルガインにもしておきたくなった。そのための屋上なのだ。広くやりやすかろう。そして作戦の説明、それから、総攻撃だ」

 それを聞いたライトはさっそく屋上の端に座り込んで、きつねのレウを膝に乗せ、稽古の観戦モードに入った。

 レウが敗れたことでワルジャークは緊張感を持っている。
 必勝の決意が、ワルジャークと、その四本足を包む。

「私は相手の攻撃を避けるのが嫌いだ。すべて全力で受け止める。来い」
「私もディルも、ワルジャーク様に傷をつけたくはないのですがね…」

 ワルジャークは、仕方のない奴らだ、という顔でディルガインとヒュペリオンに微笑んだ。

 極寒のウィウィクの街の中心・ウィッカーギルタワーから、灼熱の熱気が立ち上っていた。
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