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#27 ピョンチェスターの悲劇


 さて、ケンヤ達が作戦のミーティングを終えて、食後のヨーグルトを食べていると、そこに昨夜客引きをしていた宿のうさぎの主人がやってきて、土下座をはじめた。

「ぴょぴょぴょぴょん! ははああーっ!! お願いが、お願いがあるのだぴょん!!」

「えっ、なに?」
 いきなり始まった土下座にケンヤが驚いた。

「とりあえず、ヨーグルトを食べながら、お話だけでも、お話だけでも聞いてくださいだぴょーん!!」

 ぴょーんぴょーんぴょーん
 うさぎが、土下座をしながら跳躍している。

 ケンヤ達は生きて腸に届く菌類をスプーンで口に運びながら、うさぎさんの話を聞いてみた。

 セリフをそのまま書くと「ぴょん」が驚異的な量になる。だから要約する。

 ◆ ◆ ◆

 フレックスホテルニャンチェプールの主人。彼の名をフレックという。

 フレックは、ピョンチェスターといううさぎの多い寒村で生まれ育った。
 だが、下界(ドカニアルド)暦九九七四年の二月のある日のこと、ピョンチェスターに恐ろしい大魔王が現れた。

 大魔王の名は、牙戦陸尉(がせんりくい)アトマック。何千年も前から何度も下界(ドカニアルド)を襲ってきた大魔王である。

 アトマックはアトメイツという四人の兵とともにアトマシーンという神機(ジーク)に乗り込んで村中を破壊し、魔法を使って次々にピョンチェスターの村中のうさぎたちをカンパンに変えてしまった。

 アトマシーンは、ドリル戦車・潜水艦・飛空挺・ロボ・ボロアパートの五形態に変形する恐るべき神機(ジーク)である。様々な形態からもアトマシーンキャノンという砲台からアトマックの魔法を繰り出すことが出来た。
 神機(ジーク)とは神の力を受け継ぐ強き意思より生まれた金属「ジークニウム」によって出来た、巨大な機体の総称である。

 そんな神機(ジーク)・アトマシーンの攻撃により、ついにフレックの両親もカンパンにされてしまった。
 必死でフレックをかばい、カンパンにされた学校の先生のおかげで、幼いフレックとクラスメイトの子うさぎ三羽、合計四羽だけが逃げ通すことが出来た。

 ピョンチェスターは滅びた。

 フレック達は復讐を誓った。このニャンチェプールに移り住み、必死で技を磨き、二文字魔法も覚え、青年となったある日に魔王に挑んだ。だが、結局、フレックはまた三羽の仲間を失ってしまった。
 そのうち一羽とは、婚約していたという。

 翌月、蒼い風ゼファー隊によりアトマックとアトメイツとアトマシーンは、食べるラー油の空き瓶の中に封印された。

 フレックは無謀な復讐を決行したことを後悔した。

 大魔王は四文字魔法の使い手だった。例えアトマシーンとの戦いを避けて生身で戦ったととしても二文字ではまったく相手にならなかったのだ。
 アトマックの食べるラー油の封印はニャンチェプールの祠(ほこら)にて厳重に管理されたそうだ。

 それからというもの、フレックは失われたピョンチェスターのかわいそうなうさぎたちのために、毎日祈った。
 旅ゆく人をもてなすために小さなホテルを営み、くるくる働いてホテルをそれなりに大きくした。

 いまも、アトマックから受けた仕打ちのことを考えると赤い目からぽろぽろ悔しさが込み上げてくるのだという。

「…そして…アトマックはまた、復活してしまった…」

 そう言ってケンヤはぐっとにぎりこぶしを握った。

「そうなんですぴょん…。祠(ほこら)の封印は破られてしまったんだぴょん…」
 空っぽになった毛桃屋(もうももや)の「辛(から)いと言われてみれば辛いと思わなくもないけどそこまで辛いというわけでもないような気もするラー油」の空き瓶をぎゅっと握りしめて、フレックは再び土下座をした。

「今朝、そちらのお坊ちゃまが四文字魔法を使うのをぴょっこり見ましたぴょん。そして隣のお坊ちゃまはその四文字魔法をぴょこっと受け流されましたね。
 わたしは大した腕ではありませぬが、このフレックも戦いをかじった身。わかりますぴょん。皆様はまぎれもない実力の持ち主ですぴょん。
 アトマックに対抗できるのはあなたがたしかいませんぴょん」

「…やろう、ケンヤ。やるとは言ってなかったけど、やることにした」
 食べ終えたヨーグルトのスプーンを置いて、そうライトが言った。
「ライト、ありがとな」
 ケンヤがライトに礼を言うと、ライトは続けた。

「昨日、アトマックの兵が『車検がある』と言っていたよね。あれはアトマックのアトマシーンの戦車機能の車検のことだったんだね。アトマックの神機(ジーク)は古来から使われているもの。メンテナンスなしでは稼動できないだろう・・・。魔王達には魔王の正義を維持するために、闇のネットワークがある。そこには正義のために闇にうごめく車検業者もあるんだ。今日奴らがアトマシーンを出してくるっていうなら、叩きつぶそう」

「魔王の・・・正義・・・?」
 ケンヤが、思わず聞き返した。

「ああ。魔王っていうのは正義のために戦うべきだろう、やっぱり…許せない。そのアトマックっていうのは」

 ライトの言葉に、ケンヤはもう一度聞き返した。
「ライト…? 魔王が、正義だって? どういうこと?」
「? 僕が間違ったことを言ったかい」
 と、ライトが言った。

「まあ…誰でも正義であるべきだけどさ・・・」
「だったらいいだろう」
 ライトはそう言ったが、ケンヤは釈然としなかった。
「……」

 ガンマがケンヤの右肩に手を置いた。
「リーダー、ライトは、アトマックを許せんって言うたんや」
「・・・知ってるよ」

 ガンマに続いて、アルシャーナがケンヤの左側の肩に手を置いた。

「今はアトマックだな。あたしも少し引っかかったけど・・・そのあとのことは・・・そのあと考えようぜ。あたしはライト自身は・・・悪い奴じゃないと感じる」

 ライトは目を細めて
「・・・それでいい。僕は変わってるんだな、やっぱり」
 と、いじけた。
 ただ、アルシャーナはガンマと同じことを言ったのだとライトは気付いたし、それは素直に嬉しいとも思った。

「作戦、成功させよう。ライト」
 ケンヤはライトの目を見据えて、真剣な表情で言った。
「当然さ」
 それで、ライトはすこし複雑な表情でケンヤに微笑んだ。

「アトマックをアトマシーンから引きはがす必要も出てきたよな」
 と、ケンヤが言った。

「僕がやろう」
「おっけー、みんなで協力してな」
 ケンヤとライトは、そう言葉を交わした。

「わたくしもサポート致しますわ」

 レルリラ姫はそう言ってから
「フレックさん、アトマックの討伐はわたくしたちにお任せ下さいませ」
 と言った。

 少年少女の決意を聞いたフレックは感激のあまり涙を流して、懐(ふところ)から懐中時計のようなものを取り出して、ラー油の空き瓶の隣に置いた。

「ありがとうございますぴょん…。
 これをみてくださいぴょん。これは昔、この宿に泊まられたイリアス長老様という方がわたしに作って下さった、アトマックレーダーという魔法のアイテムですぴょん。
 かつて蒼い風ゼファー隊のイリアス長老様が封印したアトマックが、いまも封印されているかいないのか、いるとしたらこの装置からみてどの位置にいるかを記したものなのぴょん。
 わたしはもう、アトマックはずっと封印されているはずと思い込んでいたのでこれのことは近年ぴょこっと忘れていたのですが、今朝アトマックのことが新聞に載っているのを発見して、ぴょんと驚いてこれを見たら、この通りで…」

[アトマック カクセイチュウ ニシ 一〇二五ナメトル]
 アトマックレーダーの中央にそう文字が浮かんでいる。

「それであわてて祠(ほこら)に行くともう祠はすっかり破壊され、このラー油の空き瓶が転がっていましたぴょん・・・」

「このレーダーは…わいの亡き師匠が作ったもんなんや…」
「…亡くなられたこと、存じ上げておりますぴょん。お悔やみ致しますぴょん…」

 アルシャーナはアトマックレーダーを覗いて、それから窓から西の空を見た。そしてフレックに尋ねた。

「なあフレックさん、このレーダーの示す位置の周辺に、たくさんひとが集まるようなところはあるかな? あいつは、たくさんの人をカンパンにして食べることが一番の目的なんだ。・・・人だけじゃなくウサギもか・・・。それに、たぶんネコも」

「・・・ぴょん!」
「な、なにがぴょんなのでしょうか?」
 思わずレルリラ姫が聞き返した。

「ぴょぴょんと思い出しました。風雲ネコ輪投げです。今日は、輝け!!全ニャンチェプール風雲ネコ輪投げカップ・オスネコ大会の決勝戦の日です」

「輝け!!全ニャンチェプール風雲ネコ輪投げカップ・オスネコ大会の決勝戦だって!?」
 と、アルシャーナ。

「輝け!!全ニャンチェプール風雲ネコ輪投げカップ・オスネコ大会の決勝戦って・・・輝くの?
 あと、たくさんひとが集まるの?」
 というケンヤの質問に、フレックが答えた。

「輝きますよ。多くの風雲輪投げネコが。
 集まりますよ。風雲輪投げネコファンとか人間とかが」

「ほな…行くか、輪投げ競技場へ…!」
 ガンマは、きゅっとグローブを着用した。

 無限に広がるこの大宇宙には、二種類のネコがいる。
 風雲輪投げネコと、風雲輪投げネコ以外のネコである。

 風雲ネコ輪投げとは、風雲輪投げネコによる輪投げである。
 風雲輪投げネコとは、風雲ネコ輪投げをするネコのことである。

 風雲輪投げネコは、風雲ネコ輪投げがうまい。

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