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#26 ニャンチェプールの星(ライト)と雷(ガンマ) 


 ケンヤ達は再び旅立った。

 うっすらと積もっていた雪が陽光に照らされて姿を消してゆく。
 北西に向かう街道はゆるやかな坂道だ。
 坂を登って振り返ると、もうペパーミンガムの街の城塞は遠くになっていた。

 青空が広がる。白い息も弾む。

 さて。それはともかくとしてである。
 ライトが仲間になった。

「僕はライト。当面の間、ケンヤたちの旅に加わることに決めたよ」

「っていきなりやな!」
 ガンマがすかさず突っ込んだ。

「何者なんだよw でもまあいいかw これやるよライト。ダブった」
 ケンヤは、先刻駄菓子屋で買い求めたばかりのチョコのおまけカードを一枚、ライトに渡した。
「ああ、ありがとう、大切にするよケンヤ」
「そんな大層なものでもないって」
「いや、僕は君が気に入ったんだよ、ケンヤ。だからケンヤからのプレゼントはとても嬉しい」
「よ、よせやいライト、しょうがないなあ、これもやるよ」

 ケンヤは少し照れて、これから囓(かじ)ろうと思っていたウエハースチョコもライトに渡した。

「餌付けされてしまったね、ふふふ」
 ライトはウエハースチョコからのアーモンドチョコの薫りを嗅ぐわってから少しずつ食べた。

 カードにはニクドウザンという力士が相撲を取っているイラストが描かれている。
 ライトは不思議そうに『世界一の寄り切り』と書かれたそのカードを眺めてから、それをからっぽの財布に入れた。

「いま流行ってるんだよ、ファイターカードゲームチョコレート」
「ケンヤとガンマの間でしか流行ってないんじゃないのw」
 そうアルシャーナが茶化すとケンヤは、
「流行ってるんだよー」
 と抗議した。
 以前、ザスタークに「買いすぎるな」と注意されていたチョコというのは、これのことである。
 ドカニアルド史を彩る現在過去架空を取り混ぜた英雄魔王神々技アイテム地名津々浦々がおまけカードになっている。

「ふうん」
 と言いながらアルシャーナは右の肩に「空」と書かれたタトゥーシールを貼り貼りしている。同じ駄菓子屋で買ったものだ。

「へえ、アルシャの左肩の『空』の文字は駄菓子屋のシールだったのか。でも右肩の『閃』の文字のほうは・・・違うっぽいね?」

 そうライトが聞くと、アルシャーナは

「へへへ、わかるか?」
 と笑った。
「今度教えてくれたまえよ、ふふふ」
 と、ライトも笑い返した。

 ライトはケンヤにカードを貰ってご機嫌である。ライトが左手をかざして
「おいで、ぴちくりぴー」
 と言うと、ライトのかざした腕のまわりをくるくると、ぴちくりぴーが飛び回った。

 ライトがディンキャッスル領主特務塔を抜け出して、もう十日以上が過ぎていた。

 ありったけの少ない所持金で連絡船に乗り、ルンドラ島を出てウイングラード本島にやってきたライトは、思うがままに旅をはじめたが、無計画ゆえに飢え、道に迷った。
 ワルジャロンド政権がイモをばらまいていることは知っていたが、ワルジャークの手の者に見つかったら連れ戻されてしまうから、イモは入手できなかった。
 所持金もないので街のサンドイッチ売りの売り声も断らないといけなかった。
 そんな時にようやく出会ったのが、良好な食糧事情を持つ、人の良い、ほぼ同世代の旅の一行である。
 ライトはもちろん、しばらくついて行くことにしたのだった。

「じゃあ、あたし達がどういう理由で旅をしている、どういう集団なのか説明しないとな」
 右の肩に「空」のタトゥーシールを貼り終わったアルシャーナが、さてと、という顔をしながらライトにそう言った。

「いや、いいよアルシャ。少しの間ついていくだけだから説明はいらない。面倒くさいんだ。そういうの。僕も旅人。アルシャたちも旅人、そういうこと。それだけでいいだろう。みんなの名前は覚えたからもう問題ないよ」

 そう言って、アルシャーナの申し出をライトは断った。

 ライトは自分が特殊な環境で育てられたことを自覚していたので、旅先であえて自分の正体を明かすことはしなかった。

 だから相手が何者なのかの説明も、遮った。

 相手が詳しく自己紹介したら、自分も詳しく自己紹介しなければならない。それは、出来る限り不要なトラブルを避けて、当面の間は無難に旅をしたいと思っているライトにとっては、不都合なことなのだった。

 ライトは、自分の主人である砕帝王将ワルジャークが人類を服従させるつもりでいることは知っているし、あちこちに貼られたポスターや壁新聞から、その計画が動き始めたことにも気付いていた。

 だが、だからといって、いま自分がやっていることは社会勉強のための旅であって、人類支配を実行する旅ではなかったし、いちいち騒動を起こしていては家出の旅がスムーズにならないこともわかっていた。嘘を言うのも慣れていない。
 だからライトは、あまり多くを語るのを避けた。

「まあいっかー」
 アルシャーナはそう言って笑った。
「にぎやかでたのしいですわ!」
「そうだな」
 レルリラ姫とケンヤも特に気にしない様子である。

 だが、ひとりは違った。

 にこにこしながら、隙があればライトの魔剣をのぞき込んだり、鎧の装飾をのぞきこんだりしては、ライトと目が合うと、そっぽを向いている。

 ライトは自分に興味津々な様子の少年に、じとっと視線を返した。

「ガンマ、なんだい」
「あはは、ちゃうねん」
「チャウネン?」
「ちゃうねん、ほんまちゃうねん、なんもなんも」
「ホンマチャウネン? ナンモナンモ? 何語?」
「ち、違うねん」
「ネンってなに?」
「ええとな、せやからな」

 ガンマのライトへのナニワルチア語講座が終わる頃、夕暮れとなった。

「潮風が濃くなってきた・・・」
 風を感じたケンヤがつぶやいた。

「あっ、煙やねん!」
「おお、完璧なイントネーションや! ライト!」
「煙やねん!」
「ほんまやあああ!」
「海やねん!」
「ほんまやあああ!!」
「街やねん!」
「ほんまやあああ!!」

 もくもくと蒸気の煙の下に、水平線が見え、その下にネコの形をしたレンガ造りの城塞に囲まれたニャンチェプールの港町が見えてきた。

 ◆ ◆ ◆

 城塞の上で、庭先で、歩道で、あちこちでネコジャラシが潮風に揺れている。

 一月にも枯れないこの地・特有のネコジャラシだ。
 一面のネコジャラシ畑もある。
 その街は、どこからでもネコジャラシが見えた。

 ここは、ネコの街ニャンチェプール。

 ニャンチェプールは、漁業・紡績・蒸気機関などの産業で賑わう港町である。
 ネコが多い。あちこちにネコがいる。

 人語を話すネコ、話さないネコ。
 普通の人間、ネコのような人間、人間のようなネコ。それ以外。

 レンガ造りの建物が並んでいる。
 建物や城壁や煙突にはネコが飛び乗りやすいようにあちこちにステップがついている。そしてそのステップの上でたくさんのネコやネコ人間や人間ネコや普通の人間や普通じゃない人間やよくわからないいきものその他がゴロゴロひなたぼっこをしている。

 ネコが多いと思っていたが、よくみるといろいろいる。

 建物の煙突からは煙がもくもくと流れ、ときどき蒸気船の汽笛(きてき)や、蒸気スライムのスラ笛(てき)、磯の香りや、磯キメラの甲高い鳴き声、それにネコの鳴き声などでにぎわっている。

 ケンヤ達が商店街に入ると、客引きのしゃべるうさぎがぴょんぴょん跳ね寄ってきた。

「ぴょんぴょんぴょん! 旅のお方がた、ご宿泊先はぜひフレックスホテルニャンチェプールへ、だぴょん!!」

 ネコが多いと思っていたが、よくみるといろいろいるし、うさぎもいた。
 レルリラ姫を預かって旅をするようになってから、ケンヤ達は野宿を控えている。

 だからその夜はフレックスホテルニャンチェプールのレストランで食事をして、それからゆっくりと休むことにした。

 アルシャーナはレルリラ姫と女子部屋に入っていった。女子部屋のその先の様子は男子にはわからない。

 一方、男子部屋。

「ケンヤ、シャワー浴びなくていいのかい、ガンマはもう先に行ってしまったよ」
 と、ライトが尋ねた。すると、

「青いな、赤ブルー! ・・・むにゃむにゃむにゃ・・・」
 と、ベッドで突っ伏したケンヤが寝言を返した。

「ケンヤ・・・。なんなんだそれ・・・」
 ライトは思わず突っ込んだ。

 ケンヤはレウとの戦いの傷は癒えたがまだ十分ではない。ケンヤは、すぐに眠ってしまっていたのだ。

 ◆ ◆ ◆

 というわけでライトは、一階の浴室内のシャワーコーナーにやってきた。

 少年がひとつひとつ鎧を脱ぐと、引き締まった身体のすべてが現れた。鍛えられているが実戦経験がないので傷はなく、ライトという名の通りに白く輝く裸身がそこにはあった。

 見ると、ガンマがシャワーを浴びている。

 ライトはその隣のシャワーノズルを開いた。
 きょう一日、一月の寒さに晒されたライトの身体に、あたたかな流れが染みこんでゆく。

 ライトは表情をゆるめてシャワーを楽しんでいたが、突如、その表情はきゅっと引き締まった。

 そしてもうひとつきゅっと、シャワーの栓が止められた。

「どういう…ことかな? ガンマ」

 ライトが振り返ると、ずぶ濡れの全裸のガンマが、水滴をたらしながら右手の手のひらを前方に構えて立っていた。

 ライトに向けられたガンマの右手からパチパチと小さな雷が準備をしている。

「こっちのセリフや…。わいの目はごまかされへんで、ライト」

 互いに、どこを隠すこともなく、シャワーを中断したふたりの少年が、にらみ合っていた。

「ガンマ。なんで雷撃を僕に食らわそうとしているのかな。君はなにか勘違いしているんじゃないのかい? 僕はただの旅人で…」

 ふたりの身体からは、ほかほかと湯気が立ちのぼっている。

「あんさんの鎧は、砕帝王将(さいていおうしょう)ワルジャークの魔力(フォース)で作られたものや。…そうやな?」

「!? …知らなかったよ…。そうだったのか…嬉しいな…」
「魔法で調べたら簡単なことや」
「そんな魔法があるのかい、ほんとかな」
「古い魔法を発掘したんや。それより…嬉しい、ゆうたな。さっき」
「当然だろう、ワルジャーク様のことは恨んでもいるけど、尊敬してるんだ」

「様…か…」

 ガンマは、ライトがワルジャークの名前に「様」という敬称をつけたのを聞いて、表情を引き締めた。

 ライトはもう、隠しても無駄だと気付いたので、手のひらを開いて相棒を呼んだ。
 刀身の折れ曲がった魔剣が呼び出され、ライトは濡れた裸身のまま、その剣を構えた。

 ガンマの華奢(きゃしゃ)で無駄のない裸身を見据えて、ライトは自分の頬が紅潮してくるのを感じた。
 …男なのにな…。
 ガンマのなだらかな裸の胸に視線を奪われながら、ライトはこの体験が少し面白くなっていた。

 パシパシと細い雷を携えながら、ガンマは表情を変えなかった。

「その…あんさんの持つ剣は…かつて下界(ドカニアルド)を席巻した魔剣士・チャラリーさんのものや。彼が戦死時に敵に奪われ、行方不明となっとった剣…。魔剣・星導聡流剣(せいどうそうりゅうけん)……!!」

「へえ…もう一回言ってくれないかガンマ。覚えるから」
「魔剣士チャラリーの魔剣・星導聡流剣や…!!」

「へえ、全然知らなかった。これ…持っているとすごく落ち着くんだ。不思議なエネルギーを持っている。それはわかるよ…」

「チャラリーさんっていう人はわいらの親の世代やけどな、わいらの偉大な先輩なんや…その人の剣は…魔王達にふんだくられて、いま、あんさんが使(つこ)とる…」

「待ちたまえガンマ。君たちがどういう集団なのかはさっきも言ったけど知る気はないし、それに、僕は君の敵になるつもりはない」

「まだ言(ゆ)うんか? そんなこと…」

「信じてくれよガンマ。僕はね、確かにワルジャーク様の住む塔から来たよ。だから鎧もワルジャーク様が作ったんだろう。剣だって幼い頃にワルジャーク様からもらったんだ。
 でも僕は赤ん坊の頃からその塔で育ったのさ。十日くらい前にはじめて外に出た。なにも犯罪を犯していない。
 それに僕はね、家出してきたんだ。
 ウソ発見器とかウソ発見魔法があるなら、かければいい。僕のことを調べたければ調べればいい。僕はね、当面の間ケンヤと…ケンヤ達と…楽しく旅をしたいだけなんだ」

「ケンヤは…、リーダーは…、わいのや」

「…へえ…」
 ライトはにこっと笑った。

「…ちゃうねん…」
「なにが」
「…冗談や」
 こんどはガンマがすこし、赤くなっている。

「そうかな…?」

「…まいったな…。寒いし…、それに、わいに迷いが出てきた」

 一月である。浴室は十分に暖まっておらず、濡れた裸身でしばらく立っているとまだ寒い。

 ふたりの身体から立ちのぼっていた湯気の量も少なくなってきた。

「ほんとだね、寒い。お互い…シャワーの続き、浴びないかい?」

 そうライトは言うと、ガンマはライトの構えた星導聡流剣を睨んだ。

「…このことをケンヤたちに話すかい?」

 ライトがそう尋ねると、ガンマは構えていた手を下ろして、雷撃の準備を消した。

「見極めたい。明日の朝、朝練するんや。そのときわいと戦わへんか」
 と言った。

 それで、ライトも魔剣を消した。
「いいよ。それで、僕のことをもっとちゃんと知ってくれたまえ」
「そのときは、本気で来いや」
「わかった」

「あんさんがさっき言うたことを信じたい…わいは少しそう思えてきとる。わいは…自分が、ひとを見る目はあるって思いたいんや」
 ガンマはくるりとライトに背を向けた。

「あるよ、見る目」
 ライトはそう答えた。

「わからんけど…やっぱりライトは…悪人ちゅうのとは違う気がする…。でも…ワルジャークは…敵や。せやから…困っとる」

「だから戦うんだね」
「男同士やからな」

 ライトは、出ていこうとするガンマの綺麗な背中やお尻を見て、でも女の子みたいな身体なんだな、と思った。

「すこしの間、秘密を共有するんだね、僕達」

 ライトはシャワーの栓を開いてガンマの背後から浴びせた。

「ひゃあっ」

 ふたたび、あたたかい湯が冷えたガンマの身体を包んでゆく。

 シャワーの音でかき消されそうな小さな声で、ガンマが
「まいったな…」
 と言ったのを、ライトは聞き逃さなかった。

 ふたりは、そのまま一緒にシャワーを浴びた。

 コンディションが万全でないケンヤは熟睡していたので、ガンマの鼓動が高まっている間、ケンヤはこの時の出来事に気付くことはなかった。

 ◆ ◆ ◆

 港町の朝は早い。
 港から汽船の汽笛がけたたましく聞こえてくる。

 それでケンヤが目を覚ますと、男子部屋にガンマとライトの姿はなかった。

 ぴかっ。
 窓に光が入ってきて、一秒してからドーンと雷鳴が響き渡った。

 ケンヤが二階の窓からレックスホテルニャンチェプールの中庭を一秒だけ見ると、そこでは杖を構えたガンマが「なんやてえ!」と叫んでいた。
 ライトは、折り曲がった剣を天高く掲げていた。

 周囲には雷撃の跡はない。

 高所恐怖症のケンヤは二階の窓から外を見るのが苦手なので、その一秒だけしか見ることが出来なかった。

「ガンマの魁啻電雷(スパークライズマ)を…剣れ、上空へ受け流ひたんら…」
 …というセリフにケンヤが気がつくと、ケンヤの隣でアルシャーナが窓の外の中庭を眺め、解説していた。歯ブラシを咥えたアルシャーナは白いものを口から垂らしながら感心している。

 女子部屋は廊下を挟んで反対の位置にあったので、見に来たのだ。

「四文字魔法を…剣で…受け流しただって!?」
 ケンヤが聞き返すが、アルシャーナはケホケホと、むせていた。

「口…ゆすいでくる…」
「…うん…」
 アルシャーナは女子部屋に戻っていった。
 ケンヤとアルシャーナが呆然としながらもそんなやりとりをしていると、
「みなさまー、うさぎさんが、あさごはんですってー」
 と、レルリラ姫が呼びに来た。

 そんなことで少し窓から視線をそらしていたケンヤが再び窓の外をもう一秒だけ見ると、たんこぶを作って大の字に倒れたガンマの口にポーションの瓶を流し込んでいるライトの姿があった。

 ケンヤは朝からハードな特訓をしているんだな、と思ったが、一方でガンマの鼓動から心の乱れのようなものを感じてもいた。
 いつものガンマなら負けはしないはず…、と思いたかった。

 ひょっとしてガンマは血を見てしまったんだろうか。
 高所恐怖症が流血恐怖症の友の心配をした。

「なにやってるんだよ・・・」

 そうぼやいてから、ケンヤは外が見えないように目をつぶったまま窓を開けた。
 そして潮風の薫る冬の朝の空気を吸い込んで、すこし呆然としている自分を冷やすための気付け薬とした。

 それからケンヤは、ライトがガンマの手を取って立ち上がらせて談笑しているのを風の動きから感じた。

(ガンマは、血はたぶん見てないんだ・・・)
 ケンヤはそう気付いて少し安心し、外を見ないようにうしろを向いたまま、外の二人に朝食のコールをした。

 ◆ ◆ ◆

 ケンヤ達五人と一羽がフレックスホテルニャンチェプールのレストランにやってくると、テーブルにはスパイシーチキンとスパゲティ野菜サラダが並べられていた。

 スパイシーチキンのまわりをくるくるとぴちくりぴーが飛び回り、チキンを追悼しはじめた。
 ぴちくりぴーは食卓にチキンが出ると、必ずそうするのだった。

「えっ、ライトさんがガンマさんの魔法を!?」
 レルリラ姫が驚いた。

「たいしたことはないよ。君たちもすごいよ。ケンヤ達三人の連係攻撃もすごかったじゃないか。僕はあんなふうに誰かと息のあった攻撃なんてできないからね、うらやましい」
 ライトが謙遜した。

「確かにケンヤ達のあの技はすごかったですわ」
「ぴいぴいぴい」
 レルリラ姫とぴちくりぴーも同意した。

「でも…あの『装甲天国』っていう装甲が厚くてアトマックを倒せなかった」
 ケンヤはフォークにパスタをくるくる絡めながらそう言った。

「アトマック…。きっと近くにおるで」
 ガンマはたんこぶを回復魔法で引っ込ませながらそう言った。

「じゃあさ、寄り道かもしれないけど、ささっとリベンジできないかな。このままじゃまた犠牲が出るよな」

 アルシャーナが紙ナプキンで口のまわりについた牛乳を拭きながらそう言った。

 がたっ。
 レルリラ姫が立ち上がった。
「ねえ、みなさん。いまのわたくしたちは五人です。あの蒼空風雷撃(ソークーフーライアタック)という技は、三人でアトマックと互角。改めて五人の連携を生かした技に進化できれば…」

 するとライトが
「ちょ、ちょっと待ちたまえ、僕は当面の間、一緒にいるだけのつもりでいるんだけど…」
 と、すこし慌てた。

「アトマックはライトにとっても敵なんだろ。それにお前のセンスがあれば、いけるよ」
 ケンヤはそうライトに言った。

「せやな、ライト。気持ちさえひとつになれれば…」
「…ガンマ…そう思えるのかい。僕はさっき君を…」

 するとガンマは
「あれはただの特訓」
 と言って、チキンをナイフで半分に切ってライトの皿に置いた。
「どや」
「ふふふ、チキン半分で気持ちがひとつになるとでも?」
 そう言いながらライトはチキンにフォークを刺した。

「でもまあ…ガンマの本当の力は、あんなもんじゃないよね」
「あんさんもな、ライト」
 ガンマとライトはすこしバツが悪そうに言葉を交わした。
 戦う前は「本気でやる」と言いあっていたことを、ふたりは十分わかっていた。だからふたりは、すこし照れ、すこし複雑で、すこし嬉しく、笑った。

「…というわけで、五人の連携攻撃をうまいことやるアイデアをガンマが考えてくれまーす」
 アルシャーナが言った。

「わああ、わたくし楽しみです! はやくやりたいです!」
 レルリラ姫が歓声をあげた。

「僕はまだやるとは言ってないんだけど」
 と、ライトはチキンをナイフでサクサク切りながら口をとがらせた。
「やりましょうよライトさん、ねえライトさん」
「…レル、ノリノリなんだね」
「うふふ、わたくしノリノリなんです」

「わかった、アイデア言うわ」
 そう言ってガンマが手帳とペンを取り出した。

「もう出来たのかガンマ」
 ケンヤがそう言う間にも、ガンマは手帳にすらすらと作戦の図解を描き始めた。

「おーい、僕はまだ・・・」
 と不平を言うライトのお皿の上に、レルリラ姫も自分のチキンを置いた。

 食事と、作戦タイムは兼ねられる。

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