#25 邂逅(かいこう)・ペパーミンガム
しんしんと。
一月の参宮ロンドロンド街道に、うっすらと雪が積もってゆく。
その上を少年少女、四人の足跡がてんてんと着けられてゆく。
「レル、大丈夫か? この先のペパーミンガムの街は休むところが多いし、少し休もうか?」
「ありがとうございますケンヤ。もう少し歩いたらお弁当だけね…。でも当初の予定通り今日はニャンチェプールの街まで行きましょう。わたくしは大丈夫ですわ」
白い息を弾ませながらレルリラ姫はそう言って、ピースサインをしながらウインクした。
「ぴい!」
ぴちくりぴー(鳥)も、ウインクした。
街道沿いの民家の軒先にウインタージャスミンが黄色い花を咲かせている。アーチ型の枝に、星形の小さな花びらが広がっている。
その花を「門花」にして、レルリラ姫がそっと、愛用の華法のステッキ「華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)」をかざしてちいさく唱えると、回復華法(かほう)の光がきらきらと、彼女とケンヤとガンマとアルシャーナとぴちくりぴー(鳥)の全身を包んだ。
「あっ、レル。あたしたちはまだそんなに疲れてないから大丈夫だよ、でもありがとうレル。ああ、心地いいね」
「アルシャーナさん、冬に咲く花は強い生命力を持っているんですよ。こんなに気持ちのいい華法(かほう)が放てるなんて、我ながら驚きですわ♪」
「へえ・・・。かわいくてきれいな花だけど、すごいんだ」
「おおきになあ、ジャスミンのええかおりや・・・」
ガンマも上機嫌になっている。
小雪の中、四つの傘がくるくると回り、参宮ロンドロンド街道を北上していく。
目的のネシ湖へは、まだ数日ほどかかる見込みだ。
ロンドロンドからネシ湖へは、ペパーミンガム、ニャンチェプール、エンジバラといった数々の街を通過する必要がある。
ウイングラード街道は曲がりくねっている。
険しい岩山や点在する湖などの自然を縫うように、いくつかの街や村を繋ぎながら連なる街道。それが参宮ロンドロンド街道なのだ。
そんな街道を歩み進むと、半分ほど破壊されつつも健気に街を取り囲む高い城塞が見えてきた。
城塞を貫く運河の水辺には白鳥の親子が泳いでいる。
ここは「ウイングラードのへそ」と呼ばれるペパーミンガムの街である。
ウイングラード騎皇帝王国は城塞王国とも呼ばれ、主要な都市はそれぞれ高い壁状の城塞で守られている。だがこの街の城塞はワルジャークの四本足のひとり・赤虎臣(せきこしん)ヒュペリオンの攻撃により破壊を受けてしまった。
城塞はウイングラードの象徴である。
だから砕かれた城塞の欠片はウイングラードという国がワルジャロンドという国に成り代わってしまった象徴のようでもある。
だが、だとすれば残された城塞は、支配に屈しない人々の強き心の象徴であろう。
ケンヤ達がそんな城塞をくぐって広い街に入ると、生活が息づく民家や商店、数々の古城やゼプティム神殿も見えた。
ベルトのついた大きな箱をぶらさげたサンドイッチ売りの幼い姉弟が、旅人から生活費をもらおうと駆け寄ってきた。
姉弟は
「ようこそペパーミンガムへ!」
と声を揃えた。
おにぎりはないのか、からあげはないのか、などと、こんなちいさなサンドイッチ屋さんにあるわけがないものを要求してくる理不尽な客たちからなんとか商機をものにした姉妹は、安堵の表情を浮かべて去っていった。
その後ろ姿を眺めつつ、サンドイッチの包みを手にしたケンヤ達が街を見回すと、ワルジャロンド新王政により、ロンドロンド城が陥落したことを伝えるポスターがあちこちに貼られていた。
ポスターは、ワルジャーク軍のクーデターによりこの国が「ウイングラード騎皇帝王国」から「砕帝国ワルジャロンド」へと名を変えたことを伝えている。
また、ジャガイモやふかしイモの大量配給が始まったことや、ルンドラ領主ディルガインがワルジャロンド政権の中核を担うようになったことも大きく報じられている。
しかし、ポスターのいくつかは破られたり、ウイングラード国旗や「蒼い風」のマークのシールが上から貼られたり、あるいは新王政を批判するラクガキが上からされたりもしている。
「三大魔王」の一角・・・、下界(ドカニアルド)暦九九四五年から九九四七年にわたり、エウロピアおよびウイングラード全土を支配した砕帝王(さいていおう)ワルジャークの名を知らない者はいない。
そんな彼も九九五五年に処刑されたが、彼は、より力を高めて復活し、人々を苦しめた。魔王とは何度も復活する歴史を繰り返しているものなのだ。
だからこの国の名前が「砕帝国(さいていこく)ワルジャロンド」となったというニュースが駆け巡ったとき、何が起こったのか、ウイングラードの民の誰もが理解した。
この国は、また魔王に支配されたのだ。
下界(ドカニアルド)の多くの人々は「魔王に支配される」ということと「魔王の支配から解放される」という歴史を繰り返している。
この国はまた「魔王の支配」に戻った。
それは悲劇であるが、悲劇なりに人々は慣れていた。
そして魔王の支配は決して許されず、必ず倒れるということも知っていた。
新王政になって平和になり、人々の暮らしが何もかも良くなるなら、ケンヤ達も何もしないでよいだろう。だがそうではない。
だからケンヤは、迷わなくていいんだ、と思った。
ワルジャロンド建国のお知らせを書いたポスターを覆い隠すように、ブルーファルコンとウイングラード国旗を並べて描いた画用紙貼られた町内会の掲示板を見て、ケンヤは改めて、そう思った。
さて、その隣には一枚のポスターが貼られている。
《十三歳のソロシンガー・うたうたいタウター=イー、ファーストアルバム『ベベーン』レコ発ツアー実施中》などと書かれている。
「あっ、このうたうたいの方、最近世界中を回っている方ですわ。新聞で見たことありますよ。アルシャーナさんは知ってますか?」
と、レルリラ姫が聞くと、
「ああ、曲は聴いたことないけどちょっと有名な人だよね。今日は、このペパーミンガムでライブって書いてるね」
と、ポスターを眺めながらアルシャーナが答えた。
へえ、とケンヤもポスターをのぞき込み、
「このあたり…ペパーミンガムって、ワルジャークの部下の奴に聖騎士が倒されたっていうところじゃないか。ライブとか普通にやってるんだな」
と言った。
「そうやなあリーダー。みんな、それなりに日常を続けとるんやなあ…あ、あそこ会場やな」
ガンマが指し示した先…、ペパーミンガムの街の中央には街の物流を支えるファズファズリー運河が流れ、運河沿いのウォーターフロントには多くのカフェ、レストラン、商店や広場がにぎわいを見せていた。
《ファズファズリー運河文化会館》と書かれた建物は古城を改築した建物のようだ。
ちらついていた小雪は止んで、雲の合間から淡い陽光がその古城を照らしてきらきらと輝いている。
そこからは、建物の外にもタウターの歌声が聞こえてくる。
「♪ベベーン、オレはタウター、うたうたいだぜベイベー♪
♪ペパーミンガムは料理は微妙だけどみんないいやつー♪」
ファズファズリー運河文化会館前広場にはレンガで作られたベンチがある。
「チケットを買わないのに歌を聴いていくのってなんだか申し訳ないですけど、ここで、お弁当にしましょうか、ねっケンヤ」
ベンチの脇の花壇に足を止めたレルリラ姫が言った。
「そうだなレル。あー、変な歌だなー、まあ、弁当食べながら聴いてくか」
「あはは、そうやなリーダーw」
「あたしお茶入れるよガンマ」
「ぴいぴいぴい」
などと、ケンヤたちが、さきほど買ったサンドイッチの包みを広げ出すと、そこにズザッ! と謎の少年が現れた。
「くれないか! それ!」
少年は、突然やって来た。
ケンヤ達の誰もが、少年達が駆け寄ってくる様子に気付かなかった。まるでテレポートしてきたかのようにその少年は出現した。
「うわああう!」
気配を感じることもなく少年が登場したのでケンヤは思わず大きな声を出し、のけぞった。
全身に鎧に身をまとったその少年はケンヤたちとそう年齢も離れていないようにも見える。
「駆け寄って…きたんだよな…なんだあんた、そのスピード…」
アルシャーナがそう尋ねたが、その返事は少年のおなかがぐうううう、と鳴る、というものだった。
「ああ…旅をしていてね。もう何日も何も食べてないのさ…」
と、おなかに遅れて、少年の口も返事をした。
レルリラ姫はにっこりと
「みんなでこれから食べるんです、一緒にどうですか?」
と、勧めた。
「ぴい?」
と、ぴちくりぴーも一緒になって、勧めた。
そのときである。
広場の背後にあるファズファズリー運河文化会館から聞こえる歌声が突然ぷつりと途絶えた。
それから「キャアアーッ」という観客の悲鳴が聞こえた。
「この会場は、偉大なる大魔王・牙戦陸尉(がせんりくい)アトマック様と、その雑兵軍団・アトメイト1〜4号ことアトメイツが乗っ取ったー! 出口はすべて封鎖した! 貴様らは皆カンパンに変えられてアトマック様の食料になるのだあああ!」
そんな声が文化会館から聞こえてきた。
「なんだいまの説明的なセリフは!」
思わずケンヤが突っ込んだ。
「だな、大将、…ライブパフォーマンスじゃないのか?」
と、アルシャーナが首をひねった。
すると、それに呼応するようにレルリラ姫も首をひねった。
「カンパン?…ってなんですか? 船のデッキのことですか?」
するとケンヤが
「いや、食料って言ったから、堅めのビスケットみたいな食べ物のほうだろ」
と、答えた。
「そうなんですか、そんな食べ物があるなんてわたくし知りませんでした」
「…いまのは…ライブパフォーマンスやないで…。アトマックいうたら…。何度も下界(ドカニアルド)を襲った大魔王や。邪雷王シーザーハルトの弟子やった奴や。でも弟弟子(おとうとでし)のワルジャークと敵対して、内輪もめのゴタゴタのあと、当時の蒼い風…ゼファー隊に封印されたって、じっちゃんから聞いてたけど…復活したんや…。どえらい魔力(フォース)を感じる。間違いない」
そうガンマが解説すると、少年が
「それ、ほんとかい?」
とガンマに尋ねた。
「間違いない」
とガンマが言うと、少年は、とある行動に移した。
その結果にレルリラ姫が絶叫した。
「ああっ、いつのまにか、サンドイッチがないですわ!」
「ぴいぴいぴい!」
レルリラ姫とぴちくりぴーが驚くと、もぐもぐしながら少年がこう言った。
「サンドイッチありがとう。借りは返すよ。あのアトマックっていうやつは…敵だ。倒してくる」
「あんた…素早いな…」
さすがのアルシャーナも少年のその早業(はやわざ)に驚いた。
すかさずケンヤが少年に
「いや、あんたはここで待ってろよ。魔王退治はオレ達の仕事だ」 と言ったが、少年はにこっと笑って、そのままファズファズリー運河文化会館に身体を向け、ダッシュの姿勢をとるとシュッ、と消えた。
「やっぱ…消えたんじゃない。脅威的な速さで駆けたしたんだ…」
そう言ってケンヤが慌てて駆けだすと、ガンマ、アルシャーナ、レルリラ姫、そしてぴちくりぴーも、ケンヤに続いた。
◆ ◆ ◆
ファズファズリー運河文化会館に、戌の一番にその少年が入ったとき、そこにはもう観客やアーティストの姿はなかった。
床にカンパンがたくさん落ちている。
そこで少年は、きらり、と光を放った。
「ぐはあっ!」
と、4色の鎧のアトマック配下の兵・アトメイト1〜4号こと、アトメイツが吹っ飛んだ。
それは、少年が呼び寄せた魔剣の迸りであった。
「きみが大魔王・・・牙戦陸尉(がせんりくい)アトマックか。倒す」
そう言う少年の視線の先には、輝くような緑色の髪の少女がいた。
魔力(フォース)を感じるちからがない一般人なら、彼女を普通の「緑色の髪の少女」・・・ただの人間と認識するかもしれない。だが少年は即座にそこにいるのが「大魔王」であると識別していた。
少女からは、魔王としての魔力(フォース)と風格が漂っていたからだ。
その身にはグラスグリーンの鋼鉄の装甲が纏われていた。額にはとりわけ大きな角(つの)が輝く。手のひらにキャタピラ、つまさきに大砲が備わっている。
「だれ・・・? あなた・・・」
牙戦陸尉(がせんりくい)アトマックは大地に視線を伏せたまま、少年に静かにそう問いかけた。
「ライティング・スターレイザー。ライトって呼ばれてる」
そう。この少年は、あの、ライトである。
主人たる砕帝王将ワルジャークへの不満から家出したものの、ワルジャークの敵が現れたと聞いては黙っていられなかった、ライトである。
「そう・・・。確かにわたしは・・・牙戦陸尉アトマック。
あなたもカンパンにしましょう・・・。そうしましょう・・・。
カンパカパンパカパンカパパンカパ…。
超呪文(ネオスペル)!
乾麺麭砲(アトマックカンパミラージュ)!!」
牙戦陸尉アトマックが静かに腕を構えると、手のひらに取り付けられたキャタピラがギュルルルル、と回り、正面に向けられたキャタピラの回転部から四文字魔法・アトマックカンパミラージュが飛び出した。
ズザアッ!
ライトの前にガンマが滑り込んだ。
魔法の波動はみるみると、ガンマの法衣(ローブ)に吸い込まれてゆく。
「! …君は…!」
ライトが驚くと、ガンマはライトにウインクをした。
「ライト、っていうんやな、あんた。わいはガンマ」
「ガンマ」
「ライト、わいの御雷衣(プラズマローブ)は魔法を吸い取ることができるねん。危なかったなあんさん、カンパンにされるとこやったで」
「へえ、御雷衣(プラズマローブ)。すごいね」
「ライトの剣の腕もすごいじゃないか、見たぜ」
アルシャーナはそう言って、ライトの肩を叩いた。
そして、ケンヤとレルリラ姫とぴちくりぴーもやってきた。
「・・・なんなの? わらわらと ・・・こまるわ・・・かかりなさい、わたしの兵たち」
アトマックがそう言うと、先程ライトの攻撃で倒れていた兵達・アトメイト1〜4号のうち、1〜3号が起き上がった。
「かしこまりましたアトマック陸尉(りくい)。ぬうああああああ!」
棒を持った三人のアトメイツが飛びかかった。
ちなみに単数だとアトメイト、複数だとアトメイツである。
ケンヤはすかさず
「剣化風陣! 神風斬(かみかぜぎり)!!」
と一閃した。
風陣王の宝玉が煌(きらめ)めき、風と斬撃(ざんげき)が描くヘアピンカーブが敵を貫きながらなめらかに滑走した。
「…きれいだ…」
そう言ってライトは、ケンヤの戦士剣・風陣王が放つ風を浴びて、目を見開いた。
それは、今までに見たことがない剣撃と、経験したことのない風だったのだ。
ズバーン! ドカーン! バリーン!
まともに食らった三人のアトメイツは天井を破って吹っ飛ばされた。
ジャポーン、ジャポポーン。
そして棒を持ったまま運河に落ちた。
残されたアトメイト4号がようやく立ち上がり、棒を震わせて慌てた。
「ま…まずいですアトマック陸尉(りくい)! アトメイト1号と2号と3号が!」
会館の外の運河からはアップアップという声も聞こえてくる。
ダウンダウンという声は聞こえてこない。
あくまでアップアップである。
「・・・どういうことなの・・・」
と言うアトマックの視線の先でケンヤが吠えた。
「弓化風陣(きゅうかふうじん)!」
すかさずケンヤは風陣王を剣から弓へと変形させて叫んでいた。
「いまだガンマ、アルシャ、蒼空風雷撃(ソークーフーライアタック)だ! 風来風来風来…!」
「蒼空風雷撃(ソークーフーライアタック)!!」
「蒼空風雷撃(ソークーフーライアタック)!!」
ケンヤ・ガンマ・アルシャーナの三人が三角に並び、連携技の準備をした。
「よおっし! 出でよ、閃空域(センクーイキ)! …だだだだだだだっッッ!」
アルシャーナは上空に蹴り上がり、空の立方体の八方に八閃の蹴撃を入れて、極限に圧縮された「閃空(センクー)の空域」を作り上げ、その空域を掴んでアトマックにぶん投げた。
「だあっ!」
「…なに…これ…! なに…これ!」
アルシャーナの繰り出した閃空の空域に捕らえられた牙戦陸尉アトマックは身動きがとれなくなり、慌てた。
「いっけえケンヤ!」
アルシャーナの咆吼(ほうこう)である。
「ぴいいいいい!」
ぴちくりぴーも咆吼である。
「風矢陣(ふうやじん)アネモスヴェロス!」
ケンヤが風の矢・アネモスヴェロスを放った。
「おっしゃあ! 風の矢(アネモスヴェロス)に混ざれ! 呪文(スペル)・雷散弾(ライオサンガー)!」
ケンヤのアネモスヴェロスに、ガンマの雷の弾道が追尾して混じり合い、アトマックに向かっていった。
「勝ちましたわ!」
と、レルリラ姫が喝采を上げたが、
「いや…まだ引き分けだ…」
と、ライトが釘を刺した。
「装甲しましょう…、そうしましょう…」
とアトマックは呟き、腕のキャタピラの動きを止めてこう言った。
「開いて…。装甲天国…!」
すると、アトマックの背中にまとわれていた「装甲天国」という名の装甲が突如はじけ飛び、巨大化してアトマックの周囲に展開された。
ズオン!!
アトマックの装甲天国は粉々に砕け散ったが、アトマック本人は無傷であった。
「なんやてえ!」
ガンマが叫んだ。
「あたしたちの蒼空風雷撃(ソークーフーライアタック)で倒されなかった…だって?」
アルシャーナも叫んでいた。
アルシャーナの閃空域(センクーイキ)はもう消滅していた。
ざばりざばりと、運河から出てきた濡れたアトメイト1〜3号が戻ってきた。
アトメイトは、4号と一緒に四人でアトマックの前にずらっと並び、アトマックの盾になった。
「・・・アトマック陸尉(りくい)、あれはやっかいな連中です。自分は腰をやってしまいました」
「それに三人とも棒を運河に流されてしまいました。我々は運河に落ちたときに棒を持ったままでいるとおぼれる、ということがわかりました。ではどうすればよいのかというと、もし棒を持って運河に落ちたときは棒を手放した方がよい・・・。それがわかりました」
「自分は棒だけに飽きたらずコンタクトレンズさえも失いました」
「それに自分は自分の描いたアトマック陸尉(りくい)のえっちなイラストもびしょぬれになってしまいました」
「自分は運河に落ちなかったので何も失っていませんがここでアトマック陸尉(りくい)を失うくらいなら死んでしまいたいです」
「ここは引きましょう!」
「そうしましょう!」
「撤退しましょう!」
「そうしましょう!」
「明日には車検が終わるから勝てます!」
そんなアトメイト1〜4号の提案に、アトマックはしょげた。
「でも・・・カンパン・・・まだ・・・ひろってないわ・・・」
「また作りましょう! そうしましょう!」
「今日はもうみんなで、闇にうごめく邪悪なショッピングモール『ジャアスコ』にある、私のいきつけの闇にうごめく邪悪なコンタクトレンズ屋さんに行きましょう!」
「そうしましょう! ジャアスコ下界(ドカニアルド)店、行きましょう!」
「ジャアスコの闇にうごめく邪悪な整体屋さんも行きましょう!」
「そうしましょう!」
「ジャアスコの闇にうごめく邪悪な棒の専門店も行きましょう!」
「そうしましょう!」
「わたしのカンパン・・・」
アトマックは切なそうな瞳を浮かべた。そして長い髪を翻した。
「あなたたち・・・おぼえていることね・・・」
そして牙戦陸尉アトマックとその兵・アトメイツ達は天翔樹の葉を投げ、闇にうごめく邪悪なショッピングモール「ジャアスコ下界(ドカニアルド)店」へと退却した。
「逃げられた…。闇にうごめく邪悪なショッピングモール『ジャアスコ』…。商魔王ジャアスが顧客と認めた印を魂を宿した者にしかたどり着けないという。いったいどこにあるんだ・・・」
と、ケンヤが悔しそうに言った。
「しゃあない。次は負けへんで」と、ガンマも悔しそうだ。
アルシャーナが
「そうしましょう・・・」
とアトマックの口調を真似たので
「まねすんなよw」
とケンヤは思わず突っ込んだので、ライトは思わず吹き出してしまった。
「それにしても、車検って何でしょうか・・・」
レルリラ姫が言ったので
「さあ・・・」
と、一同は首をかしげた。
「ぴい…」
と、ぴちくりぴーも首をかしげた。彼女に首はないが、かしげた。
◆ ◆ ◆
ケンヤ達がカンパンを集め、ガンマが魔法を唱えると、カンパンは元の人々に戻った。
「わいは五文字使いやからな、解呪できるタイプの四文字魔法でよかった」
九死に一生を得たタウターとタウターファンの人々は喜んだ。
ケンヤ達が彼らから新たなお弁当を差し入れてもらったのは言うまでもない。
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