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#16 ディルガインvs華法のプリンセス


 グルル…、とディルガインの胸の獅子が唸った。
「何のつもりだ?」
 ディルガインはレルリラ姫に尋ねた。
 噴水状に薄い、ピンクの少女の髪がなびいた。
 そこには静やかに、レルリラ姫が立ちはだかっていた。

「さきほどわたくしは、『わたくしにも考えがある』と申し上げましたね。それが嘘ではないことを、示しますわ」

「何のつもりだ?子供のままごと遊びに付き合うつもりはないぞ、レルリラ姫…」

 にこっ。
 レルリラ姫は、笑った。

「この、妙に太い柱を破壊するというのでしたら…、
 このウイングラード騎皇帝王国王女・
 レルリラ=ウイングラード=ワースレモンが相手になります」

 レルリラ姫は、すっ、と細い右手を天に掲げて

「華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)!!」
 と叫んだ。

 ズォン!!

 レルリラ姫のペンダントから、光とともに謎の杖が出現し、レルリラ姫はこれを手に取った。
 謎の杖は、ウイングラードの国鳥・コマドリがデザインに組み込まれている。

 ディルガインは
「そんな棒きれで…何をするつもりだ?」
と聞いた。

「あなたを、倒しますわ」
 にこっ、と、レルリラ姫は微笑んだ。
 ディルガインもニヤリと返し、

「…姫は魔王にさらわれるものだ…。
 決して立ち向かうべき存在ではないものだと知るべきだ。
 死ぬことでな」

 と、ワルジャーク受け売りのセリフを吐いて、眼光を光らせた。

 レルリラ姫は、橋の敷石の隙間に可憐に咲く、ヨウセイツツミの野花を見つめながら、こう言った。

「…もうわたくしはあなたを許しませんわ。黒獅将ディルガイン」

「ふん。許さないからどうなると……」
 ディルガインは、言い終わらないうちに、

 ふわっ、

 と周囲の空気が膨らんだような感触を感じとった。

「!?」

 ふわりとすこしだけレルリラ姫のスカートが浮き上がった。

 魔力(フォース)が、螺旋を描いている。

 レルリラ姫は、目を閉じてなにかを言い始めた。

「リラレルリラレル・フラランファ☆
 カフィングカフィング・チュリリンファ!
 わたしの心は十二輪。ひらけ門花(もんか)よ門花(もんか)よひらけ・
 ひらいてひらいて、ヨウセイツツミ!」

 レルリラ姫はこの謎の言葉を唱えると同時に、
 天に、ウイングラード王家の秘宝・「華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)」を掲げた。

 すると、橋の敷石の隙間に咲くヨウセイツツミの野花が輝きを放ち、色とりどりの光のようなものを放った。

「花が光った…!?」

「光ではありません。花粉ですわ。
 ヨウセイツツミを『門花(もんか)』として召喚した、様々な種類の花粉です」

「花粉だと!?」

 放たれた色とりどりの花粉は、色ごとに別れ、空中に、魔法陣のようなものを形成していった。

「なんだこの魔法陣はっ…!?」

「魔法陣ではありません。華法陣(かほうじん)ですわ」

「貴様…華法(かほう)使いかっ!」

「華法のプリンセス・華輪(カリン)のレルリラですわ…!」

 華法とはなにか。説明しよう。

 華法とは、植物に関連するエレメンタルの持ち主が、魔力(フォース)で様々な花粉を召喚・調合し、空中に花粉による「華法陣(かほうじん)」を描いて、花粉症やアロマテラピーや防虫や麻痺や毒殺など、花粉による様々な現象を起こす方法のことである。

 視界にどんな花でも「地に咲く花」が存在することも必要となる。 この花を「門花」と呼び、この「門花」を扉にして様々な花粉を召喚する。

 呼び寄せる花粉の華の種類が多いほど「華法陣」の数は増え、一輪華法(いちりんかほう)、二輪華法(にりんかほう)、三輪華法(さんりんかほう)などとスケールアップする。

 基本的に「花粉があれば出来ること」しか出来ないため、生体を持った相手にしか効かないケースが多い。  使用するための条件が多いため使用者は少ない。

 これが、「華法」である。

 今回レルリラ姫の作り出した色とりどりの華法陣は十二輪。
 スギ、ヒノキ、ブタクサ、マツ、イネ、ヨモギ、シラカバ、クヌギ、オオバヤシャブシ、スズメノテッポウ、セイタカアキノキリンソウ、カフンメッチャヤバイソウ。以上の十二種類である。

 そして、華法のステッキ・華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)が唸りをあげた。

 この杖は華動力(かどうりょく)ドライブを搭載していて、魔力(フォース)の補助により、召喚した花粉をたやすく増幅・制御できる華法補助装置なのであった。

 ディルガインの周囲を、空中に浮かぶ色とりどり十二の華法陣が取り囲み、くるくる回り始めた。

 ディルガインが質問した。
「こ…こんな真似が出来るなら、なぜ今までやらなかった?」

「あなたが極限まで消耗した今なら、あなたを倒せる。
 そう判断したからですわっ♪」

 そう言って華法少女はにっこりと微笑み、華法のステッキを振り下ろしながら華法名を宣言した。

「十二輪挿し華法(じゅうにりんざしかほう)・I型急性全身重症アナフィラキシー華粉輪・始咲(しさい)!」

 十二輪の華法陣のそれぞれ中央から、ディルガインに、一気に花粉がビームのように降り注いだ。

「おおおお!!!!!!」

 その様相はまるで、ディルガインが花瓶、花粉ビームが茎、そして華法陣は大輪の花である。

「ふぐあああああ!!!!」
 大量の花粉を受けたディルガインの変身が解けてゆく。

 I(アイ)型、すなわち即時型の急性アレルギー反応による発作に見舞われ、みるみるうちにディルガインの顔が紅潮してゆく。  目は充血し、鼻もなにやら、じゅるじゅるし始めた。

「は…は…
はーっくしょい!!はーっくしょい!!うあー…あ…あ…!!」

 ふら、ふら、とディルガインの上半身が揺れ、
 めまいを起こしてがくりとディルガインは膝を着いた。

 ディルガインに目的量となる最大限の大量のアレルゲンを注入したことを確認したレルリラ姫が「了咲(りょうさい)!!」と叫んだ。

 華法陣を形成する花粉は、しゅるしゅると、先程の映像を巻き戻したように、門花のヨウセイツツミに吸い込まれ、花粉は、もといた花々に戻っていった。

 ふら、ふら、と、ディルガインの瞳が泳いでいる。

 ディルガインの紅潮した肌にじんましんが浮き出て、気管支も喘息(ぜんそく)を起こし、ヒュー、ヒュー、とした呼吸音に変わった。

 ディルガインは、特殊な花粉症による急性アレルギー反応で、アナフィラキシー・ショックを起こしたのだ。

 しかしディルガインは、気を失いは、しなかった。

「ま、魔王たるもの…か…か…花粉症では…殺せはしな…は…はーっくしょいっ、ちくしょーい!!」

 ディルガイン、涙目である。
 ひゅー、ひゅーと、呼吸音。

「こ…こんなアレルギー結膜炎(けつまくえん)や鼻炎やくしゃみやめまいや紅潮やじんましんや喘息ごときで、魔王たるものは、た…倒せはしな…
ああーっくしょい!はーっくしょい!……ああああー!!もう!!」

 鼻孔から、液状アレルギー反応が出ている。
 そこで、ディルガインは実力と威厳を示すことにした。

「はあっ!!」

 バシュウ!!と音がしてディルガインの頭上に水蒸気が上がった。
 鼻水を蒸発させたのだ。
 魔王たるものは、鼻をかむことすら必要ないのだ。

「!!」

 そのディルガインの行為と増幅した殺気に、レルリラ姫は戦慄した。

 ディルガインは立ち上がった。

 バシュウ!
 バシュウ!

 ディルガインは、次々と発生する鼻からの液状アレルギー反応を蒸発させてゆく。

「重症アナフィラキシー・ショックを発症して、なお平気で立ち上がるなんてっ…!」

 重症アナフィラキシー・ショックを発症して平気なのか?というと、ディルガインは全然平気というわけではなかったのだが、ともかくも、意地でディルガインは立ち上がり、叫んだ。

「黒獅炎(こくしえん)……!でいっ!!」

 でいっと、ディルガインの胸の獅子から黒い火球が発射された。

 レルリラ姫はすかさず、華粉翼王女杖(カフィングプリンセスワンド)を取り出し、対抗する華法を始めた。

「リラレルリラレル・フララン…」

 しかし、間に合わない!

 ブオワアア!!

「きゃああああ!!」

 レルリラ姫は黒炎に巻かれた。
 ずざああ!!

 姫はダメージを受け倒れた。
 焦げたドレスのにおいが立ち込めた。

「わかったか…、レルリラ姫。
 わたしの花粉症を、今すぐ、な…な…なんとかしろ…!
 …こ、坑ヒスタミン魔法はないのか…?
 または花粉を体外に移す華法でもいい…!
 このアレルギーを治してくれるなら…、
 い、命だけは、た、助けてやる!
 さ、さもないと…ころ…
 は…は…はあーっくしょい!!っとくるあああ!!!!!」

 と、くしゃみした。

 ディルガインの殺気が強まり、レルリラ姫の膝が恐怖で震えた。

 しかし、焦げたドレスを纏った王女は、ゆっくりと、立ち上がった。
「あ…あなたのような悪党を助けるために咲く花はありませんわ」

 そう、レルリラ姫はぴしゃりと笑顔で言った。
 そして、少女は青い敷石の上に立った。

 ピロリロリーン!
 ピロリロリーン!!
 ピロリロリーン!!!

 三度、回復魔法をかけてくれたようだ。
 レルリラ姫の傷は回復した。
 焦げたドレスはそのままである。

 そのあと青いタイルは点滅しはじめた。
 MPが足りなくなって来たのだろう。

 ロヴィンポーク大伯爵もそこで発言した。

「ひひひひ、姫様のおっしゃるとおりです!!
 ロンドロンドふるさとスタンプ会員規約(本日追記改訂)の、
 ロンドロンドふるさとスタンプ会員殺害禁止条項の規定により、
 ロンドロンドふるさとスタンプ会員を殺そうとした
 ロンドロンドふるさとスタンプ会員は、もれなく!
 ロンドロンドふるさとスタンプ会員を強制退会となり、なおかつ
 ロンドロンドふるさとスタンプは没収です!パンパカパーン!」

 ロンドロンドふるさとスタンプステッキを構えて、
 ロヴィンポーク大伯爵は、こう言い放った。

 ピロリロリーン!!
 と、パワーブリッジの妙に太い柱も賛同した。

 ディルガインは、
 ゼエ、ゼエ、と呼吸しながら、
 ビリ、ビリ、と、自身のふるさとスタンプカードを破り捨て、
 グリ、グリ、と足で踏みにじった。
「退会会員に、会員規約など無効だ…。死ねえ!!」
 ディルガインは血走った瞳と、じんましんが浮き出た紅潮した顔のままレルリラ姫に飛び掛かった。

 そのとき。
「姫様を守ろうキャンペーン!!」

 ガシイ!!
 レルリラ姫に飛び掛かったディルガインの間に、ロヴィンポーク大伯爵が入り込んだ。

 ロヴィンポーク大伯爵は、鋼鉄のロンドロンドふるさとスタンプステッキでディルガインの牙を受け止めながらも、
「ひええええ!!!!」と、恐怖の悲鳴をあげた。

 ロンドロンドふるさと会館館長を睨みつける、
 ロンドロンドふるさとスタンプ退会会員。

「ひ、『姫を守ろうキャンペーン』だと?豚鳥!!」
 退会会員ディルガインが、ヒューヒュー呼吸しながらロヴィンポーク大伯爵を威圧した。

「ひええええ!!」

「まあ♪ 嬉しいですわ。ロヴィンポーク大伯爵。
 『姫を守ろうキャンペーン』とは、一体どんなキャンペーンなのですか?」
 会員レルリラ姫が尋ねた。

「ひえええ!キャ、キャンペーン期間中に、ひ、姫様を守ったロンドロンドふるさとスタンプ会員様には、ロンドロンドふるさとスタンプをもれなく六六〇〇個!六六〇〇個さしあげます!!ひええ!!」

「豚鳥め、邪魔だあああはーっくしょーーい!!」

 ばしい!!

 ディルガインは、くしゃみしながら、ロヴィンポーク大伯爵をパワーブリッジの外に投げ飛ばした。

 橋の下は、一月の冷たいクーモズ川である。

 レルリラ姫が叫んだ。

「きゃああああロヴィンポーク大伯爵―!!
 …って…、ロヴィンポーク大伯爵はどこからどう見ても鳥だから飛べますし、大丈夫ですよね?」

 ブッブー!!
 と妙に太い柱が答えた。

「きゃああ大伯爵、飛べないのですかっ? あんなに鳥なのに?」

 ピロリロリーン!!と妙に太い柱が答えた。

「きゃあああ!じゃあロヴィンポーク大伯爵は泳げますか?」

 ブッブー!

「きゃあ!妙に太い柱さんは、ロヴィンポーク大伯爵についてやたらとお詳しいのですね!」

 ピロリロリーン!!

「じゃあ!妙に太い柱さん、あなた、泳げますか?」

 ブッブー!! ブッブー!!

 そんななか、どこからどう見ても鳥なのに飛べない大伯爵は、
 墜落しながら、
「ぎゃあああああ落ちてゆきますううう!!!!」
 と、自分の状況を解説した。
 高い堤防の上の高い橋なので、大伯爵はまだ落下中である。

「わかりましたっ!!」

 しゅばっ!!

 レルリラ姫は、なんとパワーブリッジから川に向かって飛び込んだ。

 ブッブー!! ブッブー!! ブッブー!!

 と、妙に太い柱がレルリラ姫を止めたのだが、もう遅い。

 ぎゅいいいいいいいいいん!!!!

 ロヴィンポーク大伯爵とレルリラ姫は、どんどん落ちていった。

 ディルガインは橋の下を覗き込んだ。

 ディルガインの目はひどいかゆみを伴い、涙とアレルギー結膜炎で、あまりよく見えない。

 だが川面(かわも)に向かって落ちてゆく、ロヴィンポーク大伯爵と、レルリラ姫に向かって、「なにか」が、川面スレスレに猛スピードで低空飛行してゆくのは見えた。

 その「なにか」が、なにか、叫んでいる。

「いっけええええええ!!!!」

 この声はすこし前にも聞いた。

 あの、小童(こわっぱ)だ。

「へンハ=ヒューホウハン!!」

 花粉症のアレルギー性鼻炎の影響で、なんだかひどい鼻声になってしまい、言いたかった人名を言えなかったディルガインは、ポケットティッシュを取り出した。

 ディルガインは、鼻水を蒸発させるのは熱くて痛いので、実はほんとうは、鼻水はティッシュでかみたい人なのであった。

 魔王たるもの、なかなか大変なのであった。

 しかし、もう鼻をかんでも大丈夫だ。もうここにはディルガインしかいない。
 妙に太い柱の中にも人はいない。ことになっているのであった。

 はなちーん。
 なのであった。

 鼻をかんだディルガインは、あらためて叫び直した。

「ケンヤ=リュウオウザン!!」

 よかった。
 今度はちゃんと言えた。

 竜のトムテに乗ったケンヤ=リュウオウザンが、水面スレスレで、レルリラ姫をキャッチしていた。

 ロヴィンポーク伯爵は、竜のトムテが豚鼻を前脚でつかんでキャッチしていた。

 ケンヤがレルリラ姫のおでこに、ぺたっ、と絆創膏を貼って、言った。

「助けに来たぜ!レル!」

「ケンヤっ!!」

 レルリラ姫はそのとき、お姫様人生ではじめて、
 お姫様だっこされていた。

 お姫様として生まれて初の、お姫様だっこである。

 レルリラ姫のハートも、ちょっぴり、キャッチされたのかもしれなかった。
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