#14 怪人・芋獅子仮面
爆発から、なにかとてつもなく巨大な存在が姿を現した。
「イモやっ!」とガンマ。
「獅子だっ!」とアルシャーナ。
「仮面だっ!」とトムテ。
イモ!獅子!仮面!
「そう。俺は黒獅将ディルガイン様より生み出された、ほっくほくの怪人。その名も、芋獅子仮面(いもじしかめん)Aだポテ!!」
ズバーン!!
ポーズが決まった。
画面の下に「芋獅子仮面(いもじしかめん)A」というテロップが出た。
何の画面かはわからないが、とにかく出た。
「芋獅子仮面(いもじしかめん)A」と名乗ったその怪人は、六ナメトルもあろうかという巨大な身体をしていた。
ぽてっとした体型。
その身体は、よくみるとゴロゴロとした大量のジャガイモだけで構成されている。
獅子の仮面をしていなければシンプルなジャガイモの集合体であった。
ポーズを決めている芋獅子仮面(いもじしかめん)Aに、ガンマが聞いた。
「…じゃがいもゆうたら、ディルガインの統治する、ルンドラでも多く採れると聞く…。
せやけど今、ルンドラの民といえば、食糧難で苦しんどるって有名やないか…。
そんな貴重ないもを大量につこて、こんなもん作るなんて…、
ディルガインのやつ、どないなっとんねん!!」
しかし、芋獅子仮面(いもじしかめん)Aはポーズを取りながら、
そのまま、墜落した。
「グワー……」
落ちてゆく芋獅子仮面(いもじしかめん)Aの断末魔の悲鳴のボリュームがだんだん小さくなり、次に地表で、ぐしゃ、ばらばら、という音がした。
「…どないなっとんねん…」
尋ねっぱなしのまま、宙に浮いてしまった質問を持て余したガンマは、ひとりごとのように先の質問をツッコミに用途変換してつぶやくことによって、煮え切らない気持ちを良しとすることに成功させた。
「ジャガイモって飛べないもんな…」
竜のトムテが感想を述べた。
地面に叩き付けられた芋獅子仮面(いもじしかめん)Aは解体され、
ばらばらと、ただのジャガイモが大量に散らばっていった。
アルシャーナが、
「さらば芋獅子仮面(いもじしかめん)A……」
と、つぶやいた。
この芋獅子仮面(いもじしかめん)の仮面は、同じ仮面が複数枚重なっていたようで、
仮面は、同じ顔のものが三つに別れて散らばっていた。
そのとき、
ガンマが何かに気付いて叫んだ。
「アーナ、まだあるでっ!」
空からアルシャーナが地面を見下ろすと、芋獅子仮面(いもじしかめん)のひとつひとつの仮面にジャガイモがひとりでにコロコロ集まりはじめていた。
BOM!
爆発が起こり、今度は二ナメトルずつの身体の者が三体誕生した。
爆発して誕生したので、
事実上のいわゆる爆誕(ばくたん)というやつである。
というわけなので、三体は、声を合わせて言った。
「芋獅子、爆誕(ばくたん)だポテ!!」
続いて三体は、一体ずつ名乗った。
「我が名は、芋獅子仮面(いもじしかめん)Bだポテ!!」
「いやいや、我が名こそが、芋獅子仮面(いもじしかめん)Bだポテ!!」
「いやいやいや、我が名のほうこそが、芋獅子仮面(いもじしかめん)Bだポテ!!」
ズバーン!!
ポーズが決まった。
「いやいやいや、お前らは芋獅子仮面(いもじしかめん)Cと芋獅子仮面(いもじしかめん)Dだポテ!俺のBの座は譲らないポテ!」
「そういうお前が芋獅子仮面(いもじしかめん)Cか芋獅子仮面(いもじしかめん)Dをやるポテ!」
「先に生まれたのは俺だポテ!だから俺が芋獅子仮面(いもじしかめん)Bだポテ!!」
「お前はイモの数が少ないからDだポテ!」
「お前こそなぜかニンジンが一本混じってるからお前はDだポテ!!」
「お前はここんとこの、このイモの形状がなんとなくエロいから、お前がDだポテ!!」
「照れるポテ!!」
「ほめてないポテ!!」
そして、芋獅子仮面(いもじしかめん)たちは、声をそろえて言った。
「…おのれ蒼いそよ風め…。
イモの芽にものを見せてくれるポテ!!」
ズバーン!!
ポーズが決まった。
アルシャーナは、トムテが地上に降りる三秒前に地上に飛び降り、
「よくふかすイモだな…」
と言って芋獅子仮面(いもじしかめん)たちにメンチを切った。
続いてトムテの背中から降りたガンマは、気絶しているケンヤをトムテから下ろし、寝かせた。
ぴちくりぴーがぴいぴいと、ケンヤを突いて起こそうとしている。
ガンマは、周囲をみて現在位置を確認した。
広く草や土が広がった大地。
ここは王宮の所有する広大な緑地「ロンドロンドガーデンプレイス」内なのであった。
群立するウイングラード騎皇帝立聖神宮殿群のなかの神宮殿のひとつ、バッキングミ神宮殿が二百ナメトルほど先に少し遠く見える。
「ここなら思いきりやれるでえ…!」
ガンマはニヤリッと笑い、
「リーダー!!」
と大きく叫んだ。
「はうあっ!!うあ!!」
ごつん。
ケンヤは跳び起き、ぴちくりぴーに思わず頭突きをかましてしまった。
「あぅ…!ご、ごめん!!」
ぴちくりぴーはぴいぴい抗議したあと、ケンヤのハチマキの先を咥えて、ぐいぐい引っ張った。
ぴちくりぴーは、元来た方向へケンヤを連れていこうとしているようだ。
それからケンヤは、ガンマとアーナとトムテが、なんだかよくわからないジャガイモの化け物たちと対峙しているのに気がついた。
「いも?」とケンヤが質問した。
「いも」とガンマが解答した。
「いも…!」とケンヤは納得した。
ガンマはケンヤに
「リーダー、レルリラ姫を助けに先に行っといてくれ。いもは、わいとアーナで十分や」
とウインクした。
アルシャーナもケンヤに
「ディルガインの口車に乗るなよ!」
とアドバイスした。
このやり取りを聞いたトムテは
「よし、乗んな!ケンヤの旦那!走ってくからよ!!」
と、ケンヤに背中を向けた。
「よしわかった!!」
ケンヤがトムテに跨がった。
ぴちくりぴーも再びトムテの頭上に飛び乗ったので、トムテはぴちくりぴーに話しかけた。
「がう?」
「ぴい!」
「がうがうがう?」
「ぴいぴいぴい!!」
そしてトムテは
「姫さまの場所はバッチリわかるそうだ!」と言った。
ぴちくりぴーの頭についた羽根がうっすらと光っている。
これは、主人を見失ったときに探すことが出来るセンサーになっているのだろう。
よおおし!とケンヤは改めて叫んだ。
「いっけえええ!!」
ガンマとアルシャーナとイモたちを、ロンドロンドガーデンプレイスのバッキングミ神宮殿近郊に残して、ケンヤとトムテとぴちくりぴーは、再びレルリラ姫の救出作戦に出た。
そうはいかんポテ、と言ってその行く手を遮り、美味しいところを持っていこうとしたイモもいたが、イモというのはやはりイモであり、イモはイモでしかないので、美味しくされてしまう存在は、むしろイモのほうなのであった。
アルシャーナとガンマ。
拳と魔法のファンタジーが、大地の恵みをおいしく料理し始めた。
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