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#10 エウイアアーチの雷撃


 その頃。
 ロンドロンド城・正門エウイアアーチ前広場。
 バラの咲き乱れるエウイアアーチローズガーデン。

 そこでガンマは、ドルリラ王を避難させていた。

「…大丈夫かね、ガンマくん」
「えらいすんまへん…陛下…」

 ガンマはぐっと、自作のポーションを飲み干した。
 あれだけ大量の血を見たあとは、どうしても気分がすぐれない。

 騎兵のオットーがガンマに礼を言った。
「ガンマ様。陛下のことは、あとは我々がお守りします。どうもありがとうございました」
「おおきに」

 オットーがしゃしゃり出て言った。
「それにしても陛下。私の推理したところによると今回の殺人事件のトリックはですな…」
「トリックの推理はよい。よいから黙っておれオットー」
「私の推理は完全です。推理によるとおそらく凶器は…」
「いいから」
「はっ…」

「ガンマくん、いきたまえ。仲間が心配だろう」

 しかしガンマは極度の流血恐怖症である。
 そんな自分が、倒れた聖騎士たちの流血で溢れたあの場所へ戻ると、かえってケンヤたちの足手まといになる。

 ガンマはそれを知っていたので、ドルリラにこう言った。

「いえ、聖騎士が敗れたいま、陛下は多大な危険に晒されておりますさかい、この場はもうしばらくここで陛下をお守りしますわ」

 これもまた、ガンマの出来る大切な仕事であった。

 しかし事態というのはときどき思いもよらない方向に進むものだ。

 どがん。

 急に音を立てて、
 ガンマとドルリラ王の目の前に、おもむろに等身大の穴が空いた。

 穴は深く深く、どこまで底があるのかわからないくらい深い。
 穴のアウトラインは、人間の形をしている。

 つまり外から人間が降ってきたのであった。
 いや、「人間をやめて半分は魔獣になった者」といったほうがいいだろう。

 特徴ある背中や肩のパーツをかたどった穴の形状で、それが、誰が落ちてきた結果作成された穴なのかは、容易に確信できた。
 そこでガンマは。穴を埋めるように穴の中に雷撃を注ぎ込んだ。

「呪文(スペル)……雷散弾(ライオサンガー)!」

 ドン!!

 人型の穴の中に奥深くまで雷撃が注がれ、あふれ出た雷撃が人型のまま、寒天ゼリーのように天高く、イナズマの柱をつくった。

 しばらくすると人型の穴の中から煙が人型のままもわもわと溢れてきた。

 ドルリラは喝采を送った。

「おお、黒獅将ディルガインを倒したぞ!ガンマくん!」

「念のため、もういっかいやっとこか。呪文(スペル)……雷散弾(ライオサンガー)!」
ドン!!
「もういっちょ、呪文(スペル)……雷散弾(ライオサンガー)!」
ドン!!
「おまけや、呪文(スペル)……雷散弾(ライオサンガー)!」
ドン!!

 このあと、人型の穴の中から煙が人型のままもわもわと出てくるまでに、ずいぶんと時間がかかった。つまり、だいぶ掘ったようだ。

 (ただの子供たちではない…)
 ドルリラ王は、認識を改めた。

 さきほどケンヤたちがディルガインの前に現れたときは、子供ではないか、と、正直思ったものだった。
 しかし、ただの子供ではなかった。

 魔王と化した黒獅将ディルガインは下界屈指の実力を持つ聖騎士を手玉に取り、惨殺したが、この子供たちは、そのディルガインを相手に、優勢の戦況なのだ。

 かつて蒼い風は全滅した。
 これが下界の「常識」だった。
 しかしこの「常識」は、この戦いにおいて覆されるだろう。
 いまや蒼い風は、確かにここにあるのだ。

 ドルリラはそう気付くと、なにか熱いものがこみあげて来るのだった。

「おーいガンマー!」
 ケンヤとアルシャが駆けてきた。
「さっきなんか蹴ったやつ、どこいった?」
「穴の中」
 アルシャが穴をのぞきこんだ。
「やーっほー!」
 やーっほー… 
 やーっほー… 
 やっぱりずいぶん掘ったようだ。

 「では私がディルガインめを引き上げて参ります。重要参考人として事情聴取をしなければ」
 と言うやいなや、騎兵オットーが穴の中へ飛び込んだ。

「あ、やめとけ!」
「危険や!」
 しかし、遅かった。

 しばらくして穴の中から
「ぎああああああああああ…」
 という声が聞こえ、
 それからもうしばらくして、穴の中から穴の外へスポっと、何かが投げられた。

 ずざあ。

「オットー!」

 それは魔獣の鋭い牙の攻撃を受け、変わり果てた騎兵オットーの姿であった。

「へ…陛下… さ…殺人事件でございます…」
「いいからしゃべるなオットー…」
「わ…私の推理したところによると…今回の殺人事件のトリックはですな…」
「トリックの推理はよい。よいから黙っておれオットー」
「こ…この穴がト…トリックの鍵を握っているのではないかと…」
「いいからしゃべるな…」
「し…しかし私の推理は完全です…おそらく凶器は…」
「いいから」
「はっ…」

 そしてオットーは気絶した。
 オットーは担架に乗せられて、兵たちや門番のおばちゃんに運ばれていった。

「穴の中からふざけやがって…」
「なんか…穴の中から声が聞こえてくるな…」
「ディルガインの声かな…これ」
「ディルガインの声だな…これ」
「しかしものすごくエコーがかかってよく聞こえないぜ…」
「えーと…」
「ワル…ジャーク…さま…きて…くだ…さい………とか言うてる」

「しょうがねえな…中継するか」

 ケンヤは、ぐっと、腹部にちからを込めた。

 そして、ありったけの声で叫んだ。

「出て来いワルジャーク!!俺たちが、世界を救う!!」

 ドン!

 それからわずか1秒。

 白い天翔樹の葉がひらひらと舞った。

「いつ?」

 そう、低音の声が響き渡った。

 ただ「いつ?」と聴いただけでその声は、あっというまにその場の空気を粉々に粉砕するほどの威圧感を発揮した。

 ケンヤはその声に、声を声と意識する間もなく無意識に、

「…そのうち…」

 と、つい、返してしまったあと、しまったと思った。

 しかしケンヤは、そのまま訂正するタイミングを失った。

 その場には、
 砕帝王将ワルジャークが登場していた。

 ケンヤの前に、ガンマの前に、アルシャの前に、

 両親や大切な人たちが死んだ「あの日」の象徴がふたたび登場していた。

 つまり砕帝王将ワルジャークが、再登場していた。

 「再登場」というよりは、「砕登場」と言った方がいいかもしれない。

 つまり、
 砕帝王将ワルジャークが、砕登場していた。
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