#5 ディルガイン公の謁見
時間を、少しさかのぼる。
聖騎団の竜騎レックスは、もー、いらついていた。
もともとの短気に輪をかけて、ムカついていた。
もー、こーゆームカつくときは、レックスは、暴力をふるいたくてたまらないのだ。
ことの発端は、ゆうべだった。
邪雷王シーザーハルトとともに死んだと思われていた魔王のしもべたちが、急にウイングラードの街に現れて、暴れ出したのだ。
ペパーミンガムでは、今はなき砕帝王将ワルジャークの配下、ヒュぺリオン。
エンジバラでは、今はなき邪雷王シーザーハルトの配下、レウ。
レックスは、ご機嫌になった。
「ひゅーっ、上等じゃねえか、こいつぁー出番だぜ、レックスの旦那」
「オウ、やったろーじゃんか!腕の見せ所とくらあ、相棒」
とかなんとか、レックスが竜のトムテと威勢のいいことを言っ合っているのも束の間。
なんか、えらい人が、こう言ったのであった。
「アッカとキャロットは、ヒュぺリオン。
オーサとマッツはレウ。
ユクシとカクシとレックスは留守番じゃ」
「ほへ?」
「留守番ッ!」
「はにゃあ??」
「るー、すー、ばー」
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!???
「ん―――――――!!」
騎皇帝のつるの一声。
「そりゃないぜ、頭領〜」
「頭領じゃない。王じゃ」
「…オオ〜ウ…」
そんなわけで、むしゃくしゃしてるとこに、次から次へと、追い討ち、追い討ち、矢次早っ!
●スープが冷めてる。まじムカ!!
●しかもそのスープには、あんまし好きじゃない、しいたけがはいってる!一片一片とりのぞく。いらいらいらいら。
●アッカ隊長曰く「留守番の間は若手の騎士に稽古をつけてやってくれ」めんどーい!
●マッツ曰く「おみやげカーイ?僕らは遊びに行くんじゃあないのヨー」なんでこいつは、こういう、やな話し方なんだ!
●若手に稽古。特に理由もなく、ムカつく。けっとばす。オレだって若いっつーの!
●鳥のふんがかかる。オラ鳥!降りて来いクラァ!!
●バナナの皮でこける。
●そこになぜか、たらいが落ちてくる。がん。
●かわいいメイドの女の子がそれを見て「くすっ」と笑いやがる。屈辱!!!
●相棒に「ししししし」と笑われる。相棒しばく。大喧嘩。
●相棒と喧嘩してバカやってたら、尊敬するユクシさんとカクシさんに見つかり、ど叱られる。あの二人には絶対かなわないんだよな。まいる。正座させられる。反省。うがぁぁぁぁ!!
●なんか、『蒼いそよ風』とかなんとかぬかす、くそガキどもが話しかけてくるが、聖騎団と古くから親交のある『蒼い風』のガキどもなので、けっとばして泣かしてやりたいところを我慢して我慢して、じじい(執事)に取り次いでやる。いらいらいら。
●そしたら、よりによってこの、クッソこぎたなーい、超くそガキどもを、あろうことか、清純でけがれなき天使のようなレルリラ姫と、謁見させるとかなんとか、とんでもないことを、じじいがぬかす。
●しかも文句たれる、くそガキども。とうとう、本当にけっとばしてしまう。
●そしたら、そうじのおばちゃんが、陰でこそこそ「大人気(おとなげ)ないねえ聖騎士ともあろうもんが…」とか言ってる。堂々と言えばどうだっ!
●このあとは、ルンドラからディルガイン公が来る。オレ達は王の護衛である。たるいっつの!。
ア――――――むかつく!!
そんなレックスであった。
てなてなわけで。
どどんと、王の間。シャンデリア燦然と。
騎皇帝の前に、レックス、ユクシ、カクシ。3名の聖騎士が立った。
「レックス、集中せよ。王の御前であるぞ」と、ユクシさん。
「お前も聖騎士なら、もっと落ちつきというものをもちなさい。いいね」と、カクシさん。
「…ふあーい…」
ゴス!
なまくらな返事を返したレックスに、早速ユクシのげんこつが飛んだ。赤鳳流拳法だった。
このたまらんムカつきは、どこへ行けばいいのか??
騎兵のオットーが来賓の謁見を告げた。
「王、ディルガイン公です」
「苦しゅうない」
四人の付き人をつけて、ルンドラ島領主・ディルガイン公、若干二十歳が入場してきた。
「どわっはっはっは!! おひさしぶりです! ドルリラ様!!」
「ひさしぶりだなディルガイン」
「待ちわびましたぞー。この日を…」
「わしもだよ、ディルガイン。…おお、どうした。今日は多弁ではないか。いつもは押し黙っているのに」
「ああ…。
もう、私は、これ以上我慢しなくてもいいのです」
「?」
「陛下は…、ワルジャークという、ルンドラのかつての英雄を、ご存知ですか?」
「英雄…だと?」
「ルンドラをウイングラードから独立させ、エウロピアおよびウイングラード全土を支配。蒼い風に倒され、ここ、ロンドロンドで処刑。霊魂を邪雷王シーザーハルトに拾われ、一番弟子となった…」
「ふん…。一部のルンドラの民からは、いまだに英雄と言われておるな…」
「一部なものか…!」
「!?」
様子がおかしい、誰もがそう思った。
ディルガインが、魔物のような眼光を見せる。
「ルンドラは! 力で抑えつけられているだけにすぎん!! 誰もが独立を求めているのだ!!!」
「話を聞こうではないか、ディルガイン」
「聞く耳はもたんな…。ルンドラの民の意思は、わたしの意思、偉大なるワルジャーク様の意思…ひいては、魔王の父なる邪雷王シーザーハルトの意思だ!!!!!」
ディルガインの姿が黒いオーラに包まれたかと思うと、爆発した。
―――――――ゴウン!!!!――――――
王宮中に轟音が響く。
きっと姫の部屋にも届いていよう。
そこに存在するのは、
魔獣であった。
「ワルジャークの四本足…黒獅将ディルガイン。ルンドラの為、正義の為、ここに立つ!!」
騎皇帝ドルリラは、鋭い目で、戦慄しつつ、ゆっくり戟(げき)を取った。さすがに、まだ驚きは隠せなかった。
「ガああああアッッ!!」
しかし、王宮のだれもが呆気にとられる中、一人だけ準備万端、爆発寸前な者がいた。
もちろん、レックスだった。
爆発。
下界の誇る聖騎の剣が、いま、魔獣にふりおろされた…!!
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