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#2 じゅうよんアホの、カゼのウタ。


薄く、紅(くれない)に空。
赤く、赤く。
ケンヤ、ガンマ、アルシャーナ。
三人の「蒼いそよ風」が、ロンドロンドの、こぢんまりとした町並みを吹いていた。

原っぱ、脇道。前方に。
凧(たこ)。
ケンヤは、幼い子供たちの歓声に天を仰いだ。
小鳥たちが、その周りを飛んで遊んでいた。
子供たちを呼ぶ、母親の声が聞こえた。
凧(たこ)の少年達と、すれ違った。
残酷にも、空の色が落ちていった。ゆっくり、しかし確実に。
仕方なく、空の凧も落ちていった。ゆっくり、しかし確実に。

夕方、艶やかに影を含む草むらの匂い。やわらかく、ふあ、と背中を撫でるような風。
あの子供たちの、この匂いの中に存在できる今日の「解放」が、おわりつつあった。

なんでもない、日常。
ケンヤにもかつて、この瞬間があったのだ。

でも、ケンヤの、こういう日常は、終わった。
そして、終わった日、ザスタークさんが、ケンヤの魂に宿った。
そんなことはないのかもしれない。
でも、感覚で、そう、ケンヤの胸に響いていた。
(これは偶然なのかな?)
と、ケンヤは思った。

なにやらお城が見えるから、ガンマとアルシャーナは、有名なドルリラ王や、レルリラ姫、それから聖騎団なんかの話をしているみたいだった。

ケンヤは聞き流して、凧が落ちてゆく無念を、その空を、じっとながめていた。

ザスタークさんが、日常と引き換えにやってきた日。
後ろを振り向き、落ちてゆく、ああ、落ちてゆく凧を見ながら。空を、見ていた。

(“ワルジャーク”と戦う日が近いのかもしれないな…)
ケンヤは、回想した。

3歳のとき……まだ、“蒼い風”が滅びていなかった頃だった。

「おもろー、おもろー、かみしばい。
じゅうよんアホで、ゆめいっぱい。
ゆめのついでにゃ、あめいっぱい。
おかねないやつぁ、こぶいっぱい。
かんおけいっぱい、はかいっぱい。
もんなしゃおかんつれてこい。
もんなしゃさいふつれてこい。
つれてこなきゃあ、ししゃいっぱい。
おもろー、おもろー、かみしばい。
おもろー、おもろー、ああおもろ」

あれは、ナニワルチアに滞在していた時だったかなー…。
乱暴で、夢いっぱいの、紙芝居屋さんがきた。
お袋と、見た。
わるい怪物を、仮面の英雄が、手を伸ばしてやっつける話だった。
その紙芝居に描かれていたのは……なんていうヒーローだったかな。
手、伸びる。なんとかマン。思い出せないな。
その後、いろんな色のあめを貰(もら)ったことと、メロン味のあめで緑色に染まった舌を、アルシャに笑われて腹たったことは、よく覚えているのに。

今思うと、たしかにその仮面の英雄は、ザスタークさんだと、ケンヤは思った。
でも本当に、その英雄の絵がザスタークさんだったのか、違うのかは、知る由もなかった。
ただ、これだけは、はっきりと言えた。
それからずっと、名前も知らない仮面の英雄に、憧れ続けてきたこと。
(目指すべき風帝ではなく、そんなものに、敢えて憧れていたのは、「逃げ」だよな)
今ではそうも、思っていたが。
憧れて、自分と、紙芝居の仮面の英雄を、いつも重ねていた毎日だった。

そんなある日。
発祥の地・ブルーネイルにて、
“蒼い風”は滅びた。
邪雷王シーザーハルト率いる魔王達との戦いの末…。
ケンヤは、大切な人々が次々と散っていく様を、目の当たりにした。
ケンヤは、父ジンの、邪雷王シーザーハルトとの一騎打ちを、そして死を、目の当たりにした。
続いて、母アルマが身を呈してケンヤを守り、死ぬ様を、目の当たりにした。
ケンヤはこの時、自分が何かを叫んでいたようだけど、なんだかわからなかったし、どうでもよかった。

これらの瞬間のことは、自分では、鮮明には思い出せないようになっていた。何が起こったかは知っている。しかし、覚えている、という自信は、つかみたくなかった。
臆病風(おくびょうかぜ)が螺旋(らせん)のように、ケンヤの記憶を、厚くつつんでいたのだろう。
(強くなったとき、この瞬間のことを強く思う日が来るんだろうか)
そうケンヤは思った。

ケンヤが覚えている情景は、果てしなく自らの感情が爆発する世界だった。
混乱。焦り。悲嘆。恐怖。包ミ込ンダ。

ザスタークさんにはじめて会ったのは、そんな時だった。

邪雷王シーザーハルトが、傍らの男を呼んだ瞬間。

そう、この瞬間から、ケンヤの記憶は鮮明になるのだ。

邪雷王シーザーハルトが、傍らの男を呼んだ。
「ワルジャーク。見ろよ、あれを」
「風帝の…、芽か…」
力強く、それでいてどこか悲しそうな目をした、威圧感のある男が答えた。
それが、ワルジャークだった。

(「風帝の芽」…オレのことだ…!!)
ケンヤは焦った。

「摘(つ)むか?師(シーザーハルト)よ」
と、ワルジャーク。

「お前になら任せても良い」
邪雷王シーザーハルトはそう言うと、後方の敵に気付き、後方に移動した。

「シーザーハルト…。まだ私を信頼できるのか…」
そう言ってワルジャークは、ケンヤを睨み、
す、と、息を吸った。
ケンヤも、す、と吸った。

だん!と、ワルジャークは、ケンヤに向かって突進した!
ワルジャークは無言で殺意を放ちながら、右手の掌を開いた。
ワルジャークの掌に、輝く鉄槌(てっつい)が現れ、精霊エネルギーが鉄槌に収束した。
空気が騒ぎ、ケンヤは、風の乱れを感じた。
ケンヤは盾をかざし、とっさに風を纏(まと)った。
しかし、だめだ、と思った。

(しぬッ…!
こいつは、魔王に値する…!)

父と母と、祖父と叔父サンと、たくさんの大切な人たちの死体が横たわっていた。
(いま、オレも、こんなふうに…!?)

“あほんだらッッ!!”

そう思ったら、ケンヤの心にガンマの叱責が響いた。
ケンヤの心を、感じたのだろう。
向こうでは、「蒼い風」長老…イリアスのじっちゃんが、ガンマとアルシャを守って、邪雷王シーザーハルトと戦いはじめていた。
ガンマは、目を強くつぶって、じっちゃんの後方で、必死に魔法で援護していた。
ガンマは大切な人たちの血をみたくないのだった。
あまり強く目をつぶるので、ガンマの顔はしわくちゃだった。
つぶったまぶたから、涙、漏れていた。
血が混ざっていた。

アルシャは…負傷しているようだが、大丈夫そうだった。
さっきまで、信じられないほどの圧倒的な力で、戦っていたのだ。
このときは、ガンマの後ろで、父と母の亡骸の手を握り、イリアスとガンマの戦いを見つめていた…。

(だめだ。
オレは、死ねない。
なのに、震えが止まらない。
オレは、本当に、ブルーファルコンの戦士なのかよ…?)

ケンヤに、現実が、迫っていた。

ワルジャークが、
鉄槌が、
突進、
突進、
突進した……!!

(受けとめてくれ……!!!)

「うわああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」

(盾ッッ…!)

そんなとき、ケンヤは
憧れていた英雄を思っていた。

“受けとめてくれ”と。

(夢と希望の英雄。
戦士の勇気は、オレの勇気…!!)

ザン!!!!!!!!

時止まった。

ケンヤに
……衝撃なし……。

ケンヤは閉じた目を、ゆっくりと開いた。

「…!!!」

殺されそうになったケンヤの前に、「彼」は、はじめて現れていた。

ケンヤとワルジャークの間には、見たこともない仮面の戦士が、剣で鉄槌を受けとめていた。

「何者…?」
と、ワルジャーク。

ひゅうううううう。ふゅゅぅううう。
ひゅうううううう。ふゅゅぅううう。

風が、風を鳴らした。
音は、音に重なり、音楽となった。

カゼの、ウタ…。
音楽魔法である。変な感じがした。

「少年…。俺はお前の試練だ」
と、仮面の戦士。

「何者」と、ワルジャーク。

ケンヤの胸が、高鳴った。このひとは……!

ざんざんざざん、ざんざんざ、ざんざん!ざんざんざざん、ざんざんざ、ざんざん!

曲は変調した。テンポが、早まった。

「その名も、ザスターク=ザ=ブルートルネード…!」

このひとは……ザスターク=ザ=ブルートルネード…!!
「ザスターク=ザ=ブルートルネードだと…!!??」

ワルジャークと、仮面の戦士の間に、小さな竜巻。
曲調が、急激にスピードアップした!!

ざんざんざざん、ざんざんざ、ざんざん!!ざんざんざざん、ざんざんざ、ざんざん!!
ざんざんざざん、ざんざんざ、ざんざん!!ざんざんざざん、ざんざんざ、ざんざん!!

竜巻が、爆発的なる膨張を遂げた!
「な…なんだというのだ…!!」
「蒼い風に捧ぐ竜巻だ…。風精怒号(ふうせいどごう)ブルーブルートルネードブルー…放嵐(ほうらん)!!!」

ゴッッッ!!!!
嵐!
嵐!
嵐が起きた…!!

天を天を、天を展開する、飛び散る雲の、破片たち。

ザスタークの「ブルーブルートルネードブルー」が放嵐したと同時に、向こうの、邪雷王シーザーハルトVSイリアス長老の陣も、展開した。大きな雷の球体が渦を巻き、カッ、と雷光、閃いた。
「了嵐(りょうらん)!!」
ザスターク、叫んだ。

両陣の嵐は、互いに重なり、ひとつの爆発となった。
発光。一瞬の無音。
そして、轟音と、衝撃。

ずうううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅん。

ケンヤは、ほんの少し気を失っていたようだった…。
それは、長い間に思えた。
目を開くと、ガンマの顔がとびこんできた。
ガンマはそっ、と目を開いた。
ガンマの目は、赤かった。
また閉じた。
ケンヤとガンマは、互い、ちょっと笑んだ。
同時に、胸の痛み。
ケンヤも、負傷したようだった。

「うくっ…。ア、アルシャは…?」
と、ケンヤ。

「大丈夫や」
ガンマが、す、と傍らを指差した。アルシャは、気絶しているようだった。

続いて、
「邪雷王は…?」
とケンヤが尋ねた。ガンマが答えた。
「見てみいや…」
そこではじめて、ケンヤは状況を確認した。

ケンヤとガンマとアルシャは、一ヵ所に集められていた。
その周りは、一面の荒野と化していた。

3人以外は、誰もいなかった。「蒼い風」の、すべての人が、死んだのだ。
ガンマは、
「邪雷お……」
とまで言って、言葉に詰まって、もう一度、、、、、泣いた。

薄く、紅(くれない)の涙。
赤い、赤い。

「蒼い風」長老・イリアスの死を賭した六文字魔法により、邪雷王シーザーハルトは、封印されたのだった。

すこし離れて、ザスタークの背中が見えた。思わずケンヤが尋ねた。
「あんたは…?」

背中が答えた。
「ザスターク=ザ=ブルートルネード…」
と。

背中からだからよくわからないが、ザスタークも、胸を押さえているようだった。
(オレと同じだな)と、ケンヤは、思った。

ザスタークの足元には、ワルジャークが倒れていた。
あの一撃で、ひどく傷ついたようだった。
ワルジャークは、横たわったまま、ザスタークに語りかけた。

「ザスタークといったな…。師は…シーザーハルトは?」
「邪雷王は、封印された」
「なんということだ……!!ほ…他の魔王や下僕は…どうした」
「主(あるじ)を亡くしたことで、散会したようだな」

「くっ…!!!? いるか…! ヒュぺリオン…!!」
「!?」
「は。ここに…。ワルジャーク様」

どこからともなく声。どこからともなく姿。
ヒュぺリオンが、登場した。

顔は、冷たい瞳をした青年に見えたが、その姿は、異形であった。
ひゅざっっ!!
ワルジャークを抱え、後方に移動した。
ざ、ワルジャークの肩をいだいた。回復魔法。
ヒュぺリオン。
ワルジャーク直属の配下らしかった。

「引き時です。ワルジャーク様」

「ヒュぺリオンよ…。
わが師、シーザーハルトが封印された。
見よ…肝心の風帝の芽が、あそこにいる!
何度も師を憎んだ私だが…やはり、師だ。私はこのまま…、
シーザーハルトの為にも、この次元のためのも、戦いたい…!!」

「シーザーハルトの一番弟子と言われた貴方だ。そう言うと思いました。しかし、貴方がいなくなれば、“あの子”はどうなるのです?」

「…………」

「それに、もし、あの風帝の芽のブルーファルコンが発動でもすれば…。どの魔王が対処できます?
現在の三大魔王の状況を考えてみて下さい。
シーザーハルトは封印された。
気まぐれな龍魔王も去ってしまった。
そして貴方は、仮面の戦士にこの様です。
出直した方が…」

「なに言ってんスかっっ……!!」

ワルジャークとヒュぺリオンの背後に、もう一人、邪雷王の配下が登場した。
少女であった。
しかし、ワルジャーク同様、魔王に値する気を発していた。

「レウ…!」

「ワルジャークさん!あんたほどの人が……!!邪雷王さまを裏切るつもりっスか??」

その言動から、少女レウは、邪雷王シーザーハルト直属と思われた。

「…」

レウを見つめるワルジャーク。
ヒュぺリオンは、たまらず叫んだ。

「レウ、貴様などに何がわかる!
ワルジャーク様がどれほどシーザーハルトを…」

ゴウン!

白い怒気(どき)がレウをつつんだ。

びくっ!
ヒュぺリオンは圧倒された。

「ヒュぺリオンさん…。
邪雷王さまを呼び捨てにしていいのは、ワルジャークさんと、何人かの奥方だけっス…。少なくとも俺の前では控えてくれませんか?
それから。……ワルジャークさん……。
邪雷王さまは、あんたに何度裏切られても、あんたの事を…!」

ワルジャークは、傷ついた身体で、立ち上がった。
「わかっていた…」
鉄槌を拾い、そしてレウのまっすぐな瞳を呼んだ。
「レウ」
「はい」

「私は、シーザーハルトではないのだよ。何度も師を、殺そうとさえ思った。だが、一方で、私は師(シーザーハルト)を堪らなく、慕うのだ」
「だったら何だってんスか?」

「だから、例え私が、シーザーハルトを殺すようなことがあったとしても、私は、シーザーハルトの弟子であることを、誇ることを、やめはしないということだ」

「……。邪雷王さまは!!封印されたんスよ!!!」

レウが叫んだ!対して、ワルジャークが、さらに絶叫した!

「シーザーハルトは、不滅だ!!」

「!!!」

魔王たちの静寂。
レウがつぶやいた。

「ワルジャークさん…。
だったら俺は…、邪雷王さまの子を産むまで、生き続けたいっス。
いつか…邪雷王さまの目を…俺の方にも…。
俺は…それだけの魔王に…」

「……レウ」
「……はい」
「邪雷王シーザーハルトの部下として、私に着いて来ないか?
のちの魔王だ。配下もつける」

「……はい。…ワルジャークさん」

シーザーハルトは不滅だ!

その言葉を耳にした少年の硬直は、びん!と、解き放たれた。

「わああああああっ!!!」

ケンヤは突然、風陣王を立てて、ワルジャーク・ヒュぺリオン・レウの三人に向かっていった。

ごおおおおおおつ!
怒涛の風!
「終わったんだよッッ…ッッ!狐純白波波(こずみしらなみは)ッッ!!」
レウが、波法を放ち、叫んだ。
白い波動が、九つ、きりもみ状に、ケンヤに放たれた。
一方ヒュぺリオンは、天翔樹の葉を投げた。
ワルジャークが、叫んだ。
「覚えておく…ッ!このままでは終わらんぞ!風帝達よ!!」
そのまま三人、消えた。

ごう!

波法を食らい、宙に舞っていた。
滞空(たいくう)しながら、悔しい悔しい悔しい!!!

思って、どしゃあああ。

ケンヤは、頭から瓦礫に突っ込んだ。
「ぐっ、ぐっ、ぐっ、」
ケンヤはうつぶせになって、砂の味を噛み締め、泣いた。
(涙の味だ…)
胸が、なんか、べちゃっとしていることに気付いた。血だった。

「ぐっ、ぐっ、ぐっ…、ぐっ、ぐっ、ぐっ…」

その感覚こそが、ケンヤの強い敗北感だった。

シーザーハルトは不滅だ。

呪文のように響き渡っていた。
傍(かたわ)らに、ザスタークが寄ってきた。
「少年、大丈夫か?」

ケンヤは突っ伏したそのまま、言った。
「…おじさん…誰なの…?」

「ザスターク=ザ=ブルートルネード。
お前の心の傷だ。お前の試練だ。お前の弱さだ」

「それじゃあ…!!!」

ケンヤは立ちあがった。
(..あれ?)

ザスタークは……………消えていた。

それじゃあ…このひとは、オレじゃないか…。
ケンヤは、ずっと、立ち尽くしていた。

「強くならな…」
ガンマが、ひとり言のようにつぶやいた。
強くならなきゃ。あいつらを、倒せるように…!

このままじゃ勝てない。
このままじゃ終われないのは、オレたちのほうじゃないか。

夜更け、藍色に空。深く、深く。

ケンヤ、ガンマ、アルシャーナ。
三人は、そのまま力もなく、互いに寄り添って、眠った。

翌朝。
下界樹の使いの人が来て、どんなことでも力になります、と、言った。
墓を作った。
つよくなると、誓った。

三人の旅が始まった。
ワルジャーク達がどうなったのか、わからなかった。
それから出会うことはなかったのだ。

(自分が弱い間は、ザスタークさんが現れるということだろうか)
ケンヤは、よくそれを考えた。

というのも、それからというもの、
悪党の剣先が心臓に届かんとする、その瞬間。
魔物の牙が喉元を貫かんとする、その瞬間。
濁流に飲まれ、溺れて息が詰まり、気を失う、その瞬間。
おなかが空いて、死にそうな時。
お金がなかった時。
死にたくなった時。
本当のピンチの時、ザスタークさんは、現れたのだ。
あの風が吹いた。
あの歌が流れた。

大切な人が死んだ日、この歌をオレは聴いた。

そう思いながら、いつも、ザスタークさんの事件の両断を見守っていた。
ザスタークさんの感情が潜入するような気がしていた。

(ザスタークさんは、いつも、オレが見るものを見ている…?)
意識が意識を連れてきている、そうも思っていた。

でも、ザスタークさんは、ケンヤが、知らないことも、知っていた。
でも、ザスタークさんは、ケンヤしか知らないことも、知っていた。
なぜ?

ザスタークさんは、たぶん、オレなのに。

最近は…、現れなくなったなあ。
オレたち、ピンチ減ったからなあ。
強くなったからザスタークさんが出なくなった。
そう思うと、少し嬉しくもあった。

ザスタークさんからの手紙を見た。

〈少年少女よ。ロンドロンドが危ない。ディルガインは魔王と化した。裏にワルジャークの影あり。何事も試練。適切に行動してみろ。油断は禁物。ついでだが、おまけカード目的にチョコを買いすぎるのも禁物だぞ。虫歯になるからな。ザスタークより。〉

ワルジャークの名前を見たのは、あの時以来だった。
ザスタークさんに出会った日…。

今度会ったら、ザスタークさんに、今度こそ聞こうかな。
おじさんは、誰なの?
オレなの?

じゅうよんアホの紙芝居の、仮面の英雄なの?
おじさんは、誰なの?

今の日常を戦っているから、そう思うのだった。

気がつけば、凧(たこ)は見えなくなった。
いつのまにか焦点をはずしていたのだ。
と、思いきや、
たーっ!
凧を抱えた少年が、かけっこしてきた。
うしろから、前へ。ケンヤ達とすれ違った。

凧たちは、家にはいっていった。

風は、シチューの匂いがした。
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