SPECIAL HURRICANE 13 -FEARFUL☆DUNGEON-
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#4 封印殿の決戦



 ブオオオォォォ…ン…

「異音がすごい…。確かに通常の状態じゃないね…」
 ファイの眉間にシワが寄った。

 三人がキットアシュガー封印殿の封印の間に入ると、結界の中央で鍵をかけられた封印箱の中から大きな音がしている。
「最初にエクスジードが施してくれたこの封印は、ここのリュウオウザンの二つの里の者たちで封印強化魔法を何度もかけてるんでござんすけどぉ…それで復活は抑えられてるのかもですがぁ、なかなか収まってくれなくて…」

 ポン、と人間の姿から再び龍人の姿に戻ったキョウは、ふところから大きなお札を出した。
「ロウザさんこれ…総大司教ムシェラ様からクソデカ封印札を頂いてきたんです。これで封印の基礎部分から封印そのものを強化しましょう。…ではロウザさんお願いします」

「おお、キョウさん、そんなデカいお札さんで封印させてくれなさんすかぁ!?!? めっためったこりゃー良いあんべーでテンションあがるでござんすぅ――!!!! では…」
 ロウザはキョウから手渡された封印札を左手に構え、右手の手のひらを掲げた。

「いでよ、超幣帛(ちょうへいはく)・穂垂(ほすい)・庭常宗(にわとこむね)!!!!」

 封士(シーラー)ロウザにより、御幣(ごへい)が召喚された。
 神社の祭祀や呪文の補助等で使われる、白い紙で作った紙垂(しで)を挟んだ棒状の魔法アイテムである。
 そしてロウザは早速術式に入ろうとした。

 だがそこで、異変が起こった。
 ばっ、とそこでファイが身体の向きを変えて両手を左右に広げたのだ。

「…盾風(タテカゼ)ッ!」と、ファイが叫ぶのと、「数十個のなにか」がロウザのもとに飛んでくるのは、同時であった。

 猛烈な勢いで回る風で大きな「風の盾」が形成され、飛来物に立ち向かう。

「!!!!!!」

 ズガガガガガッと金属音がして、数十のバドミントンのシャトルたちが跳ね返されていった。

「これは…特殊な金属のシャトル…!」

「ぐぬぬぅ…みょうちくちんな、しゃけらもねぇカバチタレじゃ…。このヌァッス様のオーバーヘッドストロークを全て跳ね返すとは!」

「魔人ヌァッス!」
 そこにいたのはイズヴォロの部下・タンブレリハギスの魔人ヌァッスであった。三本の足を持った四角い目の金髪の獣魔人である。

「せーじゃけど…あけましておめでとうとは言っておこうかのう」
「…はい、あけましておめでとう!」
「おめでとうでござんす」
「あけましておめでとうございます」

 律儀な敵味方である。

「じゃがのう、挨拶はここまでじゃ!」
「まったくだよ!」
 ファイは、自分でも挨拶を返しておいて何だが、呆れた。

「…あ…あれがぁー…何度も下界(ドカニアルド)を襲っているというイズヴォロの部下ヌァッスでござんすかぁ…! しかし…ヌァッスはバッキングミ魔群封印大神殿に封印されているはず…!」
 ロウザがそう言って疑問そうな表情を浮かべると、キョウは気付いたことを述べ出した。

「わたしたちは以前に本物のヌァッスとも戦ったことがありますけど本物はむらさき色でした。こいつは全身がグレー色です…。それに背中を見てください。くるくると巻かれた特徴的なゼンマイ仕掛けのネジが、ゆっくり回っています。あんなものがついているのは決まっています。
 あなた、特殊金属…ゴレニウムで出来たニセモノですね…。
 つまり…あなたは頂央とか魔頂選定委員とか、そういう『誰かの記憶』から作られた、頂央・陽頂刕玄(ヨウチョウリヒョン)ンプェポュリスの作ったメモリゴレムですね?」

「わしがニセモノ? すばろーしぃ(うっとうしい)のう…。絶対的存在たる頂央陛下がお作りくださって、せーじゃけえ、わしがここにおって、こうやってモノを考えて自分の意志で立ちくりかえっとる以上は、わしが本物とかニセモノとかどうでもええんじゃあああ!!!! わしが来た以上はイズヴォロ様は復活させる!」

「そんなこと言うけどさヌァッス、どうせ作り出されたばかりでイズヴォロに会ったことさえないんだよね?」

「ええい。ない! じゃがのう。我々メモリゴレムとはのう、出現したとたんに『その者』として生を為す存在じゃ。
 せーじゃけえ、事実より認識、ということでやっとるんじゃ。わしはのう、イズヴォロ様の部下で、長年苦楽を共にしてきた…『という存在』として出現したから、いいのじゃ。長年イズヴォロ様と一緒にやってきたという事実はなくとも認識がある。じゃから、それは揺るぎんのじゃあああああ!」

「イズヴォロはもう十四年も封印されてるってのに、長年一緒にやってるっていうことになってるんですか…」

「イズヴォロがそんなに必要ならイズヴォロのメモリゴレム?とかいうのも作ればいいんではござんすか?」

「それがのう。名誉月頂・剛輪師(ごうりんし)ハイドハイン会長が言うには、メモリゴレムの材料は特殊金属ゴレニウムをはじめ、そのほかも入手困難な物ばかりで、しかもゴレニウムの他に何の素材が必要なのかは常に異なるんじゃ。誰が誰の第何宇宙何次元何界何国何エリア何年何月何日何時何分何秒の記憶を使ってゴレムを作り出すのかで全部材料が異なるし、いずれの場合も入手困難なものばかりなんじゃ。じゃがのう、ごくごくまれに簡単なもの、例えばゴレニウムとバナナ一本だけで出来ることもあるのじゃ。
 …それが、わしじゃあ!!!!」

「バナナで作ったの…」

「ほかにものう、同次元に生実体がある者、封印が浅い者、エレメンタル認識番号の末尾の数字が会報「ゴレムの掟」最新号に記載されている製造不可番号と一致する者、などなどその他は、九十億年前に次元神ディーゲマーゼがこさえた次元保安機能に触れてパラドックスによる次元崩壊を招きかねんので、メモリゴレム業界の定めた自主規制の鉄の掟によりゴレムを作れんのじゃああああ!」

「そ、そんな業界があるんでござんすかぁ…」
「その話には『ただし…』という続きがあるよね?」
「ふん…風帝・ファイよお。メモリゴレムのしゃけらのなさの何たるかを知っておるようじゃのうー」

「あたしと弟は、それこそパパとママがあたしたちをこさえた翌日の受精卵の頃からいろんなやつと戦ってるんだ。仲間たちだって、物心ついたころからそうだよ。
 中にはいろんな記憶を持ったやつがいるもんだから、驚くようなメモリゴレムとも戦ってきた。色々な経験をしたからね。そいつらがどうやって作られてきたかも、そんなことはよーく知ってる。まあ、今は色々あって頂央ンプェポュリスと言えどもそう簡単にはゴレムを作れない状況というわけなんだ。金属のほかはバナナ1本だけで出来るようなケースを除いて」

「そうじゃ…。そんなわしが出てきたからにはイズヴォロ様の封印などさせんのじゃ! 次なる一手はこれじゃあ! いでるんじゃあああ、魔物どもよ!!」

 ヌァッスが懐から魔物召喚笊(ざる)を取り出して掲げると、空からどさどさどさ、と、十匹の大きなトカゲたちが落ちて、召喚されてきた。

「!!!!!! ファンネルトカゲだ!!!!!!」

 それは、それぞれ二ナメトルずつくらいある大きなトカゲであった。
 それぞれが背中にサンファンネルというファンネルを三本ずつ背負っている。こういう甲殻を持った生物なのだ。

 ちなみにこのサンファンネルのサンとは数字の「3」のことである。

 しゃーっ! しゃーっ! と、サンファンネルを構え、十匹のファンネルトカゲたちが威嚇した。

「な、なんでござんすか、あんなの見たことないでござんす!」

「ブメレーンとかドイゲルとか歩いてるとしょっちゅうエンカウントする魔物です。あのサンファンネルが面倒なんですよね」

「そうそう。HPがやたら多くて、ファンネルもどんどんこっちを削ってくる割りに経験値はそれほどでもないからレベル上げには効率悪いんだよねえ」

「そうじゃああ、先月ブメレーンまで、きさくなお店のソーセージ盛りを食べくりかえりに行った際に、野生のファンネルトカゲがそこらへんをうろつきかえっとったので、たくさん捕まえて、ヴォーカヤヴァーのきびだんごで餌付けしておいたんじゃあああ!!!!!!」

「ゴレムのくせに、きさくのソー盛り食べるの!?!?」
「バナナでできてるくせに!?!? ゼンマイ仕掛けのネジ回し式のくせに!?!?」

「そんなもん食べるに決まっとるじゃろおおおお!!!!!! きさくのソー盛りじゃぞ、きさくのソー盛り!!!!!! 当たり前じゃああああああ!!!!!!」

「何が当たり前なのかあたしにゃさっぱりだよ!!!!!!」
「あそこには魔窟蟲グルタポルタもおるから、蟲から逃げながらファンネルトカゲを捕まえるので結構苦労するんじゃあ!」

「そんなことより!」
 と、キョウは急いで出入り口の戸を開け放った。
「こんな火力の高い魔物とこんな木造建築の中で戦ったら火事になってしまいます! すぐみんな追い出して外でやりましょう!」

「でござんすねぇー。大事なのはぁ、めっためった魔頂の封印を解かれないことっすからぁー…ほんじゃああっしはここはこうやって…!!!!!!」

 ロウザは、超幣帛(ちょうへいはく)・穂垂(ほすい)・庭常宗(にわとこむね)を構えて三文字魔法を繰り出した。

「呪文(スペル)…茨草薔(ロズクーバ)!!!!!!」
「ぐわああああ、な、なにすんじゃああああ!!!!!! なんちゅう悪(わ)りゅーことを… いた、いたたた!!!!!!」

 魔法のいばらが現れて、トゲトゲのついたツルがヌァッスの身体を締め上げてゆく。ロウザはさらに御幣(ごへい)を構えて攻撃を続けた。

「続いてぇー、こいつでござんすよぉ…古代・大二ポニアの禁書群・ヤマタイ増力大全集・全巻完全読破証明初回限定特典の書影ぃぃっ…!」

 ロウザの背後に光り輝く透明な本の山が、どさどさどさどさと何百冊も積みあがってゆく。
「この『禁書の册山(ざくざん)』でぇ、増幅した波法をくらうでござんすぅ! はああああ、穿弄㋩(せんろうは)!!!!!!」

 ロウザのエネルギー波がヌァッスにダメージを与えてゆく。
「ほんげええええええ!!!!!!」

「すごい、こんな技が出来るんですねロウザさん!」

「はいぃ! こうやってあっしはこのヌァッスを引き受けておくでござんすぅ! ファイさんキョウさんは今のうちにファンネルトカゲを!」

 そう言ってロウザはヌァッスにダメージを与え続けた。
 背後に何百冊もある透明な本の数が、一冊一冊、少しずつ減ってゆく。
 これが無くなったらエネルギー切れである。

 そこでファイとキョウは、ファンネルトカゲを屋外に追い出す挑戦に入った。
「よし…じゃあこっちはまかせて! まずトカゲを一匹! とりゃああああああ・・・・・ッ! ああああっ!」

 ファイがべちゃっ、と投げかけたトカゲは別のトカゲにぶつかった。
 ファイはファンネルトカゲの尻尾を持って外に投げようとしたのだが、十匹もひしめいているので投げるコースがない。

「じゃあわたしはもっと入口に近いところで…うりゃああああ!」
 と、ファイに続いてキョウの投げたトカゲは、また別のトカゲに当たってしまった。別のトカゲが回り込んでいたのだ。

「決して狭いところではないですが…二ナメトルのファンネルトカゲが十匹入るにはさすがに狭いんです、ここ!」

 逆にトカゲはぐいぐいとファイやキョウの元にあつまってきた。

「え、これ、この十匹を外に出す? …どうやって?」
「一匹一匹が結構でかいですし、ひとかたまりって感じで力も強いですね…どうしましょう…」

 しゃーっ、しゃーっ、とトカゲは威嚇を続けている。

「こんなの、お相撲さんに十匹まとめて押し出してもらうくらいしかないかも…」

「…じゃあ…迷ってる場合じゃ無いですファイちゃん。それが出来そーな人に心当たりがあるので、呼んじゃいましょう。お相撲さん」

「えっ、キョウちゃん、それってまさか…」

「召喚詠唱《穿-牧-岩-呼》! ……繋がりました! もしもし姐(あね)さんわたしです、聞こえますか、通常召喚します! え? 召喚局の人じゃないです! わたしキョウです! そうですそうです姐さん、壱紋寺で一緒に修行したわたしです! 至急ですすぐ承認ください! え? 折り返して? 無理です至急なんです! いいから来てください! ……はい!はい承認きました! ではいきます!

 呪文(スペル)…詠召喚(ハヨンコイヤー)!」

 召喚詠唱を使用した、通常召喚魔法が唱えられた。
 強制召喚というものは今までこの作品で描かれてきたが、強制ではない通常の召喚だとこのような流れになる。

 ドン…!

 召喚された人物が現れた。

「岩穿(ガンセン)力士(デストロイヤー)・ソー=ゴーバリアンだ…! 謹賀新年!」

「ソー姐さん! あけまです!」

 ソー=ゴーバリアン。二十歳。未婚。
 かつてケンヤが戦ったアーガスの六女である。
 キョウがヤマトゾルク幕府廷国の壱紋寺で修行した際には、キョウより先に修行していた先輩にもあたる。

 彼女はかつて「ゴウバリアン」という四股名(しこな)で下界(ドカニアルド)力士協会に所属していた相撲の横綱でもあったが、白砕狐王(びゃくさいこおう)レクソンの侵攻による下界(ドカニアルド)危機の際に、協会を辞して戦場に赴き、ファイたちと共に下界(ドカニアルド)を救った一員となった。

 現在は故郷のアルメカンドで家族とともに、現地の武闘場で相撲や武術を教えながら牧場で働いている。

「わー、お久しぶりだぁソー姐さん! ソー盛りの話をしてたらソー姐さんが来ちゃった!」

「何のことだ?ファイ。 …それにしてもそれがしは実家では末っ子だからな。貴様らに姐さんなどと言われるとそれがしは気をよくしてつい、こうしてホイホイ来てしまうのだろうか…」

「ソー姐さん、全裸です!」
 キョウは、ソーの鍛え上げられた裸身を見て指摘せざるを得なかった。

「キョウ、おぬしな。それがしがニューイヤーの初風呂に入ろうと脱いだところをいきなり呼びつけるおぬしが悪い。…岩穿装身(ガンセンそうしん)!」

 ぶおっ! と、ソーの身体に化粧まわしの戦装束が纏われた。
「ここはいずこで、それがしは何をすればよい。手短に状況を」

「ここはニポニアです。ファンネルトカゲに襲われているのでこのまま交戦するとこの木造建築が火事になってしまいます。屋外に押し出してください。
 あっちで、この里の封士(シーラー)・ロウザさんが戦ってくれてる間に…。
 …ロウザさん大丈夫ですか?」

「はい! こらっしー(いらっしゃい)でござんすぅゴウバリアン関ぃー―! ほいであっしはぁ、めっためったあんべーなんざなっちょだいすぅ―――!」

「あんべーなっちょだいす?? …あの方は異言語のお方か。ともかく押そう。横から押しこぼれが無きよう、キョウとファイはそれがしの左右で一緒に押してもらおうか」

 ファイとキョウがソーの左右に立つと、ソーは、四股を踏んだ。
 それからの、ソーの仕事は早かった。
 どあああああっ、とソーの全身からオーラが立ち昇ったかと思うと
「押し出しアトミックデストロイボルーフ!!!!!!」
 と叫んでソーはファンネルトカゲたちを押し始めたのだ。

 ぎゅおおおおおお……とトカゲたちは押され、みるみる屋外にひり出されていった。

「さらに…突き出しッッ!!!!!!」
「ちょああああああ!」
「ええええ―――いっ!!!!!!」
 ソーとファイとキョウの押し出しからの突き出しで、ど――――ん! と、一気にトカゲたちは吹っ飛ばされて全頭が屋外に追い出された形になった。
「じゃあぁー、シュートコースが空いたところでぇ、あっしも行っくでござんすぅ―――! 突輝超爆(とっきちょうばく)穿弄?(せんろうは)!!!!!!」

 ズガアアアア――ッ、と、それまでヌァッスに浴びせていたロウザの波法の出力が一気に上がり、ヌァッスも屋外に吹っ飛ばされていった。

 外の境内は広く、幅のたっぷり取られた石畳の参道の両脇に広い砂利敷きの空間が広がっている。各ポイントには鳥居や灯篭や手水舎や狛犬や狛龍や狛リヴァイアサンや狛ぬっぺふほふや狛ニュービットの石像等がぽつぽつ置かれているものの、敷地は十分に広いので大人数で戦うには丁度いい。

「これでみんな外で戦えるっすぅ!」
「ほう、最初ロウザどのは異言語のお方かと思ったが、それがしにもまあまあわかる言語のお方であったか」
 と、ソーは嬉しげである。

「えへへ、ゴウバリアン関! 元横綱と共闘できるなんて光栄でござんすぅ! ほんじゃあめっためった、このままみんなで戦っちゃうでござんすよぉ!」

 ロウザの背中に浮かんだ透明な本の山「禁書の册山(ざくざん)」は、ずいぶん減ったがまだまだ残っている。

「みんな封印殿の外に追い出しちゃえば魔頂の封印に近づかれることはないね。このまま倒しちゃおう!」

「そのままでもイズヴォロは封印が解けかかっているので急がないとです!」

 そう言うキョウとファイに対抗して、ファンネルトカゲたちはそれぞれ背中のファンネルをぎゅんぎゅんと飛ばし始めた。

 三つずつ十匹なのでファンネル三十本である。
 ファンネルからはそれぞれエネルギー波がぎゅんぎゅん発射されてゆく。

「わわわ、ファンネルトカゲたちも広いところのほうがファンネル飛ばしたい気分になるみたいですね!」
 キョウは避けながら焦った。

「だいじょうぶ! 神波∮風扇(かんなみふぁいふうせん)!」
 ファイは棒状の柄の先に「△にゃんかく△」というネコのようなキャラクターのついた扇を呼び出した。

「みんな守るよ! 巡風(めぐりかぜ)、四連!」

 ファイはぎゅんぎゅんと超高速で回る風の防壁を作り出すと、その風の防壁を自分とキョウとロウザとソー、それぞれの守りに就かせた。

 トカゲ達のファンネル攻撃は風の防壁に弾かれて防がれていった。

「おお、これは助かるぞ!」
 ソーが喝采を上げた。

 ひゅん、と神波∮風扇(かんなみふぁいふうせん)をしまうと、
「風陣王!」
 と、ファイは次の武器、「風陣王」を呼び出した。
 ちなみに現在、剣霊オリオンはターのところにだけいる。これにオリオンが宿ると「フージリオン」という名称になる。

「斧化風陣(ぶかふうじん)! …まずは一匹いくね!」
 ぶおん! そして風陣王は戦士のバトルアックスとなった。

「戦斧(せんぶ)・風陣王…、Φ凰断(ふぁいおうだん)!!!!!!」
「シャギャアアアア…!」
 ファイの振り下ろした斧で、ファンネルトカゲ最初の一匹が倒された。

「さすがファイだな、よし、それがし達も続くぞキョウ!」
「はい姐さん!」
「あっしのとこも手伝ってくだしーでござんすよぉ!」

 四人は引き続き、ファンネルトカゲ達やヌァッスへの戦いを続けた。
 ファイはそうして戦いながら、仲間の「鼓動」の状況に「ある変化」を感じていたが、あまり気を配っている余裕はなかった。

  ◆  ◆  ◆

 戦況にも変化が訪れたのは、それから、ファンネルトカゲが合計五匹倒された時であった。

「シャギャギャアアアア!!!!!!」

 キョウの放った龍炎のブレスに焼かれて五匹目のファンネルトカゲが吹っ飛ばされ、転がってゆく。
 倒されたトカゲが宙に浮かべていたファンネルは制御を失って、がらがらんと地面に落ちた。

「これで残り五匹とヌァッスだけです…! …ん…?」

 キョウがふと異変に気付いて、うしろの封印殿の建物を振り向くと、どん! 、と、一気にどす黒いオーラが建物の中から噴き出した。

「はぁ…はぁ…、遅かったが…やっと来たかのう…!」
 ヌァッスはあちこちダメージを受けた身体でニヤリと笑ってみせた。
 どかぁ! と、封印殿の出入り口の扉が吹っ飛んだかと思うと、

「呪文(スペル)、闇動(シャドームーン)!」
 と、何者かによって、対象の動きを封じる魔法が唱えられた。

「ッ!?!?」

 動きを封じられたのは、ファイだった。

 そして、ぎゅんっ、と封印殿から全速力で飛び出した緑色のなにかが、大剣を振り上げてファイに斬りかかった。

 だが、上空からもうひとり、全速力で飛び出したなにかが、ファイを守ってその間に割って入った。

 ズガァアアアンッ!!!!!!

「ファイは…、やらせないよ!」

「…ター!」
 現れた少年が盾を滑らせて、緑翼の大剣ウィリディス・アーラ・クレイモアを受け止めていた。

「彗ω波(すいおうは)ッ!!!!!!」
 ターと呼ばれた少年は、それから一気に波法を撃ち出して、斬りかかった相手との距離を再びとった。

「急襲を防いで飛び込むとは…やる…ぬ!」
「波帝か…。いやもうひとりの風帝と言うべきか…。賞賛…賞賛です…。賞賛に値する!!!!!!」
 そう言って「緑色の斬りかかった相手」が拍手をした。
 ターはファイの鎖骨あたりに指を置くと、波動を使ってファイの「闇動(シャドームーン)」の効力を焼滅させた。

「ター!! いい感じに間に合ってくれたね!!!! 近づいてたのは気付いてたけど…、会いたかった!!!!!!」
 などと言い切る前からすでにターの愛しい人が抱きついてきており、男子は正直言って興奮してしまう。

「ファイ、抱きつくのはあとにしてよ。それでぼくが デレデレしちゃったら戦えないでしょ」
「うーん、していいっ! あと五秒!」

「…あいつが…イズヴォロか…」
「えっ…ああ…そっか…」

 ファイを救ったのはファイの双子の弟の、風波剣士(カザナミフェンサー)ターだった。イッタンケウケゲン集合体を仲間たちとやっとのことで倒して駆け付けたのだ。そしてみるみる耳が赤くなっているのだ。

 そしてファイに「闇動(シャドームーン)」を仕掛けたのは「かつて木頂儿萌ョデ~ォ・ぬと呼ばれていた者」であった。元魔頂のョデ~ォ・ぬには、目が二つあるように見えるが実は異なり、額にひとつ、顎にふたつも目があるので、合計五つの目がある。口は、顔にはついていない。声は腹から聞こえる。

 さらにファイに斬りかかったのは、緑色に輝く金属の鎧やマスクに包まれ、強者のオーラを纏った仮面の者「イズヴォロ」だった。肩書きは「木頂緑翼」…のはずである。かつて砕帝王将ワルジャークや白狐大帝レウに仕える一兵卒だったが、邪雷王シーザーハルトより黒の魔力(フォース)を与えられ、魔頂にまで選ばれた男だ。

「ター君じゃないですか! う、上から落ちてきた!?」
「上を見てみなよキョウちゃん」

 ぐおんぐおんぐおんぐおん…
 キョウが上を見ると飛空艇ツィラーQが飛んでいる。

「オンボロのほうのやつだ!」
「ザィアーQのほうはシャナンナ組が遠征に使ってるからね」
 シャナンナはガンマの娘で、ガルシャの妹である。
 蒼い風・シャナンナ組はまだ元服していない者ばかりのチームだが、ガルシャのたくさんの弟や妹たちがメンバーとなり、各地で活動している。

「あははははははあははあははは」
「待たせたな!」
 さらに上からふたりが降りてきて着地した。

「クルリラ王子! ガルシャくん!」

「オレがいなくて寂しくなかったか?キョウ」
「ファイちゃんがいたから大丈夫ですよーだ!」
「よかったな!」
 ガルシャとキョウはにっこにこで軽口を叩きあった。

「へーい王子ぞよーん! みんなもえてるかーい!」
「はいはいもえてるもえてる!」
 ファイがちょっと笑みを返し、そして流し気味にクルリラ王子に答えた。

 ファイが来てくれた三人の仲間たちの瞳を見ると、それぞれに「ファイに会いたくて会いたくて仕方なかった」と、書いてある。そういうふうに仕上がっているのだから仕方がない。
 ファイの瞳にもそう書いてあるのだ。だけど、だからどうするのか、なんてことは、あとでも良かった。
 微笑みを交わすだけでも、ずいぶん気持ちには間に合った。

 クルリラ王子はターに訪ねた。
「あはははは、どれが敵?ねえねえター、おしえて? あははは!」
「あれとあれとあれとあのトカゲ達だよ」
「うん、わかったあ! あっ、横綱のおねえちゃんがいる! やったぞよーん! あはあはははは」
 ターの情報を得たクルリラ王子は、面識のあるソーや、ファンネルトカゲ達のいるほうに駆けて行った。

「それにしてもあの敵たち…。なんでしょう…何が起こったんです…、イズヴォロは厳重に封印してあって封印殿には誰もいなかったのに…」
 と、キョウが訝しむ。

「誰もいないから、わーが入れたんだ・ぬ。そしてイズヴォロを復活させたんだ・ぬ! この、儿木頂駒(ニンモクチョウク)ョデ~ォ・ぬが!
 ぬーっぬっぬっぬ! おまーら、今ならまだ許す・ぬ。Uターンして帰れば何もしない・ぬ」」
 かつては魔頂だったョデ~ォ・ぬは、現在は魔頂兵となり、現・木頂の配下として働いているのであった。

「誰が帰るもんですか、何がUターンですか。ハッピーターンみたいな顔して」
 彼の顔は、誰が見ても絶対にハッピーターンのことを思い出してしまうのである。絶対にである。

「おかしいぞ…魔頂兵というのはそもそも魔頂が封じられている間は動けんはず…。イズヴォロが封印されている間、なぜョデ~ォは動けた? ハッピーターンみたいな顔して」

「わざわざ、答えてあげる義理はない・ぬ! まあ、魔頂兵と言ってもいろいろ・ぬ。
 確かにおまーの言う通り、魔頂から生み出されて魔頂の命ずるままに動くだけの魔頂兵もいる・ぬ。
 だが、ただそこらへんで見つけてきた適材やら馬の骨やらが魔頂兵に任命されただけの奴もいる・ぬ。
 だから、命令されなくても自分の意志で動くものはいくらでもおる・ぬ。
 わーは、どっちだろう・ぬー。ぬぬぬー」

「どっちでもいいが…気に入らんな…。いでよ爪霊(そうれい)ハヌマンの靂爪(ジャマダハル)・正雷王(せいらいおう)!」

 バリバリバリバリ・・・と、白い雷に包まれてガルシャの武器が現れた。
 「正雷王」というのは、邪雷王の孫という自分へのアイデンティーに対する対抗心からガルシャが自ら名付けた名称である。

「おいお前っ! ?爪割(ガンソウカツ)ッ!!!!!!」
 ガルシャは身体の向きを変えて急に別の敵に攻撃した。
 ざしゃあああん!
 急にターゲットにされたヌァッスが、ガルシャの爪の武器に引き裂かれた。
「ほげあああああああああ!!!!!!」

「そもそも貴様らはなんでこの集落にこだわる…? 理由がわからん。言え」
「そ…そりゃあ…イ…イズヴォロ様が封印されていたけえのう…」

「それはわかっている! その前になぜここに来たのか!

」 「そ…そんなもん決まっとう…龍卵じゃ。龍の里で得る龍卵を使えば多大なパワーアップが見込めるのは常識。かつてはあのディルガイン様という有名な魔王も、湖竜の卵で大変な強大化を遂げたことがあるんじゃ。
 じゃがウイングラード島のネシ湖も、オスラリアートも、ドラゴン共の住む地は昨今アホみたいに守りが堅い…。ここの龍の里も結界で守られとるが、比較的ここのほうが攻めようがあると睨んだんじゃ!」

 そこで、すぱぁん! と、ヌァッスはイズヴォロに後頭部をひっぱたかれた。

「全部言うやつがあるか、アホウ!アホウ!お前はドアホウに値する!」

 ロウザは超幣帛(ちょうへいはく)・穂垂(ほすい)・庭常宗(にわとこむね)を構えて
「私利私欲のために、この集落のかけがえのない命を奪うなんてぇ、絶対許すまじ…。そんなドアホウはやっつけちゃうんでござんす! 呪文(スペル)・地華(ガイフ・ラワ―)!!!!!!」
 と言って魔法を繰り出した。

 地面から華のように尖った土が猛烈な勢いで湧き上がってヌァッスの身体を激しく打撃する。

「ほんげえええのげええええ!!!!!!」

 ザッシャアア、と、ヌァッスの身体が転がったが、そこにイズヴォロが移動してヌァッスにHP回復ポーションを浴びせ、さらにパワーアップの魔法をかけた。

「呪文…力襲覚(エクスクリティカル)!!」

「ぬ、ぬおおおおおお!!!!!!」
「もう少しマシに働いてみせるのだなヌァッス」

「おおお、不思議なちからが湧きあがってきたのじゃああああ!!!!!!」

 ヌァッスに対峙するガルシャは隣のロウザに話しかけた。

「いまのはなかなかの威力の地華(ガイフ・ラワ―)だった。あのヌァッスとは、いままでその…お嬢さんが戦ってきたようだが…お嬢さんが一人で戦うにはちょっとパワーが上がったようだ。オレが力を貸そう」

「あらま、お嬢さんだなんてぇー。あっしの名前はロウザでござんすよ。雷帝ガルシャさん。では一緒にあいつをやっつけらっしー!」

 ガルシャとロウザはコンビでヌァッスと戦うのだな、とファイは把握した。

 一方、クルリラ王子はというと、ソーとふたりでファンネルトカゲ達と戦っているのが確認できる。クルリラは戦っているというか、笑いながらトカゲを追いかけまわしているという感じではあるが。ソーのほうはというと、激しい張り手でトカゲのHPを削ったり、激しい圧力の塩をまいてトカゲに大ダメージを与えたりしている。

 ファイはそうやって少しずつ戦況を見渡しつつ、軽く伸びをした。

「さて。親玉はイズヴォロだね。ター、じゃああたしたち双子は一緒にあいつを叩こう」
「そうしようファイ、ダブルリーダーだからね」

「待ってください、ファイちゃんターくん。…イズヴォロとはわたしが戦います」
「キョウちゃん!」

「先の戦いの影響で、ふたりとももうしばらく…始動できないんでしょう? ブルーファルコン。だったらわたしが戦ってもいいですよね」

 ケンヤ以前はブルーファルコンはひとりの風帝しか使えなかったが、ファイとターは双子で生まれ、ブルーファルコン自体の反抗さえ起こらなければ好きな方がブルーファルコンを使うことができる。
 五聖帝の形態としても、ファイとターが同意のうえで互いの風帝と波帝という立場をいつでも切り替えることができる。
 だが現時点で、先の戦いの影響でブルーファルコンは休んでいるので、ファイは風帝、ターは波帝で固定している。むろん切り替えは出来るがブルーファルコンが使えないので切り替えの効果はそれほどない。

「ファルコンは使えないけど…ターもあたしも戦いようはいくらでもあるんだけどな」

「あの魔頂イズヴォロはわたしを産んでくれた実の両親の仇です。ダメだと思ったら介入してもいいので…やらせてください」

「そっか…仇か、そうだよね。そう言われたら譲るしかないね、ター」
「ヤツの大剣に十分気をつけなよキョウちゃん。…じゃあ、ぼくたちは『ョデ~ォ・ぬ』のほうを、さっさとぶっ潰そう」
「はい、ターくんも気をつけてくださいね! 油断して死んじゃったらファイちゃんが泣きますよ」
「ありがと! そん時はファイだけじゃなくてキョウちゃんも泣いてね」
「考えときます!」
「考えとくとこなのそれ」

「…さぁて、じゃあいくよファイ」
 ターの左手の「オリオンの紋章」が光り、紋章が半分だけファイの左手に移動した。
「…いこうか、ター」

「たべる・ぬ!」
 ぐわっ! 
 その時、「ョデ~ォ・ぬ」の胴体が口になって、ファイとターに飛び掛かった。
 二人同時に食べられそうな大きな口である。

「たべるぬじゃない! たべられないぬ!」
「双子丼たべられちゃうのは勘弁してよね!」

 と言いながらふたりが身をかわすと、今度はカッ! と、「ョデ~ォ・ぬ」の喉奥が光ったかと思うと、光線が発射された。
ドン!!

「ところがぬっこい、ぬぬぬうぬ光線・ぬ!」

「ぬっこいって、何!」
「ぬぬぬうぬって、何!」
 と言いながらふたりはそれぞれ剣霊オリオンの宿る武器を解き放った。

「フージリオン! 鉾化風陣(ぼうかふうじん)!」
「セイザリオン! チェンジハルバード!」

「Φ凰突(ファイオウトツ)!!!!!!」

「彗Ω突(スイオウトツ)!!!!!!」

 魔頂の放つ殺傷力の高い光線がふたりの反撃を受け、激突点から円を描いて広がった激しい風の圧力が轟音を立てながら境内の砂利を巻き上げた。

 そして、ぬぬぬうぬ光線は、ファイとターが繰り出したそれぞれの鉾槍(ほこやり)の突撃を受けて消え去った。

「なかなか…やるぬ?」
「うん、なかなかやるんだよね、あたしたち」
「しかしまだまだ負けないぬ!」
「まけないぬ? …いぬ…なの?」
「いぬではないぬ」
「いぬって言ってるよ。ワンワン!」
「ワンワンじゃないぬ!!!!」
「ワンワンいぬ!」
「ゆるせん・ぬ!」
「ゆるされんいぬワンワン!」

 こうして…こうしてもどうしてもいないわけだが…こうしてファイとターは「ョデ~ォ・ぬ」との戦いを続けた。

  ◆  ◆  ◆

 封印殿の境内で四組に分かれてそれぞれの戦いが繰り広げられている。

 時々ロウザが、自分も戦いながらも、散らばった仲間たちに回復魔法をかけてくれている。

 そんな中、キョウはロウザの細かな気遣いに感激しながらイズヴォロと戦っていた。

「焦れる。…焦れるものです…。いつまでもこのようなことはしておれぬ…、さっさとこの上の龍の里で龍卵を得るほうが先なのだ! 振り切って先に行かせていただく!」

 イズヴォロは、龍に姿を変えたキョウが次々と打ち出してくる光炎をかわしたり弾いたりしながら、苛つきを隠しきれず、反転して去ろうとした。

 ぎゅいんっ!
 しかし龍人の娘が回り込む。キョウはイズヴォロをみすみす逃さなかった。

「あなたはわたしの両親の仇…。そう簡単には逃がしませんよ。わたしの両親は龍の里を守るために命を落としたんですから!」

 キョウの瞳は復讐に燃えている。

「ふん…。あんな非力な者たちにこだわってどうするのです。あなたは成すすべなく倒れていった者たちを遥かに凌駕する強さをすでに身に着けている」

「侮辱しないでください! 呪文(スペル)…月光閃(ゲッカレイザー)!!!!!!」
「グゴガアアアアアア!!!!!!」

 キョウの怒りの三文字魔法が激しい光線となってイズヴォロの身体を焦がした。

「はぁ…はぁ…はぁ…。
 イズヴォロ…、わたしは…あなたより強いですが…、強さだけが価値などとは決して思わない!」

 パチパチパチパチ……
 焦げてボロボロになった鎧のイズヴォロは、拍手をはじめた。

「ぐはああああっ…、フッフッフ…、賞賛…賞賛です…賞賛に値する…! だが…!」
 イズヴォロは拍手を終えて大剣を天にかざした。

「再びその威力をここに示せ、緑翼(りょくよく)の大剣…ウィリディス・アーラ・クレイモア! 斬撃! 斬撃です!」

 イズヴォロは、緑の翼を象った鍔(つば)を持つ、二ナメトルもある巨大で幅広の大剣(クレイモア)「ウィリディス・アーラ・クレイモア」を両手で構え、もう一度しつこく
「斬撃!」
 と叫んだ。

 緑翼の大剣が振り下ろされ激しい威力の刃動が迸(ほとばし)ると、刃動を受けたキョウの身体が弾けて舞った。

 キョウの身体は石灯籠にぶち当たり、石灯籠はボーリングのピンのようにバラバラに散った。

「う…うぐぐぐぐ…」

 キョウは、回復してもらったばかりの身体に再びダメージを受けたのだった。

「よく鍛えてありますね、キョウ=イチモンジ。
 いまの斬撃、並みの相手なら真っ二つになっていた。やはり強い。
 だが…せっかく強くなってもなお、そのように相手の強さを見くびるからこのように、より強き者に虐げられることになるのです。なんと愚かな龍人の娘よ」

「わたし…負けられない…! この場を譲られたんだから…!」
 と、キョウは立ち上がった。
 するとなんと…光り輝く五つの頭の龍が、キョウの傍らに現れた。

「…棍霊ゴズロン様…来てくれたんですね…」
 キョウは立ち上がり、両の手のひらを前方に構えて

「棍霊ゴズロンの啓棍(アポカリプス)・耀眩王(ようげんおう)!!!!!!」

 と、叫ぶと、ゴズロンは啓棍(アポカリプス)と呼ばれた棍(こん)にその姿を変えた。

「なんと美しい棍でしょう…。衝撃…衝撃に値する。衝撃です。だが、この緑緑の大剣ウィリディス・アーラ・クレイモアより素晴らしき武器がこの世にあるでしょうか? いえ、あろうはずもございません。なぜならばですよ? では、その所以を語ってあげま…」

「うるさいのです!」

 イズヴォロの演説はここで遮られ、キョウの棍による乱撃が浴びせられた。

「Χ乱撃(かいらんげき)!!!!!!」
 ドドドドドドドドドドドド!!!!!!

「そんなことよりこっちがたっぷり、こっちの強さを見せてあげようじゃないですか!!!!!!」

 親の命を奪った大剣の素晴らしさをうっかり聞きでもして万が一にでも『それは素敵な武器だなあ』などと思うなどということは、まっぴらごめんなキョウなのであった。

「グワアアアアアアアア!!!!!!」

 猛烈な勢いで棍の強烈な撃が何十何百何千も撃ち込まれてゆく。

 イズヴォロはキョウが言った通りにたっぷりキョウの強さを見せられている。

「とどめです! 耀暁幻視桃源郷棍(ようきょうげんしとうげんきょうこん)!!!!!!」

 ヴィカッ、と、キョウの龍とヒトの四つの目が光り、ずおうぅっ、と、ライトグリーンとピンク色のマーブル模様の巨大な光の渦巻きのようなものが立ち昇ったかと思うと、キョウは棍を大きく突き、その突きとともに光の渦巻きが一気にイズヴォロに流し込まれた。

「あ…あ…あ…」

 キョウの強力な「幻法」…幻術ともいう技…、で、精神にダメージが与えられたのだ。

「了撃!!!!!!」

 ジョーやパーンやキョウやソーの師匠である壱紋寺の僧・白雲幻師シルヴァは、幻師というだけありこの幻法を得意としている。キョウもその修行をしたのだ。
 かつてジョーがヴァルナイトとの戦いにおいて精神を斬る技を披露したことがあるのも、この幻術の教えがあってこそである。

 また、ケンヤとセシルもジャクロスとの戦いにおいて、ジョーに借りると言ってそれと同じ技を使ったことがある。これはケンヤがジョーから習い、さらにセシルに教えたものである。

 イズヴォロは崩れ落ちた。
「この…私が…敗れるとは…。復活したばかりだと…いうのに…」

「もえてるかぁああああ――――い!!!!!!」
 そこに、クルリラ王子が走ってきた。

「!?!?」

「とどめは王子が差すぞよーん!!!!!! おうじカッター!!!!!!」
 ザンッ! とクルリラ王子の背中の「おうじカッター」と呼ばれる巨大な丸い刃物が回転してイズヴォロにとどめのとどめを差した。

「σ橙靡(シグマダイナミック)!!!!!!」
 ドカ―――――ン……!!!!
 クルリラ王子はさらに波法を爆発させて、仕上げ、それからにこっとキョウに。
「キョウ、怪我はない?」
 と、訪ねた。

「う、うん、だいじょぶです王子!」
 キョウがビシッとブイサインで返すと、クルリラ王子は、一層にこおおっと笑顔を見せてピースを返し、
「じゃあトカゲの続きやってくるね――――!!!!!!」
 と、そのまま勢いよく走り去っていった。

「はあ、両親の仇なのに持ってかれちゃいました…。でもまあ王子は、ああいう子なので」
 と、ボロクズのようになって気を失っているイズヴォロを見てキョウが言うと、突然、

 バシュン…

 と、何者かが現れた。
 そこには新たに見慣れない鉛の鎧をつけた白い髪の男が現れていた。

「!?!?」

「なんだよー、このエオフォルトさまが強制召喚されたのかよー、せっかく塗り絵してたってのになあー…。
 あーそーか。イズヴォロが倒されたんだなぁ。イズヴォロが何者かに倒されたらこのエオフォルトさまをその地に強制召喚するよう、自分自身で仕掛けておいたんだったよなー。いやあそうだったそうだった。
 おい、お前がイズヴォロに勝ったのか! お前、かわいい顔してやるじゃないか!」

「…木頂緑翼イズヴォロが倒された瞬間に出てくるとは…あなた、何者ですか?」
「なんだよー、このエオフォルトさまを知らねえのかよー。泣く子も黙る大魔王集団『魔頂十三点』の第五魔頂点、木頂鉛塗(えんと)エオフォルトさまだぜ?」

「えっ…木頂鉛塗(えんと)エオフォルト? 木頂は木頂緑翼イズヴォロではなかったんですか…?」

「えっ? あっはっはっは、お前これがまだ木頂だと思ってたのかよ! ばっかだなあ、これは先代の木頂だぜー。そっか、こいつわざわざ本丸の情報を隠してくれてたんだな。このズタボロになったイズヴォロの肩書きはもう木頂緑翼じゃなくて、このエオフォルトさまの配下、魔頂兵・木翼頂駒イズヴォロっていうんだ。覚えといてやるんだな!」

 「頂駒」は、魔頂の特別な配下である「魔頂兵」を示す称号である。ちなみに魔頂兵のなかには「頂駒」という称号ではない魔頂兵もいる。
 エオフォルトの登場を見て、ョデ~ォ・ぬとヌァッスが歓声を上げた。

「エオフォルトさま・ぬ! 来てくれたん・ぬ!」
「エオフォルトさま、なーんじゃあ、結局来れるんじゃねえですか『塗り絵が忙しいけぇ』とか言っておいてのう!」

「よう、ョデ~ォもヌァッスも元気そうじゃねえか。お前らはそれぞれそのまま自分の敵を押さえつけとけよ、誰もこいつを助けに来れないようにな!」

 エオフォルトはそう言うと、腰を落として構えた。

「目覚めな、木のクロスラプターよう…。ジュピターラプター…始動!」

 ズアッ!!!!!!
 エオフォルトの額に、輝く大きな紋章が発動した。ジュピターラプターである。

「ジュピターラプター…!?!?」
 とてつもないエネルギーが巻き起こっている。
 だがかつてキョウは以前にもこのような力を見たことがあった。
 それは、ブルーファルコンである。
「…なんて…力なの…!」
 キョウに戦慄が走った。

 さて、「クロスラプター」、あるいは「ジュピターラプター」とは何か。
 それは、言ってしまえば「量産型ブルーファルコン」のようなものである。

 かつて天界神リードセイガーは意志無き純粋な力として、ブルーファルコンの量産型である「セイガーバード」を作ることに成功し、フウラや、選ばれし者に与えた。

 それを知った破壊神コロスクロスは「クロスラプター」という「セイガーバード」同様の力を作り、やはり選ばれし者たちに与えたのだ。
 そして木頂の「クロスラプター」の名前が「ジュピターラプター」なのであった。
 いくつかの出来事を経て、昨今、神々が下々の勢力との接触を強めるようになってきた結果の力である。

「…魔頂には冥頂魔天エクスジード以外にも『鳥飼い』が…いるのですか…」
 ジュピターラプターの激しいエネルギーを感じ取りながらキョウが尋ねた。

 昨今ではバードやラプター等を使うものは「鳥飼い」と呼ばれ、バードやラプター自体は「飼い鳥」、あるいは「鳥」などと呼ばれている。

「そうだぜ。破壊神コロスクロス様の加護でなあ…。
 エクスジードの鳥はプルートゥラプターっていうらしいな。エクスジードのやつ、理不尽な契約で使役されているらしいじゃねえか。てめえを殺せば魔頂同士のエクスジードにも恩が作れるってもんだぜ。…エクスジードはどうした?」

「彼は…先の戦いのダメージが大きいので眠ってもらってますよ」
「お前は『鳥飼い』じゃねえんだろう。セイガーバードとかそういうのは貰ってないんだろう? じゃあこっちの勝ちだなぁ…!」

「この…棍霊ゴズロン様の啓棍(アポカリプス)・耀眩王(ようげんおう)で…防ぎます!」

 キョウが耀眩王(ようげんおう)を構えると、対するエオフォルトはジュピターラプターの力を強めて一気に放った。
「こいつが防げるもんかよ…ジュピターデストリュクシオン!!!!!!」

「う、うあああああああ!!!!!! う…ううう!、負けません!
 一龍千光薙ぎ払い!!!!!!」

 キョウはジュピターデストリュクシオンのダメージを受けながらも、周囲の広範囲に啓棍(アポカリプス)で敵のエネルギーを薙ぎ払おうとした。

「さらに強まれラプターよお…、そして、イヌパカ鉛弾シューバレイン!!!!!!」

 エオフォルトがぬりえ本を開くと、そこから雲が噴き出し、そこからイヌパカの形をした鉛の雨がキョウに降り注いだ。

「ああああああっ!!!!!!」

 ふたつの技を受けたキョウはダメージが強く、耐えきれずに手を放してしまった。
 棍が宙を舞う。

「とどめだ! 
 ガーワナッサ・テミン・キーモットゥオ
 ガーワナッサ・テミン・キーモットゥオ
 爆ぜる黒鉛ルヴァヴァンムの盃に至る輝きの両手を掲げよ…
 究極呪文(アールスペル)… 爆鉛輝恭強(ヴァークヴィシュリッツォ)!!!!!!」

 エオフォルトは両手を斜めに掲げ、ジュピターラプターの助力で肥大した魔力を利用した呪文を繰り出した。
 エオフォルトの掲げた両手が輝くと、どす黒く巨大な球体が宙に浮かび、その球体がぎゅん!とキョウの元に向かっていった。
 この恐ろしい魔法をまともに食らった者は大爆発と共に消し飛んでしまうだろう。

「五文字呪文だと!」
 ソーが振り返った。
「ま、間に合わないよ!?」
 クルリラ王子も焦った。
「「キョウちゃん!」」
 ファイとターがシンクロして叫ぶ。
「は、離せ、キョウが死んじまうだろうが!」
「絶対に離さんのじゃ、離さんのじゃあああああああ」
 ガルシャはヌァッスに羽交い絞めにされていた。

 このままではキョウがやられてしまう。
 その時である。

「うおりゃああああああああ!!!!」

 ザン!!!!!!

 なんと、
 そこに、ひとりの男が現れ、刀のひとふりで究極呪文(アールスペル)と闘気を一瞬で消滅させたではないか。

 もわもわと、水蒸気が包むなかで、長髪のサムライが振り返った。

「ここによ…、オレ様が宇宙一かわいがってるひとり娘をいたぶってるヤツがいるらしいじゃねえか…!」

「お…お…お…」
 キョウは両の手のひらを口に当て、震えた。

「ずいぶんでかくなって…綺麗になったじゃねえか、キョウ」
 ジョーの知っている幼かった姿のキョウとは、まるで見違えていたのだった。

「お父さん!!!!!!」

 現れたのは、光刃武士(コージンウォリアー)ジョーであった。

「五文字魔法(アール)を斬って捨てた…だと…!」
 エオフォルトは目を丸くして驚く。
「あいつも『鳥飼い』か…、木っ端魔王が偉そうに…!
 見てな。オレ様が、あれよりはもうちっとマシな『飼い鳥』ってやつを見せてやるぜ!」
「えっ…まさか…!!!!!!」
 キョウが驚く間もなく、ジョーは「鳥」を発動させた。
「コージンセイガーバード… シルバーフェイロン始動!!!!!!」

 ジョーの額の上に目のような瞳が輝くと、ズアアアッ! と、ジョーの額にジョーの紋章の形の「セイガーバード」が光り輝きながら出現した。

「シルバーフェイロンだって…? それじゃ鳥じゃなくて飛龍じゃねえかよ…。うひゃあ…あのヤロウのあの力…なんてことだよ…!!!!!!」

 エオフォルトは動揺を隠しきれなかった。
「けっ…。せっかく貰ったもんで使い勝手がいいから使ってやるがな…このセイガーバードも、てめえのクロスラプターも、別格のブルーファルコンやシャドーバハムートと比べたらオモチャみてえなもんだぜ…。だけどな。勝つのはオレ様なんだよ! 今や神さえ恐れる、何より鍛えたカタナのチカラでな!
 来やがれアポロン!!!!

 昴百閃丸(すばるひゃくせんまる)!!!!!!」

 と、ジョーが叫ぶと、ジョーの持つ刀「一閃百光丸」に剣霊が宿り、その姿を変えた。

「あれが…伝説の剣霊アポロンの神剣(ラグーナロク)・プレアデシロン!
 ふ…ふぅん…こ、これはこれは、こ、このエオフォルトさまのジュピターラプターと勝負するに値する相手じゃんかよお。先代五聖帝サマってゆうのは今、この宇宙そのものを守って下さってるって聞いたから敵にはしたくねえんだけどよお、さすがにこっちが殺されちまうわけにはいかねえからなあ…あ、あ、相手になってやんぜー!」

 エオフォルトはもうヤケクソ気味であったが…

「うるせええええ!!!!!! ⑩兆万年はええんだよおおおおおおお!!!!!!」

 ズザンッ!!!!!!
 と、巨大な斬撃が放たれ、その斬撃のあとの衝撃音ががドォオオオオン…ドォオオオオン…ドォオオオン…、と山彦になって遠くの山々まで響いた。

 勝った…と、ジョーが確信したと同時に、キョウが飛び込んできた。
「お父さん! お父さん! お父さあああああん!」

「おうおう、こいつぁもしガキのときのおめーだと、うれションしてるパターンの喜び度だ」
「もおおお、もうしないよお父さんんーー!!!! ああ…お父さんだぁ…」

 セイガーバードをオフにしたジョーは、一部ふんにゃりしたキョウの身体に抱きつかれて娘の成長に驚きながら、

「おうおう、まだ他の奴が戦ってんだろーが…
 …って…。ん…、三つとももう少ししたら終わりそうだな…」

 と、言い、照れて視線をそらした。

  ◆  ◆  ◆

 その頃、ファンネルトカゲたちは、ソーの撒いた塩によるマップ兵器「岩塩無双インフィニティソルティング」により多大なダメージを受け、ファンネルと動きを封じられていた。

「王子、いまだ!」

 ソーが叫ぶと、クルリラ王子は技名を言うこともなく、?霊(そうれい)ザオシェンの宿りし狂銃「煌輪王(こうりんおう)」で残ったファンネルトカゲ達にとどめを刺してゆく。

「あははははははは!!!!!!」
「シャギャアアアアアアアア!!!!!!」

 猛烈な炎をまとった銃弾がトカゲ達に次々と流れ込み続け、しばらくの間を置いて、止んだ。

「終わったぞよーん、横綱のおねえちゃん! えへへーい、ピース!」
 ハチの巣にされたトカゲ達をバックに、クルリラ王子は再びブイサインをした。

「ふー。
 おねえちゃんはやめぬか。いつも言っているが。
 だが…そなたと一緒に戦うのはそれがしには気楽でいいな。なぜだかそなたには気を使わなくていい。ほかにこんな王子がいるだろうか…」

「おねえちゃんおねえちゃん、なでなでして? 王子は、よくやったぞよん? でしょ?」
 クルリラ王子はソーのところに駆け寄ってきた。

「やれやれ、またか。ひさしぶりだな。お前はいつまでも子供みたいだな…、元服してるんだぞ。大人になったんだぞ。大人はなでなでするほうなんだぞ。お前王子なんだぞ。しっかりしなきゃダメなんだぞ。わかってるのか? お前はそれでいいのか? ほら…来るがいい」

 と言いながらソーはクルリラの頭を撫でてあげた。初めてではない。何度かある。

 なでなでなで…

「えへへ…えへへへーい…」

「お前はほんと、下心もなさそうだな…。少しは変な気分にならないのか? 不思議なヤツだ…」

 末っ子のソーだが、こうやって慕われるのは嫌いではなかった。ずっと一緒にいたいヤツっていうのはこういうヤツなのかもしれない。

 そう言えば恋人くらい作れと姉たちから言われていたが…。
 そんなことをソーが考えていたら、クルリラ王子がこんなことを言った。

「えへへへ、変な気分ぞよーん? うーん…おねえちゃんには少しなるかなあ…、あのねえ…おねえちゃんのおっp」

「まて、まてまてまてお前…、まてまて…。えっ…、あっ…、うーん… よし、これ以上その話はやめようか。うん。健康なんだからそうだよな。うんうん、やめよう、そうかそうか、よしよし」

 なでなでなで…

「なんでぞよーん?」

「まて!」
 と、そこでソーが改めて叫んだ。

 うしろでハチの巣になっていたファンネルトカゲのうち、一匹がまだヨロヨロと向かってくるのがクルリラの背後に見えた。一匹だけHPが特に高い個体がいるのだ。

「あと一匹残っているではないか!!」

 ソーは、ばっ、とジャンプして残った一匹の相手のわきの下に頭を入れ、肩の上に担ぎ上げ、高く飛びあがって体をそらしつつ、激しい勢いで敵を後方へ叩き落とした。
 元横綱の放つ伝説の決まり手、「撞木反(しゅもくぞ)り」である。

「シュモクバックフリップ・ジャハンナム!!!!!!」

 ド―――――ン…!!!!!!

「シャ―…!!!!!!」

 こうして、すべてのファンネルトカゲは倒された。

「…よし…、じゃあ王子にもそれがしの頭をなでてもらおうかな」

 ソーが言うと、クルリラ王子は満面の笑みを浮かべた。

  ◆  ◆  ◆

 一方、ヌァッスと戦うロウザの背中で透明に輝いていた「册山(ザクザン)」と呼ばれる本の山は、戦いが続いて残り一冊になっていた。

「ラストワン賞でござんすよおおおぉ――…」
 ロウザが超幣帛(ちょうへいはく)・穂垂(ほすい)・庭常宗(にわとこむね)を構えて力を振り絞ると、その上空に光り輝く巨大なおみくじボックスが浮かんだ。

「ヌァッスのぉ…新年のおみくじはぁ、これに決まりでござんす!!!!!!」

 しゃかしゃかしゃかしゃか…おみくじボックスが振られてゆく。

「だ…大吉が出るといいんじゃがのう…」
 ヌァッスは固唾を飲んで見守った。

 ドオオオオオン!!!!!!
 おみくじボックスから、光り輝く「大凶」と書かれた棒が出てきた。

「御籤(みくじ)…大凶落とし!!!!!!」

「ほんげええええええ!!!!!!」
 ヌァッスにロウザの最後の穿弄㋩(せんろうは)が降り注いでゆく。

「ガルシャさん、あっしはもう出し尽くして鼻血も出ませんでござんすぅー。仕上げを頼むっすぅー!」
「じゃあ、任されたぜ!」
 ガルシャが高く飛び上がった。

 爪霊(そうれい)ハヌマンの靂爪(ジャマダハル)・正雷王(せいらいおう)が脚に装着された。

「閃脚万雷(せんきゃくばんらい)γξ霹靂(がんくうへきれき)最極蹴(さいきょくしゅう)!!!!!!」

 ガルシャはその身に雷を纏い、脚に掲げた霹爪で空より舞いおりてヌァッスにとどめを差した。
 ドオオオン… と、メモリゴレムのネジなどの部品が飛び散ってゆく。

「やったああああああでござんすうううう!!!!!!」
「おう!」
 ガルシャはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶロウザを見て良い気分になった。

「せっかく神社に来たんだからオレもあとでおみくじ引いていこうかな?」
 と言うと、大社の娘が
「あ…まだ背後のおみくじボックスが残ってるでござんすよ。なかなかのラストワン賞でござんす」
 と答えた。

 光るおみくじボックスはシャカシャカとその身を振り、そして「超絶大吉」と書かれた棒をまろび出した後、パッと消えた。

「ガルシャさん超絶大吉です。いい一年になりそうでござんす!」
「このおみくじの結果って…ほんとにランダムなのか?」

「企業秘密でござんすよぉー?? でも…あっしという新しい仲間にも出会えたしぃ、さっそくいい一年が始まってるんじゃござんせんかぁ?」

「それは…そうかもな!」
 ガルシャはロウザに、にっこりと笑顔を向けた。
「あっちでイズヴォロが倒されてひっくり返ってるでござんすね。封士(シーラー)として封印してくるでござんすよ」
「じゃあこれ飲んで行けよ」
 ガルシャはロウザにぱしっと、MP回復ポーションを投げた。
「ありがたくぅー、いただくでござんすよぉー!」

 ガルシャは駆けて行くロウザの後ろ姿を少し眺め、かわいいな、と思ってから、そのまま後を追った。

  ◆  ◆  ◆

 一方、ファイとターによる「ョデ~ォ・ぬ」との戦いも最終局面を迎えていた。

「エオフォルトさまもイズヴォロもヌァッスも倒された・ぬ。…ということは、わーが生き残って龍卵さえ得られれば、わーが木頂に返り咲ける・ぬ!!」

「ちゃんちゃらおかしいなあ」
「ちゃんちゃらだねえ」
 ターがファイの目を見て合図すると、ひゅん、と、ファイの左手の半分のオリオンの紋章がターの左手に戻り、ふたたびターに両のオリオンが揃った。

「おかしくなんかない・ぬ」
 ヌァッスはそれには気付かなかった。

「あたしたちがいる前で、この集落にこれ以上犠牲なんか出さないから!」 「そうはイカの塩辛ぬ!!!!!! ぬぬぬうぬ光線・ぬ!!!!!!」

 ファイは棒状の扇・神波∮風扇(かんなみふぁいふうせん)を再び取り出して激しい風を巻き起こした。
「风風扇(フォンプウファン)!!!!!!」

「ヌヌヌヌヌヌ――――!!!!!!」
 グオワアアアアッ、と切り裂く竜巻の大ダメージを受けながらョデ~ォ・ぬが舞い上がってゆく。

「よおし…、チェンジ…アースクラッシャー!!!!!!」
 ターは剣霊オリオンの成す七つの形態のうち、アースクラッシャーと呼ばれる武器を出現させた。

「えっ…ター、それ使っちゃダメってママが言ってたヤツじゃなかったっけ?」
「地表にあたらないように角度さえ気をつけたら平気だって!」
「でも、ママが知ったら怒られるよ? あたし止めたからね?」
「告げ口しないでよ?」

「アースクラッシャーオリオン…聖皇界砕射(しょうおうかいさいしゃ)!!!!!!」

 アースクラッシャーオリオン。
 それは、下界(ドカニアルド)さえも滅ぼすことが出来る武器だと言われている。

 天に舞い上がった「ョデ~ォ・ぬ」に向けて放たれたその波動はあまりにも大きく、下界(ドカニアルド)の半球の多くからその光が観測できたという。
 しばらく、経験のないような光が天から地上を照らしたあと、パッと消えて元通りの空になった。

 しばしターは、その空を眺め、じっと目を凝らした。
 それから、うん、と言ってアースクラッシャーを左腕に戻した。。

「…どう? ター。 終わったっぽいよね?」
「終わったね、うん」

「ふー…、もう! ターったら! …はー…でも…勝ったね…。勝ったんだ!」

「ファイ、あけましておめでとう!」

「えっ!!!!!!」

 それからターは、くるっと身体を回してファイに向き合うと、先程ファイにされたのと同じようにファイを抱きしめた。

 ぎゅうううう…。

「ずっと…会いたかったんだ」
「もう…ターったら…」

 それでファイも安心して、ターの身体に腕を回した。

「だって…クリスマスもファイに会えないで、それからずっと戦いなんてさ…」
「うん…うん…あたしも会いたかった…」
「でもファイの身体…キョウちゃんと抱き合った龍のウロコの匂いめっちゃするし…切ないよ」
「もう…そういう言い方するう…」
「でもファイが幸せなら…キョウちゃんとどこまで好きにやってもいいからね…」
「ねえ、ター。今はあたしとこうしてるんだから。こうしていようよ」
「うん…うん…」
「もっと目の奥を見て?」
「ぼくのも…ね?」
「うん…そう…その調子…鼓動を合わせて…」

「ファイ…」
「ター…」
 互いの体温が感じられて、鼓動のリズムも合わさってゆく…。

 …そこで、邪魔が入った。

「…いいにゃあ…。やつがれもまざるー」

「「!」」

「ふたりの間に入ってもいいかにゃあ?」

 そこに急に現れていたのはゾルアとエルティアの息子・凪気(ナギ)召士(サマナー)ティルアだった。

「「うわ、ティルアくん! ダメだよ!」」

 ばっ、と双子はぴったり声をそろえながら身体を離した。

 ゾル=ティルアは、頭部にネコのフードを着用している、魔法や召喚術が得意な魔界人の男子である。
 ティルアは蒼い風とは仲は良いが蒼い風のメンバーではない。ギルドに登録して情報を得て、様々な活躍をして魔界(ヴィルパイアー)や下界(ドカニアルド)を守っている。

「じゃあそのままファイとターは…子作りするにゃ?」
 ティルアはいたずらっぽく言って、仲良しの二人をからかった。

「「するわけないでしょ! きょうだいなんだから! どうしてそうなるの!」」 「じゃあ、ただただ、きょうだい愛を確かめ合ってたにゃん?」
「「そんなことティルアくんに面と聞かれても困るよ!」」
「そこは否定しないのにゃん?」
「「だ、だってさ、だって、抱き締めあっておいてそこを否定するのも、お、おかしいじゃん?」」

 ファイとターは完全に声が揃っている。

「うわあ、引くほど双子の息ぴったりにゃんねえ…。声が裏返るとこまで揃ってるにゃん」

 もともと息ぴったりのふたりなのに、抱きしめあったことで鼓動が完全一致してしまっているので、全部同時に出てしまうのだ。
 この二人にはよくあることだ。

「「そんなことないよ! てゆーかティルアくん来るの遅いよ!」」

「いや、やつがれはにゃ、ムシェラ総大司教様の話を聞いて龍卵が狙われそうだにゃ?って思ったので、この上のシュモイカタっていう龍の里の結界の境目あたりに行ったら、第六魔頂点・土頂掘匙(くっし)ラドツィルデのペットを名乗るブタが出てきたので戦ってたんにゃけど」

 かつては魔窟守護の学生アルバイトをしていたラドツィルデも、今や立派な魔王に出世していたのであった。

「「え、それはそれは…、お疲れ様…。あのラドツィルデって土頂、黄金のスコップで埋めてきたりして超強いし、配下もみんな相当やるよね…。土頂も絡んでたんだ…」」

「いや、今回はラドツィルデは絡んでないにゃん。あのブタは主人に認められたくて強くにゃりたいからって、勝手に正月休みを利用して龍卵をとりに来ただけだったにゃん。ボコボコにしたら、二度と来ませんって言って帰っていったにゃん」

「「さすがティルアくん、強い…」」
「さっきから、ふたり全部、一字一句のがさずぴったり声が揃ってるにゃん?」
「「そんなことないよ!」」
「そんなことあるにゃん」

「「もー、あけましておめでとう! ティルアくん!」」
「おめでとにゃん!」
「じゃ、正月くらい両親とゆっくりしたいから挨拶はこのくらいにしてやつがれは国に帰るにゃん。みんなによろしく伝えるにゃん」
「「正月なのに来てくれてありがとねー」」
「じゃあ…続けるのにゃん!」
「「もういいよ!」」
「ありがとうございましたにゃんー」

 それから、「のら」と「ぬん」という召喚獣を引き連れて、ティルアは魔界(ヴィルパイアー)に帰っていった。

  ◆  ◆  ◆

 …それはさておき…。
 ョデ~ォ・ぬがどうなったのかは、わからなかった。

 下界(ドカニアルド)をも滅ぼす一撃を受けたのだろうからおそらく無事ではいまい。

 イズヴォロはというと、ムシェラ総大司教に託された例のクソデカ封印札によってロウザに再び封印された。

 ヌァッスのメモリゴレムは、もう復元不可能の破壊状態である。

 エオフォルトの身体も一斬のもとに斬り捨てられ、無くなっていた。ジョーの技があまりにも強いので消滅してしまったのだろうか。
 しかし、魔頂選定委員会により強制召喚されたのかもしれない。

 だが、それがわかるすべは無かった。


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