SPECIAL HURRICANE 13 -FEARFUL☆DUNGEON-
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#5 父と、キットアシュガ―で



 キットアシュガ―封印殿の前の敷地は戦いで石畳がはがれたり灯篭がひっくり返ったり砂利が飛び散ったりして、少し荒れ果ててしまった。

 だが構造物の破壊は最小限に抑えられているので、ファイたちが灯篭や石畳をこつこつ戻していたらずいぶん復元できた。
 ソーが戦闘で大量に撒いた塩も、魔法の力で掃除できた。

 告知や人員配置さえできれば、中止になっていたこの社殿への参拝客受け入れも再開できるだろう。

 ヨマッセ大社の巫女さんたちがやってきて、「賀正獣」と呼ばれる正月に奉じられる獣たちのハリボテの飾りを物置から出してきて境内に並べだしている。
 伝説の賀正獣「シシマ・イ」、「ダ・ルマ」、「ナスフ・ジタカ」、「コ・マ」、「カ・ドマツ」、「カガ・ミモチ」、「ハ・ネツキ」。七種類のハリボテが勢ぞろいである。
 一度参拝中止になっていなければ、これらははじめからここに飾られていたのであろう。同じものがヨマッセ大社の本殿の境内にも飾られている。

 そうやって、元旦の日は暮れてしまった。

「お雑煮ができたでござんすよぉ――。おせちもあるしぃー」

 封印殿の境内でファイたちが腰をかけて休んでいると、ロウザと、その父であるヨマッセ大社の宮司マノッチャが料理をたくさん持ってきてくれた。

 キョウがファイに声をかけた。
「ファイちゃん眠そうだね、寝てないもんね。お雑煮来たよ」
「ふわぁあああ、お雑煮? わーい!」

「にゅうにゅう」「にゅうにゅう」「にゅうにゅう」
「にゅうにゅう」「オールドオールド」
 ふにゅたち、ツィラーQの中にいた五匹のニュービットたちも連れてこられてわちゃわちゃ遊んでいる。

「ロウザさん、お父さんと仲直りした?」
 と、ファイが訊くと、娘と父親は口々に
「それはねえファイさん、ノーコメントなんでござんすよー」
「風帝様、それがわたし、あれから娘とはまだ一言も口をきいてないんですよ…」
 と答えた。

 ロウザはつーんと父マノッチャの隣で料理を並べている。

「と…とにかく皆さまごゆっくりしていって下さいねー。何から何まで感謝の極みでございます。あっ、また里を救っていただいたのでまた石像を作らせていただいてもいいでしょうかー」

「そういうことなら娘さんのもちゃんと作らなきゃだめだぜ? この戦いに欠かせない戦力だったんだからな、おじさん」

 マノッチャの提案にガルシャが答えた。すると、
「オレ様の像はもうあるからもういらねえや」
 と、龍になったキョウが首に巻きついたままの状態で、子供の姿になったジョーが注文をつけた。

「そ、そうでございますか…」
 マノッチャは「ポイチメモ(ウソ)」と書かれた謎の市販スケジュール帳を取り出して、ロウザの像つくる、ジョー様の像いらない、などと書いている。まあただのスケジュール帳なのだが。

「ジョーさん、パパ達は…もうしばらく帰れないのかな?」
 ファイは、それを聞かずにはいられなかった。

「オレ様たちはな、審判を受けるために神界で神々と戦う日々なんだ。多元宇宙勢力との戦いもまだ続くことも絡んでな。
 だからあいつらもとてもまだまだ帰れねえ。
 …そんな中、オレ様だけが今日下界(ドカニアルド)に戻ってこれたのには理由がある。今のてめえらだけではジュピターラプターを全開にしたエオフォルトには勝てねえかもしれねえって、フウラたち五聖帝院どもから相談があったんだ。
 それで駆け付けるのは回復を担うガンマ以外ならオレ様たちの誰でも良かったんだが…。水晶玉で見たら敵はキョウと戦ってたからな、それで、オレ様が行けよってことになった」

「そうだったのか…」

「わたしたちも…まだまだですね」
「そーゆーことだ」
「バトルのマッチングももうちょっと変えたほうがよかったのかな」

「それはどうでも変わらなかっただろうな」

「でも…白砕狐王(びゃくさいこおう)レクソンと戦った時には来てくれなかったよね。下界(ドカニアルド)が滅ぶところだったよ」

「あん時はよ…行かせてくれってどれだけ言っても逆に行けなかったんだ。でもよ、何とかなっただろ、つまりな、行かなくてもよかったってことだ。それも、そーゆーことだ」

「じゃあ…お父さんまたすぐ行っちゃうの?」

「そうだな…あと…二時間、いてやる。あっちも、そのくらいは何とかなる戦況だ」

 すると、ガルシャが突然こんなことを言い出した。

「ジョーさん、じゃあ、その間、オレと戦ってください」

「…ガルシャてめえな、さっきの話聞いてたか? てめえらじゃ弱えぇからオレ様が来たっつってんだよ」

「納得できません。エオフォルトってヤツだってオレ達だけで勝てたはずです。これからオレがジョーさんに戦って、そんで勝って、五聖帝院のオレ達への評価なんか見返します!」

「オレ様ぁな、忙しーんだ。てめーみたいなガキとやれっかよ」

「オレもう元服してるんです、オトナです」

「そうだな…。よしこうしよう。魔界宮にヴィリオンってやつがいるだろ、ガルシャ、てめえがそいつに勝てたら、戦ってやるよ」

「えっ…あの天魔無双と言われる…」

「会ったことあるはずだがな。…どうだ、わかったかガルシャ」

「どうやって連絡とるの?」

「あぁん、そんなもん、すっとこゾルアの息子でも、つるピカアーガスの娘でも、親が魔界(ヴィルパイアー)にいるヤツがよく蒼い風に手伝いに来んだろ。そのくれえのことは知ってんだ。そいつらに伝言してもらえば連絡はつく」

「ティルアのヤツに言えばいいのか。ソー姐さんでもいっか。…ジョーさんはそのヴィリオンより強いの?」

「たりめーだ。本人に聞いたら否定するかもしれねえが…オレ様のほうが強え!」

「…わかった…! 約束だからねジョーさん!」
「よかった…。お父さんとまたしばらく会えなくなっちゃうのにその時間をガルシャ君に取られちゃうとこでしたよ」

「あー、わかった。ごめんなキョウ」

「ガルシャ君にはあとで埋め合わせしてもらいますからねー」
「中止になったんだから埋め合わせることなんてないだろー?」
「わたしの機嫌は埋まってませんー!」
「あー、わかったよー…」

「…そうだ…わたしお父さんに言いたいことがあったんです」
「…なんだ?…」

「お父さんと会えない五年間…いろんな戦いを経て、いろんなものを見てきました。
 突然のたくさんの別れも、悲しいことも後悔もひとつやふたつじゃなく、ありました。
だからわたし、お父さんともし次会えるなら…そんなことがもし実現するのなら、
すぐ言おう、必ず言おう、絶対に言おうって思ってたことがあるんです。
そう思えたから、やってこれました。
…もちろんその思いだけでやれたわけじゃないけど…、今日これを言おう…っていうその思いもあったから、お父さんが今日帰ってきたこのドカニアルドの大地を、今日まで誰にも滅ぼさせずに、消させずに、残すことが出きたんです」

「なんだ、キョウ、何を言うんだ?」
「言いますね」

「……おう……」

「…お父さん、大好きです」

 そう言ってキョウは、今度は人間の姿になってジョーの首に抱きついた。

「なんだ。そんなことかよ、キョウ」

「そんなことって…お父さん、目からなんか出てますよ」
「出てねえよ」

「いつか…一緒に…住めませんか」

「今はまた行かなきゃいけねえけどよ…。また帰ってこれたら…な…」

「じゃあ…そうだ…わたし、お父さんとふたりっきりでデートしたかったんです。まだ時間ありますよね!」

「親子で行くのはよ、デートって言わねえんじゃねえのか」
「デートデート」
「じゃあ…そうだな。このキットアシュガーはお前の実の両親のパーンとクインが暮らしてたところで…、あいつらとはいくつか思い出があんだ。
 残った時間…いくつか回りながらお前に話を聞かせてえんだが…どうだ」

「思い出せるだけの話をありったけ聞かせて、お父さん。…あっ大変、きっと二時間じゃ足りないかも」

 ロウザはそんなキョウとジョーの父娘のやり取りをみていた。
 思えば父にはずっと自分のために苦労を掛けてきたっけ…。

 それからロウザは、父との日々への別れが近づく実感を複雑な思いで噛みしめていた。

「じゃあわたしたち抜けますんでぇー」

 キョウは子供の姿になったままのジョーの手を取って、キットアシュガーの里跡の周回に連れ立って行った。

「行ってらっしゃいー」
「お餅も焼けたのが来たから持っていきなよー」
「夜道気をつけるのだぞ――」
「オレもデート相手が欲しいぜー」
「ここで見つかるといいでござんすねぇ??」
「あははははははははは」

 仲間たちの声が境内に響いた。

 その後、二ポニア帝帝国(ミカドテイコク)のミカドも今回の事件を知り、危機感を持って防衛対策予算を出すことにしてくれた。腕の立つ衛士(オフィサー)や封士(シーラー)らを、封印殿やヨマッセやシュモイカタの里に常駐させてくれるようになったのだ。

 そして、册山封士(ザクザンシーラー)ロウザは父・マノッチャの再婚を祝福した後、蒼い風に入隊したという。

《おわり》

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