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――― 六年後 ―――
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ぐぉんぐぉんぐぉんぐぉんぐぉん・・・
「蒼い風」の新造飛空挺「ザィアーQ」が、エウロピアのレイン川上空を飛んでいた。
「「・・・それから・・・どうなったの? ママ・・・」」
ふたりの子供が、声を合わせて尋ねた。
「それから・・・
いろいろあって、ファイとターが産まれましたとさ!!」
セシルは子供たちに、にっこり笑った。
「ふーん・・・」
「はじめはふたごじゃなかったのか〜」
セシルが「ファイター」と名付けた受精卵は、結局あれから双子に育ち、産まれてきた。
男女である。世にも珍しい「異性一卵性双生児」である。
だから、女の子を「ファイ」、男の子を「ター」と、名付けた。
・・・・・その横で・・・、ひとりの男が、叫んだ。
「うま!!
このおにぎり、うま!!」
むしゃむしゃむしゃむしゃ。
「ママ! ファイ! ター!
このおにぎり、めっちゃうまい!!」
むしゃむしゃむしゃむしゃ。
「・・・」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・ケンヤだった。
「・・・じゃあなんで、パパ、生きてるの?」
ファイが尋ねた。
「ふしぎだよね〜」と言ってセシルが夫の肩をもみもみした。
「お前らのおかげじゃん・・・覚えてないの?」
とケンヤが言った。
「ママのおなかに入りたての頃のことなんて、覚えてないよ!!」
と、ターが困惑した。
そこに、どかどかと更なる子供たちが三人、走ってきた。
「おーいファイ、ター、魔法野球しようぜ!!」
と、ガルシャが誘った。しかしサッカーボールを持っている。
ガルシャはガンマとアルシャーナの長男である。
「わーいおにぎりですねーっ!」
と、キョウが叫び、鱗(うろこ)や羽根のついた尻尾をふりふり振った。
キョウは龍人の孤児だが、ジョーの愛娘として育てられている。
「へーい王子ぞよーん。みんなー、もえてるかーい?」
と、クルリラ王子が激しくくねったり回ったりしながら言った。
クルリラは、騎皇帝クラーク王とレルリラ王妃の息子である。
アホの子である。
子供たちが暴れ回っているため、操縦席からアルシャーナが
「ヤキューは陸についてからやんな!!」
と怒ったが、五人の子はおにぎりを手に「わーい」と走っていった。
そこで自分がつい大きな声を出してしまったことに気付いたアルシャーナは、しまったという顔をして、操縦席の横のじゅうたんやベビーベッドでお昼寝中の乳児や幼児たちの顔を見た。
よかった。シャナンナも、ナンルも、ルマルマも、マアも、アシャドも、みんなまだ、すやすや眠っている。
アルシャーナは長男ガルシャを筆頭に、六人の子を産んだ。お腹の中に七人目もいる。
しかも「国が出来るくらいガンマの子供を産む」という彼女の野望はいまだ健在である。そんなわけで色々と大変なことになっている。
というわけで、かつて五聖帝だった五人は皆、親になった。
テーブルにはセシルが握ったおにぎりが、残り三個残っていた。
ケンヤが手を伸ばすと、後ろからにゅっと三本の別の手が伸び、おにぎりが消えた。
振り返ると、ちびジョーとガンマとクラーク王が一個ずつセシルのおにぎりをかじり、それからびしっ、と三人並んでピースサインを決めた。
「てめーらなあ・・・」
「もー。みんな、おひるごはん食べたばかりじゃんっ」
セシルは山ほどジャガイモの皮をむきながら、ケンヤの目を見て、ねぇ、と、笑った。
幸せだった。
ぐぉんぐぉんぐぉんぐぉんぐぉん・・・
蒼い風を乗せた飛空挺「ザィアーQ」が、川面(かわも)をゆく。
ケンヤは窓の外を見た。
野鳥の群れが飛んでいた。
耳鳴りがきぃん、と、した。
でも、あの「ヤンケ大戦」以来、高所への恐怖は、だいぶ薄れていた。
ケンヤの中には、ジャクロスの過ごした十二万年の体験が今も刻まれている。
ケンヤは、六年たった今も、いつもジャクロスを悼(いた)む。
・・・なあ・・・
ジャクロス・・・
お前の記憶も
風帝の最大の罪も
背負(しょ)い込んで
二度死んで
なお、
オレはまだ、ここにいる。
ジャクロス。
オレはお前という
十二万年の命を持つ
かけがえのない存在を奪った。
あれから、
ブルーファルコンも五聖帝の力も、
みんな子供たちに引き継がれた。
そんなオレなのに・・・
オレはまだ、ここにいるんだ。
それはつまり・・・
まだオレには起こすべき風がある・・・
そういうことなんだろ?
ジャクロス。
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