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ゼグマは離れてアークカイザーの様子を見ながら、言った。
「よし・・・帰ろう、マーキュル。魔界宮へ」
「ゼグマ陛下・・・」
「これは・・・間違いなく父上は、五聖帝に封印されるだろう。
王として取り急ぎ、新たな魔界(ヴィルパイアー)を築かねばな・・・」
「はっ・・・!」
マーキュルは片膝をつき、返事した。
ゼグマはアークカイザーの変調に気付いていた。
アークカイザーは死闘の果てに、ここに来たのだ。
確実に。
「裁け。至るならば何度でも封じられよう。至らぬなら愚を示そう」というのが魔界神(アークカイザー)の主義である。
八十五億年前、天界神リードセイガーと魔界神アークカイザーの決裂から始まった「第一次神界大戦」。
それ以来、魔界神アークカイザーの神生(じんせい)とは、度重なる敗戦の歴史である。
十二万年前の天魔大戦以来、「神界にいない唯一の神」であるアークカイザーは、かつてエンカ達・天界五使聖に敗れ、フウラ達・初代五聖帝に敗れ、今回もまた敗れようとしている。今回も復活したばかりなのに、こんなことになっている。
アークカイザーは一体何がしたいのだろうか。戦局が読めないのだろうか。
神の考えは人にはわかり得ないのであろう。
だがゼグマには、なんとなくそんな父の気持ちがわかるような気がした。
結局、自らの生みだしたシャドーバハムートこと、ジャクロスと同じなのだ。
そしてジョーと同じなのだ。
ゼグマと同じなのだ。
救われたいのだ。
素直になれないのだ。
宿敵への激情が溢れているのだ。
そして、だからこそジョーが光のエレメンタルをたっぷり持って誕生してきてしまったのだ。
アークカイザーがリードセイガーに「八十五億年前からずっと迷惑かけたけど、ゴメンネ。許してね」って言って終わればいいのだが、そんなことは言えないのだ。
だから、構って欲しいのだ。
それがゼプティムの神としての誇りなのだ。
神の考えは人にはわかり得ないが、ゼグマの想像では、アークカイザーのやっていることは結局、そういうことなのだと思う。
そういえば今回の侵攻作戦計画時、ネオガーザムとヴィリオンがこんな会話をしていたな、とゼグマは回想した。
「もしこれでもまた魔界神(アークカイザー)様が封印されるようなことになったら、みんなが幸せな『たわけ』になってつまらなくなるわ。だからな、もしそうなったら、二千年ほど不貞寝(ふてね)する。二千年後に起こせよ、ヴィリオン」
「わかった。だがそうなったらそれはそれで楽しいぞ、ネオガーザム。そういう幸せが何千年でも続けばいいな」
「戦いの鬼がよくいうわ。たわけい」
「そういうお前も実は不貞寝がしたいんじゃないのか? こんな、ヒシャマルのようなとんでもない男を招いておいて・・・」
するとヒシャマルが、「フッ」と笑っていたのだった。
ゼグマが、そんな回想をしていると、マーキュルがじっとゼグマの瞳を見ていることに気がついた。マーキュルがゼグマに言った。
「さあ、行きましょう、陛下」
マーキュルは、ゼグマに深く敬礼した後、ジャクロスの屍(しかばね)を抱き抱えた。
陛下と共に、ジャクロスを悼もう。
頬に絆創膏を貼ったまま微笑を浮かべるジャクロスの亡骸を見て、今、マーキュルはそんな気持ちになっていた。
ゼグマは
「アーガス。お前も来てくれないか。必要だ」
とも申し出たが、アーガスは
「ありがたい・・・。だが妻子に収入を渡し、移界の許可を得てから参りますぞ」
と言った。
アーガスは下界(ドカニアルド)のドン・グリーラン王国を離反して魔界(ヴィルパイアー)軍に加わったのだ。今後はドン・グリーラン軍に身を追われるであろう。
だからもう彼は、妻子の待つゴーバリアン牧場に定住は出来ない立場だった。
「に゙う」
と鳴いて、くにゅがアーガスの頭上に飛び乗った。
「待っているぞ」
と、ゼグマはアーガスの大きな掌(てのひら)を握った。
アルシャーナが、
「元気でな、ゼグマ」と別れを告げた。
サアアアア・・・。
風が吹いている。
ゼグマはこの日を生涯、忘れまいと思った。
(さらばだ下界(ドカニアルド)よ・・・。父よ、兄弟よ、五聖帝よ・・・)
そして、ゼグマとマーキュルは、去った。
アーガスも去った。
雨雲が散ってゆき、夕暮れが迫ってきていた。
激闘が、続いた。
下界(ドカニアルド)の大地と生命を攻撃から守るため、雷帝院ラルサーにより幻界(ワンダーラ)よりゼスタイン城の上空に浮遊島の戦場「フォ・サーカ」が呼び寄せられ、戦士達が飛んでいった。
アルシャーナは、破壊されてしまった義手の跡を撫で、一時的に立てなくなってしまっている腰をゼスタイン城の床に下ろしたまま、ひとり、フォ・サーカの仲間達の放つ爆光を眺めていた。
島の上で大きな爆発や波動がいくつも伸び、光り、轟いた。
いくつも、いくつも、轟いていた。
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