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その頃、魔界宮では、風帝院フウラたち下界防衛公団と、魔界神(まかいしん)アークカイザーとの戦いに決着が着いていた。
「ジャクロス・・・了命(りょうめい)したか・・・」
アークカイザーが溜息(ためいき)をついた。
フウラとの一戦を終え、魔界神アークカイザーはジャクロスの生死をゾルザムに尋ねたところだった。
「友よ・・・」
ヴィリオンは、親友(ジャクロス)の「積年(せきねん)が弾(はじ)けたこと」を噛みしめた。
友の闘いは、結実したのだ。
ヴィリオンは、親友・ジャクロスを下界(ドカニアルド)に送り出した日に贈った言葉を反芻(はんすう)していた。
ジャクロスはきっと「放たれるべきは鳥(カミイ)だ」と、鳥飼(ふうて)いに言えたことだろう。
「・・・泣こうよの」
とアークカイザーが言うと、
「・・・察する・・・!」
と、アークカイザーの足下で敗れ倒れたフウラが言った。
すでにフウラの三人の仲間は敗れ、消えていた。
アークカイザーは風帝院フウラを労った。
「誇るがよいわフウラ。お前はこの神をかつて倒し、今回はそれ以上の力を持って戦い抜き、風帝への道をつないだのだ。
褒美(ほうび)だ。最後に一言だけ、言いたいことを言わせてやろう。
たまわれ」
フウラは床に倒れて天を仰いだままニヤリと笑い、こう言った。
「せっかくあんたも死にかけてるんだから早く行けよ・・・。
HPが回復したら、五聖帝に封印してもらえなくなるぞ」
アークカイザーは、「たわけめ・・・」と、声を枯らせた。
ドン・・・。
魔界宮の暗黒の空に、魔界神(アークカイザー)の攻撃音が響き渡った。
ネオガーザムがアークカイザーに跪(ひざまず)いた。
「風帝院フウランザー討伐、お祝い申し上げます魔界神(アークカイザー)様」
アークカイザーは
「肉体だけを殺した。どうせまた霊魂を天界神(リードセイガー)に拾われるだろう。
神と戦える希有な奴めよ。だが・・・死は死よのう」
と言った後、召し使いに声をかけた。
「ロッテンザーマス。ルーイの森にピラミッドを建て、今日の死者を手厚く葬り朕を讃えよ」
「かしこまりましてざます」
ロッテンザーマスと呼ばれた女性の召し使いがかしこまった。
アークカイザーは手元のメモ用紙にサラサラと、なにやら筆記してテーブルに置き、
「下界(ドカニアルド)へ行くぞ。ネオガーザム、ヴィリオン、ゾルザム、ヒシャマル」と言った。
「他の者は・・・」とヴィリオンが聞くと、魔界神(アークカイザー)はこう答えた。
「いらぬ。魔界(ヴィルパイアー)を守れ。朕が勝てば朕が、風帝が勝てばゼグマが、明日の魔界(ヴィルパイアー)を統べる」
その同内容の言葉が、テーブルのメモには書かれていた。
アークカイザーが言った。
「シャドーバハムートが十二万年の旅を終えた今、ブルーファルコンも、朕と十二万年の決着をつけるべきなのだ・・・」
それを見ていたヒシャマルには、そう言う魔界神(まかいしん)の瞳が、なにか遠くを見つめているようにも思えた。
ゾルザムは、普段のようには「さあさあさあ!」と元気になれない気分だった。
彼はジャクロスが死んだことに衝撃を受け、膝を落とし、目が見開き、涙が出て、嗚咽まで出そうになるのをギリギリで堪えていた。
それは自分自身でも全く信じられないことだった。
なぜだろう。
あれだけ嫌いだったジャクロスが死んだというのに。
彼は、魔界宮のトップには魔界神(アークカイザー)だけがいれば良いと思っていた。
神がいるというのにデスマスターなどという王権はいらないし、神たるものが、悪魔ごときに執心してほしくはなかった。
しかし、ジャクロスに執心していたのは自分自身もだったのだ。
アークカイザーは、ジャクロスのために下界(ドカニアルド)にまで行くという。
ゾルザムは、明日からの王(デスマスター)は認めてやれそうだな、と思った。
もはやジャクロスは、死んだのだから。
ジャクロスの墓前に詫びたい、と思った。心境が変わった。
そして、元気を出そうと思った。
ゾルザムは叫んだ。
「さあさあさあ、行きますか!」
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