SPECIAL HURRICANE 13 -FEARFUL☆DUNGEON-
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風帝伝説FIGHTER⇒FIGHTER FT

キットアシュガ―編

ぜろぜくしむ


#1 ジョーが父親になった日



 惨禍に見舞われた「龍の里」を焼き尽くす炎が夜空に照らされて、闇に赤く赤く、白く白く、何本も立ち昇っている。

 二ポニア帝帝国(ミカドていこく)は下界(ドカニアルド)有数の近代化の進んだ国家ではあるが、古くからあるこの集落ではまだまだ伝統的な木造建築が多く、その家屋は次々と炎に巻かれて火災旋風の火柱が聳(そび)える事態になってさえいた。

「…ほーら…キョウ…。この…人が今日から君の…お父さんになる…ジョーだぜ…。ジョーとは…子供の頃…ヤマトゾルクの壱紋寺(いちもんじ)で一緒に修行し…た…仲なんだ…。いばってる…けど…いいやつな…ん…だ…ぜ…。」

 ジョー=イチモンジの旧友「パーン=イチモンジ」は、倒れ、血に塗れた手で抱きあげた娘をジョーの手に託した。
 この、パーンの「イチモンジ」の姓は壱紋寺(いちもんじ)での修行後にパーンが自ら名乗るようになったものである。

 キョウと呼ばれた龍人の、まだ産まれて三カ月ほどの赤ちゃんの体温が、抱きあげたジョーに伝わってくる。彼女は新しい父親の顔を見て、えへぇ、と笑顔を浮かべた。

「ま…まだ諦めんなパーン…、いまオレ様のしもべが回復魔法を…」
 とジョーが言った傍から、がく…と、パーンは絶命した。

「パーン!!!!」
 パーンの隣には、少し前に命を奪われた彼の妻・クインの身体が横たわっていた。
 龍人の夫妻・パーンとクインは夫婦ともに、緑翼の大剣により一刀両断にされてしまったのだ。

 ひゅーん…と、エクスジードがやって来た。
「…間に合いませんでしたな…」
 ジョーのしもべの魔王・冥頂魔天エクスジードは、ジョーの言葉を聞いて回復魔法をしようと飛んで近づきながら両手を構えていたところだったが、その構えを解いた。

「…いくら強くなっても…ダチの命さえ…救えねえなんて…」

 ジョーはそう言ってから、ぐっ…と拳を握りしめた。
 自分の吐き出した言葉が自分の首を締め立て、「痛恨」という言葉では言い収まらないようなどうしようもない気持ちが激しく押し寄せてくる。

 それから、
「うおおおああああああッッ!」
 と、ジョーの叫びがノガナノーガの夜空に轟いた。

 下界暦九九九四年三月七日。この日、二ポニア帝帝国(ミカドていこく)・ノガナノーガにある山・リュウオウザンの集落を襲った「魔頂十三点」の一点、木頂緑翼イズヴォロの急襲により、龍人の里キットアシュガーは壊滅した。
 このリュウオウザンの里には、人間の里ヨマッセ、龍人の里キットアシュガー、龍の里シュモイカタという三つの里があったが、ジョー達の到着が一歩遅く、龍人の里だけが皆殺しにあって滅びてしまったのだった。

 この時期、魔界神アークカイザーが倒されたのをいいことに諸勢力のたがが外れたためか、各界・各地で様々な魔王達が湧き上がっていたため、下界(ドカニアルド)を防衛する勢力も手分けをして対処に当たっていた。
 「頂央」を頂点にした「魔頂」という魔王集団もそういった魔王達のなかの一勢力である。

 二ポニアに現れたイズヴォロを倒すためにやってきたのは、ジョーの他、魔界(ヴィルパイアー)でもイズヴォロに手を焼いていたために派遣された兵士(ソルジャー)マーキュルと、たまたま近くを旅していたので力を貸してくれた旅の戦士(ファイター)・レアだった。

「木頂緑翼イズヴォロは封印できましたぞ。このエクスジードにかかれば造作もないことですな。同じ魔頂でも格が違うのです」
 エクスジードがうなだれるジョーの背後で声をかけた。
「戯(ざ)れるな冥頂よ! 武士(ウォリアー)ジョーが致命傷を与えたからだろう。
 …ジョー。…雑魚どもの木頂の配下の魔頂兵達は我々の手で全員…片付いたぞ…! 遅かったが…。
 むごいな…。…つい最近まで下界(ドカニアルド)の生を消しまくっていた自分が、この光景を見て何を言っても何を思ってもこのような戯れたことを宣える資格すらあやしいものだが…。むごいものだ…!」

 兵士(ソルジャー)マーキュルはそう言い、焼け野原になった龍人の里キットアシュガーに上がる煙たちを見て目を細めた。
 龍の里シュモイカタへ行く道に行かせまいと、龍人の里キットアシュガーの龍人たちは入口に集まって立ち塞がったところを、魔頂兵や魔物たちに襲われたのだ。
 激闘の果て、数多くの龍人と魔頂兵と魔物の屍が折り重なっている。

「オレ様は…長く寺にいたことがあんだ。僧でもなんでもねえオレ様だが…、充分に守れなかったことは悔やみきれねえ…。あとで彼らを弔って経を読もう。
 それにしてもマーキュル…。てめーが来てくれるとはな」

 ジョーは、キョウの顔についたパーンの血を拭き取りながらマーキュルに言葉を返した。  ちなみに「寺」とは、ヤマトゾルク各地に建てられた、霊魂神ロータスニルヴァーナを祀るゼプティム神殿である。

「ジョー。貴様はゼグマ様の兄上なのだからな…! 魔頂などに殺されてはゼグマ様が悲しむ! それに…いまは魔界(ヴィルパイアー)の兵だがこれでも下界人なのだ…。かつてはこの世界を恨んだりもしたが、今では魔界(ヴィルパイアー)と共に守るべき大地となった。それが魔界軍の方針だからと言えば身も蓋もないが…。任務として来たのにこの赤ん坊の親を守れなかったことを…痛恨に思っている…!」

「…あんがとよ…」

 と、そこに、
「ジョーさぁあああん!!」
 と言いながら、たたたた、と、レアが駆けてきた。惨事の光景を見て涙目になっているが、すべきことを優先すべく必死で駆け回っている。

「腕やら肩やら打ったり切ったりしてんな、血がにじんでるぞ、ヒザも負傷してるじゃねえか。大丈夫かレア」

「こんなのへっちゃらです。それよりジョーさん。あたしやマーキュルさんたちで敵は細かいのまでみんなやっつけました。火もやっと消せました。ざっと見てきましたがもう他の魔頂兵も魔物も残ってません。…龍人の里キットアシュガーは守れなかったけど…龍の里シュモイカタと人間の里ヨマッセは守れました。でも…こんなことになってあたし悔しくって……あっ…」

 レアも赤ちゃんと目が合った。
「あー、あう、あー」

 赤ちゃんがなにかおしゃべりをしている。
 そして、彼女はポン、と音を立てて龍人から人間の姿に変身した。

「なんだキョウ…あうあうあーか…。もう変身できるのか、上手いなお前」
 ジョーはそう言って赤ちゃんに返答をした。
 龍人は、龍を頭に半分かぶったような姿が基本的な姿だが、龍や人の姿にも変身出来るのだ。

「…生き残った龍人の赤ちゃんがいるんですね! このあたり壊滅しちゃったから…赤ちゃん用のミルクとか、おむつとか、赤ちゃんのお世話をする物が何かないか、この上にある龍の里シュモイカタか、下の人間の里ヨマッセまで行ってあたし相談してきます」

 そうレアが言うと、ジョーはキョウを抱いたまま立ち上がった。
「…ありがとな、レア。だけどそれはオレ様が聞いてくるわ。この子の親になったんだからな…」
「そう…ジョーさんもついにお父さんになるんですね。こんな形でなるなんて…ですけど」
 ちなみにケンヤとセシルの間に生まれた双子はいま一歳である。

 みると、赤ん坊はレアの胸のほうに向けて、必死に手を伸ばしている。
「赤ちゃんごめんねー、いくら手を伸ばしてもあたしじゃおっぱい出ないから…」

 赤ちゃんはジョーの手から落ちそうなくらいの勢いで必死でレアの胸に手を伸ばそうとして、それからポン、とまた音を立てて今度は龍の姿に変身した。

 龍になったキョウは、にょろにょろとジョーの手から抜け出してレアのほうに行こうとしている。彼女の胸元に入ろうとしているのだろうか。だが、ジョーはしっかりとそんなキョウを抱いて離さなかった。

 マーキュルはそれを見て、
「よほど空腹なのだ…! 赤ん坊のミルクの調達は手分けをして探したほうがよさそうだな…! 人間のミルクと龍人のミルクと龍のミルクは違うのかどうかわからんが…。確か山道の下のヨマッセとかいう里のほうに薬局があった。閉まっているだろうか。だが置いているかもしれんし、情報も聞けるだろう…!」
 と言い、そのままマーキュルはジョーの返答も聞かないまま駆け出して行った。

「出ないけど、そんなにあたしのおっぱいをくわえたいなら、先っちょをくわえるだけくわえさせてあげてもいいんだけど…」
「出ないんじゃ泣かせっちまうだけだろーが」
「ちょ、ちょっとは安心するんじゃないでしょうか?」
「それよりこの子の腹を満たしてやんねーとだろ。上の、龍の集落のほうにちょっと走ってくる。
 レア、それよりてめーも自分の回復をするんだな」

 ジョーが髪の中からHP回復ポーションを出してレアのほうに放り投げると、レアはそれをキャッチして、少し残念そうな表情をした。

 このままじゃレアが胸元を開きかねない。なんとなく気恥ずかしくなってジョーはキョウを抱いたまま、山道の上に駆けて行った。

 キョウは、きょとんとして駆けるジョーの目を見ている。

「オレ様との長い旅の始まりだな、キョウ」

 父になったばかりの男は、愛娘になったばかりの龍の女の子を見つめ返して、瞳で少し笑った。

 龍人の夫婦から託された、この小さな命を守り抜く。
 ジョーはそう自分自身に誓ったのだった。

 惨禍に見舞われた「龍の里」を焼き尽くす炎が夜空に照らされて、闇に赤く赤く、白く白く、何本も立ち昇っている。

 二ポニア帝帝国(ミカドていこく)は下界(ドカニアルド)有数の近代化の進んだ国家ではあるが、古くからあるこの集落ではまだまだ伝統的な木造建築が多く、その家屋は次々と炎に巻かれて火災旋風の火柱が聳(そび)える事態になってさえいた。

「…ほーら…キョウ…。この…人が今日から君の…お父さんになる…ジョーだぜ…。ジョーとは…子供の頃…ヤマトゾルクの壱紋寺(いちもんじ)で一緒に修行し…た…仲なんだ…。いばってる…けど…いいやつな…ん…だ…ぜ…。」

 ジョー=イチモンジの旧友「パーン=イチモンジ」は、倒れ、血に塗れた手で抱きあげた娘をジョーの手に託した。
 この、パーンの「イチモンジ」の姓は壱紋寺(いちもんじ)での修行後にパーンが自ら名乗るようになったものである。

 キョウと呼ばれた龍人の、まだ産まれて三カ月ほどの赤ちゃんの体温が、抱きあげたジョーに伝わってくる。彼女は新しい父親の顔を見て、えへぇ、と笑顔を浮かべた。

「ま…まだ諦めんなパーン…、いまオレ様のしもべが回復魔法を…」
 とジョーが言った傍から、がく…と、パーンは絶命した。

「パーン!!!!」
 パーンの隣には、少し前に命を奪われた彼の妻・クインの身体が横たわっていた。
 龍人の夫妻・パーンとクインは夫婦ともに、緑翼の大剣により一刀両断にされてしまったのだ。

 ひゅーん…と、エクスジードがやって来た。
「…間に合いませんでしたな…」
 ジョーのしもべの魔王・冥頂魔天エクスジードは、ジョーの言葉を聞いて回復魔法をしようと飛んで近づきながら両手を構えていたところだったが、その構えを解いた。

「…いくら強くなっても…ダチの命さえ…救えねえなんて…」

 ジョーはそう言ってから、ぐっ…と拳を握りしめた。
 自分の吐き出した言葉が自分の首を締め立て、「痛恨」という言葉では言い収まらないようなどうしようもない気持ちが激しく押し寄せてくる。

 それから、
「うおおおああああああッッ!」
 と、ジョーの叫びがノガナノーガの夜空に轟いた。

 下界暦九九九四年三月七日。この日、二ポニア帝帝国(ミカドていこく)・ノガナノーガにある山・リュウオウザンの集落を襲った「魔頂十三点」の一点、木頂緑翼イズヴォロの急襲により、龍人の里キットアシュガーは壊滅した。
 このリュウオウザンの里には、人間の里ヨマッセ、龍人の里キットアシュガー、龍の里シュモイカタという三つの里があったが、ジョー達の到着が一歩遅く、龍人の里だけが皆殺しにあって滅びてしまったのだった。

 この時期、魔界神アークカイザーが倒されたのをいいことに諸勢力のたがが外れたためか、各界・各地で様々な魔王達が湧き上がっていたため、下界(ドカニアルド)を防衛する勢力も手分けをして対処に当たっていた。
 「頂央」を頂点にした「魔頂」という魔王集団もそういった魔王達のなかの一勢力である。

 二ポニアに現れたイズヴォロを倒すためにやってきたのは、ジョーの他、魔界(ヴィルパイアー)でもイズヴォロに手を焼いていたために派遣された兵士(ソルジャー)マーキュルと、たまたま近くを旅していたので力を貸してくれた旅の戦士(ファイター)・レアだった。

「木頂緑翼イズヴォロは封印できましたぞ。このエクスジードにかかれば造作もないことですな。同じ魔頂でも格が違うのです」
 エクスジードがうなだれるジョーの背後で声をかけた。

「戯(ざ)れるな冥頂よ! 武士(ウォリアー)ジョーが致命傷を与えたからだろう。
 …ジョー。…雑魚どもの木頂の配下の魔頂兵達は我々の手で全員…片付いたぞ…! 遅かったが…。
 むごいな…。…つい最近まで下界(ドカニアルド)の生を消しまくっていた自分が、この光景を見て何を言っても何を思ってもこのような戯れたことを宣える資格すらあやしいものだが…。むごいものだ…!」

 兵士(ソルジャー)マーキュルはそう言い、焼け野原になった龍人の里キットアシュガーに上がる煙たちを見て目を細めた。
 龍の里シュモイカタへ行く道に行かせまいと、龍人の里キットアシュガーの龍人たちは入口に集まって立ち塞がったところを、魔頂兵や魔物たちに襲われたのだ。
 激闘の果て、数多くの龍人と魔頂兵と魔物の屍が折り重なっている。

「オレ様は…長く寺にいたことがあんだ。僧でもなんでもねえオレ様だが…、充分に守れなかったことは悔やみきれねえ…。あとで彼らを弔って経を読もう。
 それにしてもマーキュル…。てめーが来てくれるとはな」

 ジョーは、キョウの顔についたパーンの血を拭き取りながらマーキュルに言葉を返した。
 ちなみに「寺」とは、ヤマトゾルク各地に建てられた、霊魂神ロータスニルヴァーナを祀るゼプティム神殿である。

「ジョー。貴様はゼグマ様の兄上なのだからな…! 魔頂などに殺されてはゼグマ様が悲しむ! それに…いまは魔界(ヴィルパイアー)の兵だがこれでも下界人なのだ…。かつてはこの世界を恨んだりもしたが、今では魔界(ヴィルパイアー)と共に守るべき大地となった。それが魔界軍の方針だからと言えば身も蓋もないが…。任務として来たのにこの赤ん坊の親を守れなかったことを…痛恨に思っている…!」

「…あんがとよ…」

 と、そこに、
「ジョーさぁあああん!!」
 と言いながら、たたたた、と、レアが駆けてきた。惨事の光景を見て涙目になっているが、すべきことを優先すべく必死で駆け回っている。

「腕やら肩やら打ったり切ったりしてんな、血がにじんでるぞ、ヒザも負傷してるじゃねえか。大丈夫かレア」

「こんなのへっちゃらです。それよりジョーさん。あたしやマーキュルさんたちで敵は細かいのまでみんなやっつけました。火もやっと消せました。ざっと見てきましたがもう他の魔頂兵も魔物も残ってません。…龍人の里キットアシュガーは守れなかったけど…龍の里シュモイカタと人間の里ヨマッセは守れました。でも…こんなことになってあたし悔しくって……あっ…」

 レアも赤ちゃんと目が合った。
「あー、あう、あー」

 赤ちゃんがなにかおしゃべりをしている。
 そして、彼女はポン、と音を立てて龍人から人間の姿に変身した。

「なんだキョウ…あうあうあーか…。もう変身できるのか、上手いなお前」
 ジョーはそう言って赤ちゃんに返答をした。
 龍人は、龍を頭に半分かぶったような姿が基本的な姿だが、龍や人の姿にも変身出来るのだ。

「…生き残った龍人の赤ちゃんがいるんですね! このあたり壊滅しちゃったから…赤ちゃん用のミルクとか、おむつとか、赤ちゃんのお世話をする物が何かないか、この上にある龍の里シュモイカタか、下の人間の里ヨマッセまで行ってあたし相談してきます」

 そうレアが言うと、ジョーはキョウを抱いたまま立ち上がった。
「…ありがとな、レア。だけどそれはオレ様が聞いてくるわ。この子の親になったんだからな…」
「そう…ジョーさんもついにお父さんになるんですね。こんな形でなるなんて…ですけど」
 ちなみにケンヤとセシルの間に生まれた双子はいま一歳である。

 みると、赤ん坊はレアの胸のほうに向けて、必死に手を伸ばしている。
「赤ちゃんごめんねー、いくら手を伸ばしてもあたしじゃおっぱい出ないから…」

 赤ちゃんはジョーの手から落ちそうなくらいの勢いで必死でレアの胸に手を伸ばそうとして、それからポン、とまた音を立てて今度は龍の姿に変身した。

 龍になったキョウは、にょろにょろとジョーの手から抜け出してレアのほうに行こうとしている。彼女の胸元に入ろうとしているのだろうか。だが、ジョーはしっかりとそんなキョウを抱いて離さなかった。

 マーキュルはそれを見て、
「よほど空腹なのだ…! 赤ん坊のミルクの調達は手分けをして探したほうがよさそうだな…! 人間のミルクと龍人のミルクと龍のミルクは違うのかどうかわからんが…。確か山道の下のヨマッセとかいう里のほうに薬局があった。閉まっているだろうか。だが置いているかもしれんし、情報も聞けるだろう…!」
 と言い、そのままマーキュルはジョーの返答も聞かないまま駆け出して行った。

「出ないけど、そんなにあたしのおっぱいをくわえたいなら、先っちょをくわえるだけくわえさせてあげてもいいんだけど…」
「出ないんじゃ泣かせっちまうだけだろーが」
「ちょ、ちょっとは安心するんじゃないでしょうか?」
「それよりこの子の腹を満たしてやんねーとだろ。上の、龍の集落のほうにちょっと走ってくる。
 レア、それよりてめーも自分の回復をするんだな」

 ジョーが髪の中からHP回復ポーションを出してレアのほうに放り投げると、レアはそれをキャッチして、少し残念そうな表情をした。

 このままじゃレアが胸元を開きかねない。なんとなく気恥ずかしくなってジョーはキョウを抱いたまま、山道の上に駆けて行った。

 キョウは、きょとんとして駆けるジョーの目を見ている。

「オレ様との長い旅の始まりだな、キョウ」

 父になったばかりの男は、愛娘になったばかりの龍の女の子を見つめ返して、瞳で少し笑った。

 龍人の夫婦から託された、この小さな命を守り抜く。
 ジョーはそう自分自身に誓ったのだった。


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