CHAPTER 15 -RAINNING IX-
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「ジャクロス・・・! ありがとうなんて・・・言うな・・・!」
 ずぶ濡れのケンヤはその言葉が聞こえた。なのでそう言ったあと、

「あ・・・いや・・・やっぱその言葉、受け取っとく・・・」
 と言った。

 ケンヤは安らかな死に顔のジャクロスの、雨に濡れた頬の一部を鉢巻ですこし拭ってから、その頬に絆創膏を貼った。

「こいつはその、受け取りのサインだ・・・。
・・・了嵐(コンプレッション)!」

 ケンヤは先の十二万年の旅に出る前に、「戦う者のすべてを受け止める」と言ったのだ。ケンヤはそれを思い出したのだった。

 そして、堪え切れなくなった。

 ケンヤに、涙と能力が込み上げてきた。

 絆創膏を剥がしたあとの裏紙のゴミを、くしゃっと握りつぶした。

 なにか、大きな声でよくわからないことを叫んでいた。

 ブルーファルコン本体を離脱させたケンヤは、ブルーファルコン本体・・・すなわちカミイがそれまで自分のなかに存在していた場所に、彼女の残した風の魂の源の残滓(ざんし)が激しく膨張しているのに気がついた。

 まだ・・・風帝(かぜ)の能力(ちから)を・・・使える・・・!

 ケンヤは高い空から地上の恋を見下ろし、恋に瞳で言葉を投げた。

「ごめんセシル」

「えっ」

 セシルは空を見た。

 ケンヤの肉体を破壊して、放射線状に飆(つむじかぜ)が飛び出していた。

 それは毛糸玉をこしらえるときの毛糸のように、ケンヤの周りを旋回して大きな球になっていった。

 そして、ひゅんひゅんと世界中を風が包んだ。

 ドカニアルドを奇跡の風が包んだ。

 雨が上がったばかりのドン・グリーランの街中に付着している水滴が、風を受けて少し舞い上がり、陽光を受けてキラキラと輝く。

「風の涙・・・」

 セシルは、蚊の鳴くような声でそうつぶやき、思った。

 (泣いてるんだね。ブルーファルコンも)

 そして、風が吹いた。

 左手の甲が光り、オリオンの片方が戻ってきた。

 鎧も、元の姿に戻ってしまった。
 もう波帝ではなくなったのだ。

 そして、セシルは、気付いた。











 セシルの中のケンヤの鼓動は、止まった。













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