再び恋を失ったジャクロスは、魂をうつぶせにして、泣いた。
「ぐっ・・・ぐっぐっぐっ・・・」
ゼグマの魂が、その傍らにいた。
“ジャクロス・・・お前も泣くな・・・。つられるではないか・・・”
ゼグマも、少し、泣いていた。
オリオンの光ばかりが強くてよくわからないが、ジャクロスの魂はもう、このゼグマの器には居ないのかもしれない。そう思ったが、それでもジャクロスは、引き留めたかった。
「行くのか? 行くな黒龍丸(コクリュウマル)、我はまだ・・・」
そこまで言ったジャクロスが言葉を途中で止めたのは、ゼグマの魂がジャクロスの魂を抱きしめたからだった。
抱きしめられて、三秒ほど固まったあと、ゼグマは少しずつ、霊体をジャクロスからほどいた。
「行くな・・・黒龍丸・・・!」
ジャクロスがそう言ったとき、ゼグマも、消えた。
オリオンの光も消えた。
と思った数秒後、ずん、と、重力感が鉄槌(てっつい)のように押し寄せ、 ジャクロスは数秒、意識が飛んだ。
ピチャ・・・
ポタ・・・
ポタ・・・
アーガスは、頭に水滴を感じた。
「雨・・・」
それでアルシャーナが掌(てのひら)をかざすと、雨粒が少しずつ、掌に当たり始めているのを確認することができた。
「きた・・・」
ケンヤとセシルは、オリオンの斬撃に包まれるジャクロスを見ていた。
ぽつ・・・
ぽつ・・・
ぽつ、ぽつ、ぽつ・・・
セシルが、言った。
「ゼスタインの・・・」
ザアアアアアアアアアアアアアア・・・・
「・・・雨・・・」
言葉の途中から、驟雨(しゅうう)となった。
雨の中、先ほどジャクロスの斬られた場所には、ゼグマが倒れていた。
そしてその傍らにもうひとり、立ち尽くしていた。
しなやかな尾と翼を持ったその身体は、左半身が漆黒に覆われていた。
「あれは・・・」
とクラークが呟くと、
「シャドーバハムート・・・」
と、ガンマが言った。
ヴァルが、感嘆の声を漏らした。
「あれが・・・ジャクロスの本当の姿・・・」
ジョーは番傘の下でそれを見て、目を細めた。
弟の本当の姿を、美しいと感じていた。
「陛下! ゼグマ陛下――!!」
マーキュルが倒れたゼグマに駆け寄った。
「陛下!陛下!」
ゼグマの肉体もオリオンの光で回復していた。ゼグマは目を開けた。そこには・・・
ザアアアアアアアアアアアアアア・・・・
悪魔シャドーバハムートが濡れながら、ひとり立ち尽くしていた。
「何だ?・・・この身体は・・・?」
ジャクロスはそう質問したが、この身体が何なのかはもう知っていた。
風帝のブルーファルコンの風をまとった剣霊オリオンの能力により、精製された蛋白質性ジークニウムから変換され、新たに生み出された、肉体である。
だが、改めて風帝に確認をするため、そう問いかけた。
風帝は自分の全てを知っている。
だからジャクロスは、自問自答として、聞いたのだった。
果たして風帝は、望んでいたことを答えてくれた。
「風(ブルーファルコン)と・・・
オリオンと・・・
オレと・・・
お前自身が望んだ肉体だ。
十二万年の精算だ。『正真正銘のシャドーバハムート』よ」
ケンヤは、ひとりジャクロスのたたずむ方向へと歩き、向かい合った。
「いま・・・つけよう。真の戦い。真の決着。
一対一。掛け値なしで勝負だ」
ザアアアアアアアアアアアアアア・・・
滝のような雨。
ゼスタインの雨の中、風帝とその宿敵が、対峙(たいじ)した。
おお・・・この雨は・・・
時(れきし)の涙(あやまち)を削ぐ禊ぎなり・・・!!
そう祈り、削(そ)がれ、禊(みそ)がれながら、
ジャクロスは雨雲を仰いだ。
そして目を閉じ、言葉を紡(つむ)いだ。
「我と・・・最後を戦うにふさわしき・・・、最高最強なる風帝伝説の戦士。その名もケンヤ=リュウオウザン・・・
相手にとって不足なし!」
オリオンの聖なる光で浄化され、純粋で力強く、生命力で満ちた闇(やみ)が漲(みなぎ)る。ゼスタインの驟雨(しゅうう)が肉体を滴(したた)る。
ジャクロスが本懐(ほんかい)を叫び、名乗る時が、今こそ来た!
「我は闇!
魔界神(アークカイザー)神託の闇、ここに有る!!!
我が名は、ジャクロス!! いざ尋常に参る!!!」
ジャクロスはもう「正真正銘のシャドーバハムート」という存在になったのだが、自らを「ジャクロス」と名乗った。
シャドーバハムートとなり、ジャクロスとして闘う、闘えるのだ。
ケンヤも受陣し、名乗った。
「神託の陣・開陣を告ぐ!
風の声を聴け。
風帝! 神風聖戦士(カミカゼエクスファイター)、ケンヤ!!」
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