風帝伝説FIGHTER・OUT CHAPTER
FOREVER YOUNG
ぜろぜくしむ
#1.序章
少年は、眼(まなこ)を背けない。
…ひゅりん…。…ひゅりん…。
長い陣(たたかい)の終幕を告げる、戦士の剣(フージリオン)に灯る精霊(ひかり)の音が、宿敵の耳に響きわたる。少年は、宿敵の名を呼んだ。
「闇王丸…!」
りん。声を胸に。
闇王丸は「来たれ!」と返す。
精霊は、ゆっくりと刀身を旋回して、薄いブルーの螺旋を、
…ひゅりん…。…ひゅりん…。と、描いた。
ぱっと一瞬、旋回は消えた。急激なる刀身への集束、そして爆発!
ごっ!
戦士の剣(フージリオン)を従えて、少年は風になる。
風が、駆けて来る…来る来る来る来る、駆けて来るッッ!!!!!!
カッ! カゼカゼ! カッ! カゼ!カゼ!
カッ! カゼカゼ! カッ! カゼ!カゼ!
風の名、風帝フウランザー。 その名もフウラ、叫ぶッ!
「闇王丸…! お前は…風帝(オレ)が倒してやるよ…!
必ず風帝(オレ)が倒してやるッ!
必ず風帝(オレ)が倒してやるッッ!!!!!!」
おお!? まっすぐなのだ!! まっすぐ我を見て、風は風は風は風は風は!!!来る!
どおわおあああああっッっ!!!
叫びが叫びが! 涙が涙が! 風帝フウラが、いま、闇王丸に斬りかかる!
カゼ!
その言葉は…届いた。
「聞こえん!!!!!!!!!」
闇王丸は返す、届いた証の雄叫び! 勇気が刺さるのだ。御節介が!!!!!
ゴブ!
その瞬間、闇王丸は自らの肉体に、勇気が本当に刺さる音を聞いた。
まっすぐまっすぐ、フウラの瞳が、闇王丸の瞳に映る。風涙(かぜのなみだ)。ぽたと闇王丸の頬に落ちる。温い。
「風帝(オレ)は…おまえを…。」
そこまで言って、言葉に詰まる。
涙涙涙涙涙涙、と、闇王丸に向かうものは、闇王丸にとっては…無であった。闇であった。
…闇だ! 涙! そんな闇王丸の瞳が、フウラの瞳に映ってしまう。闇涙(やみのなみだ)。フウラの風で乾き。痛い。
「…倒すだけじゃ…だめなのだ…。」
「!!」
戦士の剣(フージリオン)に貫かれた闇王丸…闇、示す。
ずさ…。
肉体が死に向かう感覚を伴ってくる。フウラが傍らに寄った。
一瞬離れた風と闇の瞳が、再び交わる。
「倒すだけじゃ…ダメなのかよ…? 闇王丸…。」
フウラはそう言って、自分の言葉に、ぶぁ、と泣けてきた。どっと荒げられる声ッ!
「何度でもッ…何万年でもッ…隼(かぜ)を待つというのかっっっ!!!」
そう言い放ったあと、その次の言葉が浮かぶ。
その瞬間、自分の中に伝わる仲間の鼓動が、一瞬「意義あり」とでもいうのか?遮った。
それでフウラは、その鼓動をやさしく、自らの鼓動で包んだ。
遮断機が上がった。一時の遮断となった。
改めて決意した。蒼い風の総意として…。仲間達の鼓動が同調する。
す。…はー…。深呼吸。そしてフウラは、言葉という名の風を吹かせた。
闇王丸は、遠のく意識の中、風帝の決意の、言葉という名の風を、風よ風よと、吹かれた。…言葉よと…!
「待ってな…。闇王丸。
お前も…、魔界神も…、必ずブルーファルコンが救う…!!!
蒼い風が導く…。
誓うよ…。」
反芻。
「待ってな…。闇王丸。
お前も…、魔界神も…、必ずブルーファルコンが救う…!!!
蒼い風が導く…。
誓うよ…。」
この日、風帝フウランザー=リューガインは、闇王丸を打倒した。
百年が流れた。
#2.序章2
「いよいよだな、ゾルア!」
「ふっふっふ。そうだな。マーキュル。」
「信じられるか? 今回の魔界軍下界侵攻の顔ぶれ…!」
「くっくっく。到底信じられんわ…。」
「…自分も、戯れているのかと思った…!」
「フ。三人だけとはな…。」
「ゼグマ様と自分とお前…か。」
「出来よう?」
「当然だ。」
「給料アップだしな…。」
魔界宮に立つ立志。
九九九一年十月。 皇闘士(クラウンバトラー)軍、結成。
#3.FOREVER YOUNG
「友よ…。」
ヴィリオンが呼んだ。
「朝なのー。」
ヴィリオンの頭上で、コテツが続いた。
ジャクロスは、無言で閉じた目を開いた。その瞳に向かって、まるで滝のように、ヴィリオンの「時」が流れこんでゆく。
「邪雷王シーザーハルトは、蒼い風に倒された。
千龍魔王ワイゾーンが倒されたのをはじめ、邪雷王十魔王団も蒼い風の前に、全滅寸前の状態にある。
もう、魔界宮が邪雷王(シーザーハルト)に敬意を示す時は、終わったのだ…。
空かける隼(はやぶさ)。 …見えよう? ジャクロス。」
そうだ、と、ジャクロスは思う。
ヴィリオンは、叫んだ。
「時だ!」
ザン!!! 目覚め、立つ。
「時」には、時に、立ちあがるべき「時」がある。
そして! 皇闘士(クラウンバトラー)ゼグマこと、闇王丸ジャクロスは、立ち上がったのだ。
フウラに倒されて百年。この時ジャクロスは、精神が確信を縛り付けるものを駆逐した。
ヴィリオンの言葉を聞いて、フウラの言葉を思い出した。
『待ってな…。闇王丸。
お前も…、魔界神(アークカイザー)も…、必ずブルーファルコンが救う…!!!
蒼い風が導く…。
誓うよ…。』
ヴィリオンは、立ち上がったジャクロスの姿を、じっと見つめて、言った。
「風帝は、お前を救うと言ったな。
鳥飼(ふうて)いに告げて来い。放たれるべきは…」
ジャクロスが続きの口上を挟む。
「『放たれるべきは鳥(カミイ)だ』と…!!」
「友よ…。」
ジャクロスが、「シャドーバハムート」として魔界神より生を受けて、十二万年。
ヴィリオンは、そのずっと前から、すでにいた。
ヴィリオンはずっと、ジャクロスの闘いを見てきていた。
彼の闘いは、想いだった。
ただ一点、ただの一点に向かっている、純粋な想いだった。
生き続けること自体は、闘いではない。
生き続けるなかで、ずっとずっと諦めずに、思いを貫き、追い続けることが、闘いなのだ。
闘いつづけるということは、傷つき続けるということに、等しい。
ジャクロスは闘い続けてきた男だ。
ヴィリオンは、そんなジャクロスの命に、もっと触れていたいと思う。
しかし、
重み、である。
友として、ヴィリオンがジャクロスに出来ることは、なかった…。
「ただ一点」がジャクロスの魂に触れる、その一瞬間だけにしか、ジャクロスの心を抱きしめるチャンスはないのだ…。
「世話になった。」
ジャクロスの瞳が、ヴィリオンを突いた。
くるり。
ゼグマの姿のジャクロスは、永遠に向かう扉へと歩き始める…。
長年、桶にたまり続けた水が、桶の上に膨らみ、そして、こぼれだした。
ざああ。
…言葉が…あふれだす…。
ジャクロスは、迷っているのだ。不安なのだ。当然だ。積年が弾ける時を、ジャクロスは迎えようとしているのだ!!!!
「ヴィリオン様…。」
コテツが、ヴィリオンを察して呼ぶ。わかっているとも…。
言葉だ。
〜…彼に、言葉を…〜
ヴィリオンの心に、神の福音が聞こえた。ああ。神よ。まだ私を…。
言った。
「ジャクロス。」
言う。
「素敵だよ、ジャクロス。
戦場に向かう者の目だ。お前のすべきことは、お前であること。ずっと、そうだったな。そして、隼(カミイ)に届けろよ…、お前の夢。
多くを刻んだものな。
だけど、あえて言おう。お前は十七歳。生まれたばかりだ。
ジャクロス。
お前の命は、常に「これから」。これからも「これから」だ。「隼(はやぶさ)を狩る一瞬」。…それが、お前の全てなのだから…。
震えているな。恐れているな。怖がることなど、何もない。
行けよ。
お前が、今、はじまる…!
見えるだろう?
隼(かぜ)が…。」
ジャクロスの脳裏に、見知らぬ少年の姿が浮かんだ。胸に、青いブルーファルコンの紋章。まっすぐな瞳。
「…見えるとも…!」
闘 い が 、 結 実 す る … !
九九九一年十月九日。これより第四次魔界軍は、下界へ侵攻。ゼスタイン城を奪還する。
ジャクロスの見知らぬ少年は、名を、ケンヤ=リュウオウザンという。
《了》
|