CHAPTER 13 -RAINNING VII-
BACK 2 NEXT


第十三話 ゼスタインの雨F
―RAINNING VII―

 ジョーの声が響いた。

「光刃武士(コウジンウォリアー)ジョーに太刀で勝負を挑むっつーことがよ…、どういうことかわかってんのか? すっとこゼグマ」

 ジョーはついに閃光丸(せんこうまる)と白光丸(びゃっこうまる)の二刀を抜き、その合刃「一閃百光丸(いっせんひゃっこうまる)」を仕上げてみせたのだ。

 ゼグマは魔空皇龍刃(まくうこうりゅうじん)を構えて

「すっとこゼグマ? 誰だそれは!
 この帝国(レオジーク)の王たる闇龍骨皇闘士(アークバーンクラウンバトラー)ゼグマの磨いた剣…、今までの馬の骨とは違うぞ」

 と、対抗した。

 剣を構え、向かい、睨み合う兄弟。

「てめーが磨きハゲても光ってんのはこっちだ。バーカ。
 いいかゼグ公。真の武士(ウォリアー)ってなぁな、刀を構えて向かい合った瞬間に勝敗が分かるんだ。わかるか?」

 そうジョーに聞かれたゼグマは当然こう答えた。

「わかるわけにはいかんな…」

 と。

 それを聞いたジョーは
「わからずやめ…。教えてやらあ…」
 と言い、そこで意外な行動に出た。

 プチッ
 自らの髪の毛を一本抜いたのである。

「出でよ大魔王エクスジード!!!」
 というジョーの呼び声と共に、
 ブアッ
 と、大魔王・冥頂魔天(めいちょうまてん)エクスジードが登場した。

「ほほう!!! ついに最終決戦にこの冥頂魔天エクスジードの大魔王の力を示すときが来たようですな!!」
 エクスジードは嬉しそうである。

 ジョーは一閃百光丸を構え、ゼグマの目を睨んだままの体勢で、言った。

「おー。エクスジード。下の街の噴水広場のガレキを片付けて、大祝勝会の準備してこい。食いもんもありったけ用意しろ。ヤキソバ屋台もだ」

「ほほほう!!! 大祝勝会!!! …って 
 …えぇーっ… 戦いたいですぞ…」
 どーん。大魔王のテンションが一気に落ちた。

「早くしねーとパノラマ大回文地獄めぐり!!」
 と、ジョーの容赦ない言葉。

 ぶつぶつ…。 
 バシュン!
 冥頂魔天エクスジードの愚痴る声と、街下に消える音がした。

「…わかったか? そういうことだ」
 と、ジョーが言った。

「よし。大祝勝会は我々が頂く!」
 と返したあとゼグマは、そのあと「ヤキソバもだ」と小さな声で言った。

「…にゃろう…」と、ジョー。

 容赦なく勝つ。それが刀を持ったときの兄なのだ。ゼグマはそんな兄を見て、すっと息を吸い、一気にこう、吐き立てた。

「勝てるかザン!! このゼグマに!! このジャクロスに!!
 先代王(きみ)は王(わたし)の『王の場』を見事崩落させたのだ!!
 今度は『武士(きみ)の場』を見せてみろ!! 
 勝ってみろザン! 貴方(きみ)にはもはやその権利がある!!
 勝った相手のほっぺにマッキーで『萌え』と書き、鼻にカールをぶっこむ権利がある!!」

 そう叫んだあとゼグマは
「ただし… お互いに…だ」
 と、穏やかに笑みなおした。

 ジョーとゼグマの脳裏に、幼い頃の別れの場面がちらっと蘇った。


 ― 私もいつか   ―  
 ― 貴方(きみ)の後を追う ―


 ジョーが魔界(ヴィルパイアー)を出た日、ゼグマはそう言って兄を送ったのだ。

 そんなことを思い出しながらゼグマはぎゅっと剣の柄を握り、言った。

「思えば私はかつて、私なりに貴方(きみ)を追おうとしてきたのだ…。
 貴方(きみ)の王位を継いだ。
 貴方(きみ)のように魔界(ヴィルパイアー)の掟を破ろうとした。
 苦手な剣も覚えたし、たまには甘党の配下が冷蔵庫に入れていたプリンも食すようにもなった」

 甘党の配下ってヴァルのことだな・・・とジョーは思った。
 ゼグマは言葉を続けた。

「今もそうだ…。
 貴方(きみ)に私は感化されている。
 貴方(きみ)が私にしようとすることがあるなら、私も追おう!!」

 ぽん。

 と、ジョーは、レビテルの箱と呼ばれるテレビモニターの上に、マッキーとカールを置き、
「上等だ」
 とすこし憮然とした声で言った。だがその表情は少し嬉しそうでもあった。

「ゼグ公、てめーの気持ちなんざ、あーだこーだ言われなくてもわかってら。こちとら、生まれた時から手前(てめー)の兄貴をやってんだ」

「言わせろよザン。この後、どちらかが斬られるのだからな」

「だったらオレ様もよ…。三つ… 言っとくかな…。

 @王位の件、迷惑かけて悪かった。ありがとな。
 Aあばよ。
 B…プリン…」

 ・・・とまで言ったあと、 

「いや、何でもねえ」

 と、ジョーはBを言うのを止めた。

 ゼグマは少し口元に笑みを浮かべてこう言った。

「キッチンの冷蔵庫だ」

 数秒、ジョーは止まった。
「そうか」と思う時間が必要だったのだ。

 それからジョーは弟との今のやりとりに対し、周囲から雷帝や炎帝たち、邪士帝たちのまなざしを感じたが、構わねえ、と思った。

「…よし…。心残りはねぇ…
 終撃だ…!!!」
 ジョーは精神を研ぎ澄ませた。
 そして。構えた。

 まずぎゅっと刀身を握る触覚。
 次に柄から刀身にかけジョーの身体と同一化していくような感覚。
 魂の光覚。
 冴え渡る七覚。
 時間が何十倍にもゆっくり・・・止まって見えるような幻覚。
 さらに背中の翼の芯がきゅうぅぅぅんと収束していくような錯覚。

 これは、よく「覚え」のある感じだ。
 ジョーが、負けねえ、と思う、いつもの、「覚え」だ。

 ぎらん。
 光刃の瞳が刃のように光り、

 ドン!!!!!!

 とジョーの構えが、空気を切り裂く音を立てた。

 そしてジョー=イチモンジは「始斬」の宣言を、こう告げた。

「全身全霊一撃必殺の剣で来やがれ…。
 こいつに勝ったほうが、ひやプリン。負けたほうが鼻カールだ」

 と。

「………よし………」

 そう答えたときにはもう、ゼグマにも結果が予測できていた。ゼグマは戦局の読めない男ではない。

 だが、それに対してどうすればいいのかも、知っていた。それは、予測などどうでもいいのだ、ということである。

 ただまっすぐ全力でぶつかればよいのだ。
 状況を打破されれば受け入れるのみ、それでよいのである。

 ゼグマは(いくぞジャクロス)と心で声を掛け、ジャクロスによって備わったパワーを全開まで高めた。

「おっおっおっ おおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 ゼグマは吼えた。
 魔空皇龍刃が猛烈な密度の「闇」を放っては蓄え、放っては蓄え、放っては蓄えている。

 宝玉の内部より次元を通して繋がる魔界(ヴィルパイアー)の地中核から、宝玉へ、そして刀身へと、魔界(ヴィルパイアー)の根源のエネルギーを呼び寄せている。

「レオジーク魔界中央暗黒大帝国剣斬!!! 超超超始斬!!!」

 これが魔界(ヴィルパイアー)の剣だ! 
 ゼグマは溜め込んだ力を一気に剣波として放った。

 暗黒の巨大な斬(いちざん)がどうどうと畝(うね)って猛進した。
 音速のような激しいスピードである。
 ジョーは光速の悟りで「すげえ、これは音速だ」と思っていた。

 しかし、ジョーは、光だった。
「ぐおあああああああああああああああああああ」

 そういって、斬った。
 それが何であれ、今のジョーに斬れないものはなかった。

 激しい爆発と爆音で、剣波が砕け散る。

 さらに、剣波に続き、ゼグマ本体を斬った。

「Χ光崩(かいこうほう)・・・
 単斬了斬(たんざんりょうざん)
 複斬始斬(ふくざんしざん)ツ・・・!」

 ザン!
 と、先程一つ斬った。
 これが単斬(たんざん)。

 ザザザザザザザザザザザン!!!!!!

 続いて七万九千四百回斬った。
 これが複斬(ふくざん)。

 斬られたゼグマが宙に舞う。
 峰打ちなので肉体は存在している。

 合計七万九千四百一斬を受け、舞い上がったゼグマをバックにジョーは言った。

「ゼグマ敗れたり・・・!」

 すると、舞い上がったゼグマの肉体はしゅるしゅると変化した。

 さきほどまでゼグマに肉体の操作を許していた存在が、再び肉体の主導権を取り戻したのだ。

 シュタッ。
 器用に着地し、その存在が言った。

「今度はこのジャクロスが相・・・」

 ザン! ザザザザザザザザザザザン!!!!!!

 またジョーは、一回と七万九千四百回斬り、言った。

「ジャクロスも敗れたり・・・!!」

 ジャクロスは斬られ舞い上がりながら、ちょっと思い出したことがあったので、こんなことを言った。

「・・・影・・・狼丸(かげ…ろうまる)・・・
 ・・・子供の頃・・・我が虫取りに付き合わなかったと言ったな・・・」

「・・・おー・・・」
 と、ジョー。

 斬られすぎて宙に舞い上がっていくジャクロス。

「確かにいつも行かなかった・・・。だが・・・覚えていないか?
 一回だけ行ったぞ。三人で」

 ジャクロスは舞い上がり舞い上がり、ふわっとそこで舞い上がるのを止めた後、落下を始めた。

 ジョーが答えた。

「ジャクロス。
 あの日は・・・てめーが虫を一番捕ったから、オレ様ん中じゃナシだったんだよ・・・」

 落下しながらジャクロスが

「『だった』と・・・過去形なのだな・・・兄弟・・・」
 と訊くと、

「いまの七万九千四百一斬に免じてナシからアリにしてやんよ、兄弟・・・」
 そう言ってジョーは目を閉じた。

 思い出す。

 麦わら帽子。
 網。
 虫籠。
 虫。
 お弁当。
 笑顔の三人。

 ザシャア・・・。
 ジャクロスが床に衝突した。

 ジョーは

「あの日・・・楽しかった。
 なのにてめーはその後・・・、全てを壊しちまったんだ・・・」

 と言い、「レビテルの箱」の上にあるカールとマッキーを手に取った。

 ジョーがすこし目をそらすと、城の下で、ジャクロスが滅ぼしたドン・グリーランの都が見える。

 ついさっきまで盛んに出ていた白煙は少なくなっている。エクスジードが作業しているのかもしれない。

 キュポン・・・!
 マッキーを鞘から抜いた。

「だけど、今ならわかる。てめーは楽しかったからこそ苦しんでいたんだな。
 ゼグマもジャクロスもそうだ!! かけがえのねえ兄弟だ!!
 だけどオレ様はいま、ぶった斬った!!
 ぶった斬っちまった!!
 そんでいて、涙も・・・でねえ・・・。涙が・・・ねえ・・・!!」

 そんなジョーの言葉に返事をする者は、いなかった。

 そこには、深く傷ついたジャクロスが横たわっていた。

 ジョーはジャクロスのそれぞれの頬に「萌」「え」と描き、鼻にカールを詰め、それを三秒深刻な顔で見つめた後、カールだけ抜いてやり、またそれを三秒深刻な顔で見つめた後、言った。

「もうオレ様は影狼丸(かげろうまる)でもザンでもねえ・・・。
 ジョーだ。
 光刃武士(コウジンウォリアー)ジョーだ」

 そう言って刀を鞘に収めた。



「大了斬・・・!!!」



 くるりとジャクロスを背にした。

 仁王のように立った。




 強 さ あ り




「皇闘士(クラウンバトラー)、敗れたり・・・!!」



 こうして、ジョー=イチモンジは、勝った。


BACK 2 NEXT
LEGEND OF THE WINDMASTER ―――FIGHTER―――
CHAPTER 13 -RAINNING VII-
↑↓
LAST CHAPTER MENU
LEGEND OF THE WINDMASTER ―――FIGHTER―――

風帝伝説FIGHTER WEB
LEGEND OF THE WINDMASTER ―――FIGHTER―――

SUZUNOYA-ZX